第2話 推しのパティシエ
桃花の唯一の癒しは、
『patissrie Luxe(パティスリー ルークス)』
の洋菓子だ。
大学でどんなに嫌なことがあっても、
ルークスのケーキが桃花を癒してくれた。
ルークスは大学から徒歩で行かれる
細い路地裏の個人経営の店だ。
定休日は水曜日なのだが、今日は木曜日だ。
(今日も、ルークスに寄っていこう)
「いらっしゃいませ」
ルークスのバイトのお姉さんが
優しく桃花に声をかけた。
ルークスの店内は6畳ほどで狭く、
丸い2人がけの小さなテーブルが2席あり、
会計の下のショーケースに
ケーキやクッキーなどが並んでいた。
「ご注文は」
「へーゼルショコラとモカ」
「かしこまりました」
ヘーゼルショコラの美味しさも楽しみだが、
桃花の楽しみは他にあった。
厨房の中にいる店長、三沢純である。
ルークスのホームページに載っている、
マスクをとった顔を見た瞬間、
桃花は彼の推しになった。
背はさほど高くはないのだが、
色が浅黒く、ギリシャ彫刻のように鼻が高く
端正で美しい顔立ちをした男性であった。
2番テーブルからの方が、
厨房の中の彼の表情がよく見える。
テーブル上の鉢植えの陰にスマホスタンドを置き、
スマホで厨房を動画撮影しながら、
ケーキとコーヒーの到着を待つ。
(今日も美味しかった)
店内を出て、
桃花は同じく広尾にある、両親が用意した
タワーマンションへと帰っていく。
ルークス店内で撮影した動画を編集し、
『推し活@ルークス』というアカウントで、
ツイッターには写真とツイートを、
YouTubeには動画をアップした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます