第6話 商業ギルドでの衝撃情報
-side リアム-
「なあ?これどうしよう?」
目の前にあるオークの肉以外の素材をどうするか考える。
『商業ギルドで売ってみればいいんじゃねえか?俺が亜空間で保存しといてやるよ』
「確かにそうだね。ありがとう」
『気にするな。次もうまい飯頼むぜ!』
「あはは。(知ってた。それが目的って)」
あの後、腹一杯になった俺たちはそのまま二度寝をした後、昼ごはんにトンカツを作って食べた。
俺のスキルの食堂に現れる食べ物は、地球上のものと同じらしく、ギルドで食べたのとは違い、衣はいつものサクサクとした感じで美味しかった。
こっちで食べたカリカリしたのも美味しいからどちらがいいとはいえないんだけど。
今回はゴーレムも活用できたため、楽に調理できた。
ピーンポーン。
『お、この気配、リサがきたみたいだぞ』
「おっけー」
午後からの商業ギルドには掃除担当メイドでアレクの妹のリサも同行することになっている。
『俺は透明になるぜ!』
「うん。わかった」
ルーカスは俺以外の前には姿を現さない。
『ドラゴンが人前に現れると面倒なことが起きるからいやだぜ!』だそうだ。
話の口ぶりからすると、過去に経験済みと言ったところだろう。
そんなことを考えながら、ドアを開ける。
「こんにちは。リアム様。兄から話は聞いております」
「こんにちは。今日はありがとう。よろしくお願いします」
軽く挨拶した後、即座に目的の商業ギルドに向かう。
「そういえば、商業ギルドってどんなことしているの?」
「そうですね。大体の商会が加入しているギルドで、主な役割は情報屋ですかね」
「情報屋?」
「はい。市民の生活が苦しくならないよう、物価が上がりすぎないように調節するために、どの要素がどれだけ足りないかを把握しています。もちろん、その要素の中には今回の目的である、人材も含まれますよ」
「なるほど」
つまり、いろいろな店や人の利害関係を調節しているというわけか。主な仕事は卸売業や、就職斡旋といったところなのだろう。
『別に仕事を探さなくても、飯屋開けば、主人なら絶対大丈夫だから心配してないけどな!』
「(そうだけど。その手を使うのはなあ)」
なんせ、[絶対食堂領域]を使えば原価無料で、無限に飯を提供できるのだ。他の店では、太刀打ちできないだろう。恨まれそうだからこの手を使わないことを願いたい。
そんなことを考えていると、商業ギルドに着いた。なんというか、ギルドっていう割には質素な建物だ。
『やっぱ、商売やるっていう連中はケチな奴が多いんだな』
「(そうだね。そうだけど、商人の前で言ったらダメだからね)」
『心配しなくても、姿は見せないつもりだぜ』
「(そうだった。なら安心か)」
俺がルーカスとそんな話をしている最中に、リサが受付の人に話を通してくれる。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
しばらくすると、煌びやかな洋服に包まれた恰幅のいい男性が出てきた。
「はじめまして。リアム様。私がこの町のギルドマスターのキールでございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
営業スマイルで挨拶をされる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
『うっわ。こいつ、絶対私服こやしてるタイプのギルドマスターだぜ。建物の値段より着ている洋服の方が値段が高いとか』
ルーカスが背後で何か言っているが、頑張って無視して返事をする。
実は俺も同意見だったりするので、出来るだけ表情に出さないことを心がける。
「して、本日は仕事をお探しということで」
「はい」
「そうですね。私も色々探したのですが、なかなかいい案件があまりなかったです」
「え!?そ、そこをなんとか」
『やはり、そうきたか』
実はこれは、予想の範囲内だ。
商人は自分の有利なように話を進めるために、最初からいい案件があります、とは言われないだろうとは思っていた。それでも、あえて知らないふりをして演技する。
「うーん。それがですね。本当にないんですよ。今あるのは、どぶさらいとか、荷物運びとかの肉体労働のみなんですよね。
流石に、伯爵家の当主、クズガー様の息子であるリアム様にそんなことをさせるのは、このギルドの評判が落ちてしまいます」
『うーむ。絶対嘘だな。なんとなく、裏がある気がする』
「(そうだな。というか、父親の名前クズガーって言うんだな。いやーな名前)」
『それは仕方ねーだろ。ともかくこれ以上、このギルマスと話しても無駄だぜ。とっととズラかるぞ』
そう言って、ルーカスは俺の肩の上に止まった。すると突然、「ひっ。も、申し訳ございません。」と相手が腰を抜かした。
「え。(こら、ルーカス。なんかしただろ)」
『ちょっと、殺気をぶつけただけだぞ。別に何もしてない』
「(……それは、やってんねえ)」
『やってねえって言ってんだろ』
「(そう言う意味で言ってない)」
『??』
俺たちが裏でそんな言い合いをしてると、キールが勝手に一人で話し出した。
