海上の城塞

 事態が動いたのは、次の年の春だった。

 詳しくは知らないが、国王陛下が命じていた『工作』がほぼ完了したため、レリジオ教国の首都攻略作戦が大々的に開始された。


 首都は海岸線から奥まった所にあるため作戦自体は陸軍が主体で行う。対して海軍は海上封鎖を行い、逃亡する敵を捕まえるのが役目だ。

 この海上封鎖には僕にも依頼が来ており、この作戦に対する王国の本気度が窺えた。


 しばらくは海上で待機していたのだが、作戦開始から半日もすると怪しい船がちらほらと出現する。

 その船に一番近い軍船が近づき、拿捕を行う。


 後から聞いた話だが、レリジオ教国の幹部が逃げ出す手口として先にチュルラ派の人間を脱出させるという方法が考案されていたらしい。

 もちろん、これは囮。囮を注目させている間にアバーテ派の人間が脱出しようとしたらしい。

 しかし結局、レリジオ教国はもはや派閥がどうのと言っている余裕はなくなっており、もはや我先に逃げだそうとする始末だった。


 そんなこんなで拿捕は順調に進んでおり、もしかしたら僕達の出番は無いのではないかとさえ思った。

 基本的に僕達は軍の協力者であって軍人ではない。なので軍の仕事を奪うのはあまり良くないのだ。

 僕達の出番は、あくまで普通の軍船では対処できない時が起きた場合のみなのだ。


 だがしかし、そういう時に限って何かが起こる物だ。


 ドカーン!! という轟音が突然轟いたかと思うと、海岸の岸壁が派手に吹き飛ばされていた。

 そして濃い煙の中から出てきたのは――海の上を進む城塞だった。


『どけ、異教徒ども!! レリジオ教国教皇が乗る『サンクタス・アバーテ』の前から消え去るのだ!!』


 なんとあの海上城塞、絶対に逃がしてはならない教皇が乗っているらしい。

 しかし、黙っておけばいいのにわざわざ拡声魔道具で教皇がいることをばらしてしまっていいのだろうか?


 こちらの軍船も必ず拿捕しなければいけない対象だと知り攻撃を仕掛けるが、一切傷を付けられなかった。

 それどころかあり得ない量の魔法を放たれ、次々に撃沈されてしまっている。


「どうやら、僕達が対処しなければならない敵のようだ。戦闘態勢に入るぞ!」


 今回の任務を受けるに当たり、きちんとへーゲル号を強化してきた。

 ポイントは、魔物の砦を攻略したときにゲットしたし、他の戦線との連絡のために行き来している際に魔物を討伐したりしたので、ホバークラフトや船の潜水機能で大量に消費したポイント分はすでに取り戻していた。


 強化内容だが、まず9600ポイントかけて装甲を2段階引き上げたし、3200ポイントで魚雷発射管を1セット追加した。

 そしてミサイルランチャーを船首部分に2基目を装備した。これは3000ポイントだった。

 さらに、20万ポイント使って秘密兵器も導入している。


『キャプテン、あの城塞型の船……『サンクタス・アバーテ』でしたか。どうやら強力な結界が張られているようです』


「なるほど。とりあえず、こちらも攻撃してみよう。どこかに穴があるかもしれないし、もしかしたらへーゲル号の武装であれば貫けるかもしれない」


 うぬぼれている訳ではないが、船の武装としてはへーゲル号に搭載されている物がこの世界では最も威力が高い。

 なので、ミサイルや大砲、そして魚雷を撃ちまくってみた。


 しかし、そのどれもが通用しなかった。

 サンクタス・アバーテの結界にはどこにも穴が空いておらず、非常に強固であったのだ。

 さすがに船底までは結界が張られていないようだったが、それでも非常に高い防御力を有しているようで、魚雷を使った海中からの攻撃も一切通用しない。


 そして、敵が船の城壁から魔法を撃ってきた。

 しかし、へーゲル号は全く傷つかなかった。魔法を全て魔力に戻し、吸収してしまったのだ。


「お兄様、確か以前、魔法攻撃でダメージを負っていたはずでは?」


『装甲レベルが上がりましたので、攻撃魔法の魔力を吸収し無力化出来るようになりました、メアリー様』


 メアリーの言うとおり、以前フグレイク連合近海に出現したレリジオ教国の艦隊に追われていた際、魔法攻撃を受けた。その時は確かに、へーゲル号にダメージが蓄積されたはずであった。

 だがマリーの説明によると、装甲レベルを一定以上に上げると攻撃魔法を吸収できるらしい。


「……なんか、大砲が見えるんだけど……」


 敵もバカではなかったようだ。

 キャンプスさんの報告を聞いてすぐ確認すると、敵が大砲を持ち出しているのが見えた。

 魔法攻撃が通用しないとみるや、すぐに実弾攻撃に切り替えるつもりらしい。


「とりあえず、一度距離を置くぞ。一度体勢を立て直そう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る