第11話 やりたい事
-side リアム-
「本当にいいの?」
「ああ。うん。ノアの側近になるよ。
ただし-----」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
馬車に乗りながら俺は、昨日のことを思い出す。最後の中継地点に止まった俺は、今度は自分から食堂に呼び出し、ノアの側近になると伝えた。
これまで見た感じ、計算高くはあるけど、性格はいい少年という感じだったからだ。
元より、断るメリットはない提案だったが、一応人柄を見とこうと思って返事をしていなかっただけだった。
返事をして、気が楽になったこともあって、昨日は、久々にぐっすり寝れた。
それはそれとして、俺たちがこれから住むことになる国、ドライ王国が見えてきた。
アインス王国とは比べ物にならないくらいの大きさの建物ばかりだ。
パッと見ただけでも、アインス王国との差は歴然。大国であることがわかる。
「(そういえば、こっちの世界の入国管理ってどうなってるの?)」
『水晶に手をかざして、青く光ったら大丈夫、黄色く光ったら面接、赤く光ったら入国拒否だぜ』
なるほど。こちらでは入国拒否すべき犯罪者かどうかを水晶で判断するらしい。
便利なものだ。
『赤い水晶みんなで通れば怖くないって言ってる犯罪者の奴らもいるみたいだけどな!』
「(物騒すぎるだろ。こっちの世界の冗談)」
そんなことを話しながら、入国審査まで待っていると、俺たちが呼ばれる。
「まず初めに、リアムさん」
「はい」
俺は水晶に手をかざす。無事に青く光った。
「通っていいですよ」
よかった。無事入国できたみたいだ。
「続いて、ノアさん」
「はい」
水晶が青く光る。
「通って、ん……?しょ、少々お待ちください!上を呼んできますんで!」
職員が慌てた様子を見せて、その場を離れる。
「もしかして、この水晶って鑑定の機能とかある?」
「ご名答。まあ、わかるのは年齢と本名くらいだけどね」
「……!!はーー。これ絶対騒ぎになるやつだ。というか、絶対わかってただろ。確信犯だ」
「あはは。そろそろ、正体を明かしてもいい頃かなって」
「クソガキめ」
「褒め言葉をどうもありがとう」
そんな話をしていると、勲章が沢山ついた制服姿の偉い人が急いでやって来た。
「失礼いたしました。ノア様。すぐに迎えをご用意致しますので。お連れの方々もこちらへおいでください」
そう言って、俺たちを別の場所に案内した。さっきの案内所よりも、装飾品が豪華で掃除も行き届いている場所だ。
「ここって……」
「貴族用の入国管理所だよ。全く、そんなことしなくてもいいのにね」
ノアはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「やっぱ、お前クソガキ」
その後、全員に事情を説明して、キールが青ざめて機能不全になるなどのトラブルが起きた。商業ギルマスとしてノアを散々叱っていたから仕方がない。少し同情した。
だが無事全員、手をかざした水晶がしっかり青く光り、入国が許可された。
ノアの迎えが来るまでみんなで待ち、入国管理の出口で見送る。
「では、僕はこれで。後日みんなを王宮に招待するよ」
「うん。またね」
「うん。また」
そう言って、ノアは馬車に乗り込むと風のように去って行った。
「さて、俺たちも宿を探すか」
アレクが切り出す。
「その前にこっちの冒険者ギルドにも顔を出したいな」「あたしも」「そうね」
レオン、サリー、マリーは冒険者ギルドに行きたいようだ。
「では、これからは自由行動ということでどうでしょうか?何かあったらアレク経由でご連絡ください」
リサがそう言う。全員満場一致で賛成だった。みんなとはここでお別れのようだ。
ここ1週間四六時中一緒だったため、少し寂しいけど。
「そんな寂しい顔するなって。何かあれば、俺のとこに来い。飯作ってくれれば弟子にしてやるから。じゃあまたな!」
レオンが俺の頭をくしゃくしゃと撫でながら別れを告げた。レオンの大食いは今回のメンバーの中で、群を抜いていた。
やはり、よく食べて、体が強い人間がSランクになるのだろう。
飯を作ってくれる代わりに、弟子にならないかなんて言われたけど、まだ5歳児だし闘うのはなと思って断ってたのだ。
その時は冗談だと思っていたけれど、今の感じを見るに多少は本気なのだろう。
「さて、僕たちも行こうか」
「はい。リアム様。さっきは言わなかったのですが、宿ではなく最初は商業ギルドに行った方がいいと思われます」
機能不全になっていたキールがそう言った。復活したようである。
「なんで?」
「長く滞在するのだったら、家を借りる方が安いからです。そして家を借りるには、商業ギルドがおすすめです。商業ギルドの中にある不動産ギルドで借りることができます」
「でも、ここは国境地帯だよね?どうせ後で王宮に行くんだったら、家を借りる必要ってあるの?」
「王宮に招待されると言っても2、3週間程度は先のことでしょう。でしたら、宿に泊まるよりもいいかと……」
確かにそうなのかもしれない。
「確かにその通りだな。なら俺らも一緒に住もう。レオンには後で言っておく」
アレクがそう言った。どうやらしばらくみんなでシェアハウスになりそうだ。賑やかでいいな。
そんなこんなで、俺たちはドライ王国で家を借りることになったのだった。
ここから、俺のこの世界でやりたいことが始まる。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
-side ノア-
「ふう。側近になってくれたようで良かった。だけど、まさか側近になる条件がアレとは」
ノアは昨日のことを思い出して笑った。
「本当にいいの?」そうノアがそう聞いた時、リアムはこう答えた。
「うん。ノアの側近になるよ。ただし、条件がある」
「条件?」
「うん。今世での俺の人生の目標を決めたんだ。“食事を通して、出来るだけ多くの人を笑顔にすることだとね。”今回、1週間の旅を通して俺が学んだのは食事の偉大さだよ。
亡命できるか、みんなが不安そうにしている時でも、食事を食べている時は幸せそうな顔をしているなと思ったんだ。それを見てもっと、多くの人を笑顔にしてみたいとも。
俺に神様達は、たくさんのスキルを与えてくれたけど、だからと言ってそのスキルを私腹を肥やすためだけに使っては勿体無いような気がしてね。出来るだけ人のために使いたい。そして、ノアにも恵まれた才能を多くの人を幸せにするために使ってほしい。
それが条件だ」
流石にあの条件を言われた時、ノアも面食らった。そして、目の前の人の自分とは違った価値観にとても興味を持った。
「いい相棒を見つけられてよかった」
ノアは心からそう呟くと、遠くの方に見える王宮をぼーっと眺めた。
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-1章完-
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