第10話 国同士の関係

-side リアム-




 翌日、日が昇ると同時に俺たちは目覚めた。あの後、「考えても仕方ない」と言う結論に至り、サンドイッチを作って寝た。

 といっても、カツを揚げる気力も無くなったので具材はハムとチーズだけになってしまったのだが。

 そして、朝食の消化にいいバナナを食べた。この世界の市場にもあったからみんなの前で食べても大丈夫だろうというのが理由だ。すると、ギルマスのキールが様子を見にきた。



「リアム様。体調はよろしいでしょうか。宿泊地はここ合わせて全部で3地点で、後2つ中継地点を通ったらドライ王国でございます」

「問題ない。分かった」



 キールが去った後、朝食を食べ終わったので、準備を開始する。



「(後2つか。意外と近いんだな)」

『ああ?それは当たり前だろ』

「(え、なんで?)」

『そりゃお前、「ルー兄教えて」って言ったら教えてあげなくもないけどよ?』

「(急に酔っ払ったおっさんがやるようなだる絡みきた)」



 どうやら、お爺ちゃんの件をまだ根に持っていたらしい。



『あ、言ったな。そういうやつには、洗脳をしてやろう!念話は洗脳に最適だからな!』

「(聞きたくなかった。そのゲスすぎる念話の使い方)」

『俺は清廉潔白なお兄さんだぞー!』



 もうその返がね。悪い大人なんよ。

 そんな話をして準備を終えると、タイミングを見計らったようにノアがきた。



「昨日はよく眠れましたか?」



 眩しい笑顔で言ってくる。



「ええ、とてもよく」



 満面の笑みで、そう言って俺は謎に手を差し出す。



「?」



 すると、向こうも不思議な顔をして握手してきた。よしっ。



「(ルーカス)」『はいよ』



 ルーカスが俺に身体強化の魔法をかけてくれる。俺は握手している方の手に思いっきり力を込めた。



「イダイイダイイダイ……」



 骨が折れたら困るのでこれくらいにしておこう。仕返しとしてはちょうどいいだろう。



「ちょっとは痛い目見てもらわないと。昨日散々悩まされたしね」

「だからと言ってここまでする必要はないよねっ!」



 ノアは涙目でそう言ってくる。ちょっといい気味だ。



『まあ、いいじゃねえか!』

「……!!この魔法は念話だね。はあ、それで5歳児に10歳の俺を握力で圧倒したのか。神竜、恐ろしいね」



 あ、まずい。ここで、神竜の力を測る材料を相手に与える訳にはいかない。有耶無耶にしよう。



「いやー。それほどで……」

『そうだ!俺の力を思い知ったか。知ったんなら、こいつを困らせる真似はするな!』



 あちゃー。



「……うん。わかった。それは置いといて早く馬車に乗ろうよ」



 さっきとは違い腹黒い笑みを浮かべて、案内する。



『おう。いくぜ。リアム、何変な顔で、こっち見てんだよ』

「あ、ごめんごめん」



 そんなことにルーカスは気づかずに馬車の方に向かっていくと俺を急かした。



「君も色々あるみたいだね」

「誰かさんのせいでな」

「褒め言葉として受け取っとくよ」



 この底知れぬ腹黒王子相手に俺1人で渡り歩いていけるのだろうかと内心ため息をつきながら、俺は馬車の方向に歩いて行った。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 道中暇だったのでリサに、ここら辺の土地の事情について、話を聞いた。



「アインス王国は、地政学的には2国間の緩衝地帯。つまり、大国同士が直接、国境を接しないようにするための国なんです」

「へー。なんで直接接したらダメなの?」

「大国同士が直接国境に接していると、少しのいざこざが大規模な戦争に発展しかねないからです」

「あー。確かにそうか」



 俺は納得した。



「だけど、そう言った国は政治が腐りきっている場合が多いんだよな。自分の言うことを聞く独裁者だから、大国にとって都合はいいが、国民にとっていい独裁者とは限らない……と」



 アレクが付け加えてくれる。

 彼によると、今回のクーデターは、大国であるドライ王国とフィーア王国の間に位置するアインス王国は、今までフィーア王国の言うことを聞いていた。

 しかし、経済的に急成長しているドライ王国の言うことを聞いた方がいいと思った、政府のお偉いさんが、軍と結託してアインス王国寄りの王様を引き摺り下ろすために起こすのだという。



 ドライ王国が経済的に急成長したのは、ここ20年くらい前。

 今の国王が実権を握り出したくらいかららしい。特にここ5年間の成長速度は凄まじく、他国は非常に脅威に思っているようだ。

 時期的に、ここ5年の成長はノアのおかげが大きいのかもしれない。

 一通り話を聞いた後、昨晩の疲れが溜まっていたので、再び寝る。

 すると次に起きた時には、辺りが暗くなっていた。昼夜逆転生活の始まりである。



 それにしても、寝る場所が馬車だったり、お世辞にも質のいいとは言えない寝袋の中だったりするので体がバキバキだ。



『飯作るぞ。飯』

「そうだね。僕も楽しみだよ」



 非常に疲れているが、今日もルーカスは寝させてくれそうにないな。

 ちゃっかり、ノアまでここにいる。



「あんなご飯が食べれるんだったら、夕飯抜いて夜中に食べに来るよ」と図々しいことこの上ない発言をされた時、絶対断ろうと思ったのだが、『お前もそう思うか!それは正解だぞ!』とルーカスに言われ、断れなくなったのだ。

 しかも、なんか2人で親睦を深め始めた。

 流石有能王子である。手強い。



 昼と夜は昨日よりも多めに作ったのにも関わらず、大食い冒険者たちに全部食われたので、昨日よりもさらに多めに作ろうと思う。



「今日の夜食は何を作ってくれるんだい?」



 遠慮もせずに、ノアが言う。

 正直言って、めんどくさいことこの上ない。だが、これから雇い主になるかも知れない人を無下に扱うことも良くないだろう。

 とりあえず、肉でも焼いとけば喜ぶか……?年齢も10歳だし、喜ぶだろう。と思い、イメージを浮かべ、冷蔵庫から取り出した。



 今回調理するのは、近江牛だ。

 松阪牛、神戸牛、近江牛は日本の三大和牛である。

 神戸牛や松阪牛もありだと思ったのだが、夜中にそこまで脂っこい肉を食べてもし翌日に響いたら大変だと思い、選ばなかった。

 その点、近江牛はおすすめである。さっぱりと食べられるからだ。

 ……っと。なんか、セールストークみたいになってきてしまったな。



 とにかく、お肉を焼く。

 ステーキは、とりあえず塩と胡椒を振って焼くだけで美味しいから料理する側としては非常にありがたい。ご飯は一昨日炊いたのを冷凍していたので、一緒に食べる。

 この世界ではお米は珍しいらしく、ノアも目を丸くしていた。

 いざ実食である。



 パクリッ…。



「うーーーまっ」『うますぎる』

「……」



 ノアは無言である。

 ……っと思ったら、涙ぐんでいる。



「ど、どうした?」



 なんか悪いことでもしたか?



「い、いや。その……、最近こんな美味しいご飯食べてなかったから。その、美味しい食べ物をたくさん食べれた故郷を思い出して……」

「そっか。いっぱい食べな」



 気丈に振る舞っていてもやっぱり10歳なのだ。親元を離れて寂しいのは当然である。

 まあ……、故郷が王城で美味しいものを沢山食べれたっていうのは特殊かもだけど、それを突っ込むのは野暮なのだろう。

 この1人の少年が早く親元に帰れますようにと心から願うのであった。



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