戦争の落としどころ
リリアーナさんを埋葬し簡単な葬儀を済ませると、僕達はすぐに出航の準備に取りかかった。
と言っても家の中の整理とセレーネさんの荷造りを手伝う程度だったけど。
それが終わると、僕達は出航した。
僕達の元々の任務である北方戦線を担当している国の軍との情報交換について報告しなければいけないし、リリアーナさんから聞いた情報やセレーネさんの事も話さなくてはならない。
そんなわけでアングリア王国への航路を現在進んでいた。
航海2日目の朝、船尾楼甲板で舵を握っていた僕の元へセレーネさんが
やって来た。
「船長、この船すごく居住性がいいわね。部屋は広いし、お風呂もあるし、暑くも寒くもないし」
「まぁ、授かり物の船なので」
セレーネさんは、この船で過ごすことについて特に不満はないようだ。
しかし、初めて会ったときと比べて言葉遣いがぶっきらぼうだな。もしかしたらこっちの方が素で、リリアーナさんの前でしかも僕達がお客さんだったから丁寧な言葉を使っていたのだろう。
「ところで、セレーネさんは……」
「さん付けはやめて。あと丁寧な言葉遣いも使わなくていいから。あんまりそういうのに柄が合わないのよ、私」
「わかった。セレーネは、リリアーナさんが亡くなって悲しくはないのか?」
セレーネは、リリアーナさんが亡くなっても動揺1つせず、泣くこともせず、淡々と弔いの作業を続けていたのだ。
ちょっとその辺が気になったのだ。
「お婆様はいつ死んでもおかしくない年齢だったし、そもそも数ヶ月前からほとんど気力だけで生きていた状態だったのよ。だから、覚悟はしてた」
すでにいつお別れしても不思議じゃない状態だったから、もう心構えが出来ていたのか。
そして気力だけで生きていたということは、それくらいセレーネの事が心配だったんだろう。
そんな中でセレーネに希望が見いだせたことで緊張が解け、安心して天に召された。そういうシナリオが一番近いのではないだろうか。
「言っとくけど、お婆様には感謝しているんだからね。そこの所、勘違いしないように。ところで、アングリア王国の王様にこれから会うんでしょ? どういう人なの?」
「……一度会ったら忘れられない、そんな人だよ」
「なにそれ。私はあんまり人と関わってこなかったけど、想像できないわ」
そう言われても、本当に第一印象が以上に強い人なんだから、忘れたくても忘れられない人なのだ。
「――なるほど。話はおおむねわかった」
王都に着いてから大至急国王陛下との階段のアポを取り、報告を行った。
ちなみに、セレーネは国王陛下を一目見るや、一気に言葉を失ってしまった。
まぁ、あの服がはち切れそうなほど筋骨隆々な肉体を見れば誰でもそうなる。
「しかし、驚きましたな。すでに皆殺しにされたとばかり思っていたロマナム帝国皇帝の血縁者が生きていたこと、それに古い書物でしか見たことがない初代皇帝が作った魔道具をこの目で見られたとは」
「その通りだな、クリーバリー。そしてこの戦争の落としどころも見えてきたという物よ」
国王陛下がクリーバリー軍務大臣と話すと、陛下はセレーネを見つめた。
「セレーネ殿。ロマナム帝国を復活させ、皇帝になる気は無いか?」
「はい。現状、それが最もよい策だと思います」
セレーネは二つ返事で了承した。
実は、セレーネはこういう話になるのを予期していた。
彼女は非常に聡い。リリアーナさんの教育の賜物か、本人の素質か、あるいは両方なのかはわからないが、セレーネは非常に頭が切れる人物というのが船旅を一緒に送る中で抱いた僕の印象だ。
おそらくセレーネは、自分の身の安全が保証される代わりに戦争終結と事後処理のための神輿になる事を理解し、そして覚悟していたのだと思う。
「協力、感謝する。だが、戦争終結に至るためには下準備が必要だ。特に、今から行う作戦はな。クリーバリー、すぐに工作の準備を」
「わかりました。直ちに具体的な作戦の検討に移ります」
「頼む。それとセレーネ殿、王宮に部屋を用意させる。しばらく、ゆっくりするとよい」
この日から、王宮の中は非常に慌ただしくなった。
そしてこの会談に参加した一人として僕は思った。まもなく、この戦争にケリが付くのだと。
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