「じ、実は本当に仕事を紹介することができないのです。--というのも、この国、アインス王国はおそらく、近いうちに滅びることになるでしょう。今の政治中枢組織は腐敗しきっているのです。おそらく、3日間以内にクーデターが起き、この国は混乱いたします。私達も、その対応に追われているのです」
『「「……!!」」』
「それは本当か」
仕事を探すどころではない情報が出てきたんだが。
「え、ええ。確かな筋からの情報でございます。ですから、お許しください」
『こいつの言っていることは本当だと思うぞ!俺は嘘を見抜けるからな!」
ルーカスがそう言うって言うことは十中八九本当なのだろう。商業ギルドに来て正解だった。破格の情報である。
「そ、それはいいんだけど。あの……、もしそうなら、俺の父親はどうなるかわかる?」
「そ、それは申し上げられません」
「(ルーカス)」『あいよ』
少し可哀想だが、仕方がない。
「ひっ。おそらく、クーデターが成功した場合、良くて斬首、悪くて火炙りかと。もちろん、その家族も。なので、リアム様も他国に亡命した方が良いかと」
「……。そうか。情報提供感謝する」
俺は、そう言って、お金を出す。
ざっくり、10万ほどだ。
「情報提供代と依頼代だ。俺を商人に紛れさせ、他国に逃して欲しい。明日までにだ。
断ったら……、わかるよな」
「は、はい。すぐに手配いたします」
脅しているので悪いが、それどころではないので割り切る。明日の朝までに用意するとのことだったので、この後は冒険者ギルドに寄ることにした。アレクに会うためだ。
「ごめん。リサ。巻き込んでしまって。
このことは他言無用でお願い」
人の口に戸は立てられないので、効果はわからないが、一応口止めをしておく。
「いえ。私も兄と一緒にこの国を出ようと思います。私はリアム様付きの伯爵家に雇われたメイドでございます。伯爵家も無くなりますし、そもそも、リアム様がいなくなられた時点で無職でしょう。でしたら、安定している国に移住をして、仕事を探した方が良いかと」
「……そうか」
俺はふと考える。食事は無制限に提供できるのならば、別にリサ一人雇うくらいならば、できるのではないかと。
「ねえ、リサ。俺と一緒に来る気はない?いい生活は期待できないけど、食う当てはある」
「そ、それは本当ですか?」
「うん。飢え死には絶対しないよ。それ以外は保証しかねるけど」
「十分です。兄に相談してみます」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
そんな話をしていると、冒険者ギルドに着いた。アレクを探すと今日も中にいた。
今は、4時なのでちょうど冒険者が依頼から戻ってくる時刻だそうだ。
「お、リアムにリサじゃねえか。商業ギルドには無事に行けたか?」
「ちょっと、お兄ちゃん。リアム様のことを呼び捨てにするなんて。すみません、うちの兄が」
「いえ、かまいません。ところで、話があるので場所を変えたいんですが」
「その様子だと、何かあったようだな。わかった」
人の少ない場所に移動し、ことの顛末を説明する。話していくうちに、アレクのだんだん表情がだんだん険しくなり、聞き終わると、「はー。」とため息をついた。
「はーー。やはりか」
「知っていたんですか」
「まあ、これでも、それなりの冒険者だからな。それなりの情報は集まってくる。3日前くらいだろうか。その噂話を聞いた。その話を聞いたやつで、既に出て行ったやつは沢山いる。俺もどうするか迷っていたんだが、リサがいるしなと思ったんだ。両親が死んだ今、唯一の家族だしな」
「んー」
「だが、今の話で決断したぜ。お前と一緒に俺らもでる。これからよろしくな」
「あ、ありがとうございます」
上手いこと、アレクも口説き落とせたようだ。強い冒険者がついてくるなら、心強いし、いいな。
「さて、明日の朝出発だったよな」
「はい」
「わかった。ちょっとパーティメンバーとも話しつけてくるわ。じゃあ、また明日」
そう言うや否や、去っていった。
「ああ、ちょっと!まったく、お兄ちゃんったら。申し訳ございません。うちの兄が。偉そうに」
「大丈夫だよ。それよりリサも準備があるから早く帰った方がいいよね?」
「そうですね。すぐに支度します。では、また明日」
「うん」
そう言って、別れる。
帰ると、ちょうど残りの人の世話係が帰るところだったので、同じことを話した。この二人も両親が死んでしまった双子の兄妹なのだ。俺が話すと、彼らもクーデターが起こることを知っていて、俺にバレずに国を出るところだったみたいだったので、一緒に出ることになった。
結構有名な話だったみたいだな。……というか、俺の周りが情報通なだけなのか?
そういえば、明日、商業ギルドのギルマスのキールは俺一人での亡命だと思っている気がする。まあいいか。
そんなことを思いながらも、急いで家にある財産は全て、ルーカスの亜空間に入れた。
色々あって疲れた俺はその日、泥のように眠ったのだった。
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