第3話 なぜか分からない
-side リアム-
町に出ると、賑やかだった。
俺がいる町、アルケーはとても栄えているらしい。建物は殆どが煉瓦造りで、お店は屋台も多い。
魔道具屋をチラホラみるに、ファンタジー系の異世界に来たということだろう。
「……ってそういえば、ルーカスが町の中で姿を見せたら大騒ぎになる気がする」
『大丈夫だ、主人。俺は姿を消せるんだ。主人との会話も念話に切り替えることができるしな!聞こえるか、俺だよ、俺。俺』
ルーカスは、直接脳内に語りかけてきた。
「うお。(何これ?頭に声が響いてる。確実に詐欺電話だ。誰がこんなことしているんだ?)」
『俺だ!その頭に響いている声が俺が念話という魔法を通して伝えている音だ。主人も念話を使えるみたいだな!』
「(お前か!俺も使えるってことは、思っている気持ちが声になって相手に聞こえているってことか)」
『ただ思っているわけでは伝わらないぞ。魔力が込められている時だけ、自分の伝えたいことが伝わる魔法だからな』
「え?(どういうこと?)」
『おそらく主人は、伝えなくていいことにも無意識に魔力を込めてしまっているから俺に聞こえるのだと思うぞ。魔力をイメージして引っ込めたら念話は辞められる』
「ふむ」
俺は体内にある魔力をイメージする。すると、体内に何か流れているのがわかった。
それを意識的に引っ込める。
「(これで大丈夫かな?)」
『お、念話が切れたぜ!成功だ』
どうやら、これでルーカスに思考が筒抜けということはないらしい。いや、別にやましいことは何もないけどな。一応の防衛策だ。
『その様子だと、知られてはいけないやましいことがあったみたいだな!』
「い、いや。ないから。というか、今、念話を切ったはずなんだけど」
『念話は途切れても思考は読めるからな!
思っていることは筒抜けだぞ!』
「は、はあ。(さらば、俺のプライバシー。)」
ルーカスが姿を消しているため、さっきから、俺が独り言を話しているように見えるのか、気づいたら、視線を集めていた。
『やっと気づいたか!遅いな!』
ルーカス。気づいてたら言ってくれたらよかったのに。
恥ずかしくなって、急いでその場を離れる。しばらくすると、大きい建物が見えた。
「あそこは?」
『冒険者ギルドだ。興味があるのか?もっとも、登録できるのは、10歳からだけどな。普通の人間が登録するのはもっと遅くて15歳かららしいぞ!』
「(たしかに少し興味があるな。中を覗いてみるか?)」
『いいな。俺も中に入ったことはないから、楽しみだ!』
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
というわけで、冒険者ギルドに入ろうとする。そんな時、中からガタイのいい男が出てきて、「どうした坊主?ここはお前のようなガキが入っていい場所じゃねえぞ?」と怖い顔をして話しかけてきた。
「あ、あの……!冒険者になるつもりはないのですが、少しだけ中を見ることはできませんか?」
「あ?ああ……。そうだな。そう言うことだったら、……まあいいか。ついてこい」
どうやら、案内してくれるらしい。
見かけの印象によらず、親切なようだ。
男について中に入る。
中に入ると、むさ苦しい男の人たちでいっぱいだった。……いや、よくみると女性も結構多いな。雰囲気に流され、ぱっと見では全然分からなかった。
「あ、アレクさんがまたガキ連れてるぞ!」
「お、本当だ。ご苦労なこった」
「うるせえ。ガキが冒険者ギルドを見て回りたいって言ったから案内してるだけだ」
どうやら、この男はアレクというらしい。
「ところで、お前どこいきたいとかあるか?」
「いや、えっと。わからないです」
「そうか。なら、俺のおすすめから順番に回るか」
そう言って、最初に案内されたのは訓練場だった。
「わあっ!」
訓練場では冒険者たちが、タイマンをやっていたり、パーティー同士で戦っていたりしていた。
特に、目を引くのは魔法だ。
火や雷の魔法はとても映えていて美しい。
剣技や体術も見事なものだ。
素人の目から見てもすごいことがわかる。
ここでもアレクは、「おー。アレクさん。
まーた、可愛いガキたぶらかして」といじられていた。
どうやら、アレクが5歳くらいの年齢の子どもに冒険者ギルド内を案内するのは有名なことらしい。
訓練の見学を堪能した俺たちは、次は、ギルドの職員がいる場所に連れて行かれた。
「ここがギルドの職員が仕事をしている場所だ。事務作業はもちろん、解体された魔物の価値を鑑定したりしている」
「おおー」
たしかに、経験豊富な職員が鑑定している様子だった。
「隣にあるのが解体場だ。見てみるか」
解体場……、グロいのかなと思い、一瞬悩んだが、『何悩んでるんだ。面白そうだから行くぞ!』とルーカスに言われたので、中に入ることにした。
中に入ると、案の定グロさの塊のような場所だった。
俺が前世の記憶がないただの子供だったら、一生のトラウマものだろう。
『うわーー。うまそうだな!あの肉とか、超うまいんだぜ!』
一方、ルーカスはそうは思っていないようだった。
きっと食うことしか頭にないのだろう。
『む?今、なんかすごい失礼なこと思ってただろ?俺が食いしん坊の単細胞とか』
「(そ、そんなことないよ。別に)」
俺が返した返事を特に聞かずに、はしゃいでいたルーカスを、しばらく眺めていた時だった。不思議と頭の中にレシピが浮かんできたのだ。
なぜだかわからないが、あの肉は多分オークのバラ肉でキャベツと一緒に塩胡椒で炒めると美味しそうだなとか。
あっちに捨てられている肉はミノタウロスのタンの部分で、ごま油でさっと炒め、ネギ塩ダレをトッピングすると美味しいとか。
食材を見るだけでイメージができ、食欲が湧いてきた。涎が垂れてくる。
「お?この現場を見てその反応とは、お前、なかなか肝が据わってるな」
「い、いや。そう言うわけでは。(しまった。ルーカスと同じで食いしん坊だと思われてる)」
『やっぱ、失礼なこと思ってるじゃねえか!待てよ……?そうか。俺は飼い主に似て食いしん坊になっただけだったのかもしれないな。なら、俺はむしろ食いしん坊にされた被害者で、元凶は主人だな!』
ルーカスはさっきの自分がしてしまった行動の原因を他人のせいにしようと、一生懸命俺に罪をなすりつけようとしているのか、仕返しに俺を揶揄いたいだけなのかわからないが、悪い顔でニヤニヤしている。
「う……(うるさい。ルーカスは元からだろうが)」
はー。危ない危ない。危うく声に出るとことだった。
「……?どうした。ガキ。どうかしたか」
「いえ、なんでもありません」
「そうか。何はともあれこれで見学は終わりだ。最後に少し話でもしていかないか。
俺が飯でも奢ってやろう」
本当に親切な人だな。
「ありがとうございます」
というわけで、俺は、アレクについていくことにした。
『今は俺がいるから安心だけど、普通は知らない人についてったらダメだからな!気をつけろよ!』
ルーカスのごもっともなお叱りを受けながら……。
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