帰国

 3日ほど休暇を取り、スーハウの街を観光していた。

 ロングシップを使っている国だけあって、前世の北欧に近い町並みで歩いているだけでも楽しい。

 他にも見所や食事、お土産の物色も出来て非常に満足だった。


「ま、帰ったら大忙しになるだろうけどな」


「それを言わないでよ、エリオット」


 休暇中、僕達が鹵獲した不審船の調査や要塞への攻撃(もぬけの殻だったので実質ガサ入れ状態だったらしいが)を行った結果、大変なことがわかった。

 不審船の正体はレリジオ教国の船で、装備・乗組員や押収した文書の解析から、レリジオ教国が今までに無い行動を取っていることが判明。

 通信魔道具を使って各国へ情報を共有した。


 当然、我らの母国アングリア王国も例外ではない。

 きっと今頃、レリジオ教国への対応でてんやわんやな状態なのだろう。


 そして僕達も否応なく巻き込まれる。

 ヘーゲル号は世界一強い船であることは確かだし、これからも強化次第でさらに強くなる。

 しかも、代々レリジオ教国の船団からアングリア王国を守ってきた貴族家の1つ、コーマック家の養子だ。対レリジオ教国の作戦に参加させる口実はいくらでもある。


 僕としては母国を守ることに異論は無いし、いくらでも協力したいと思っている。

 問題はいつ終わるか、と言うことだ。

 さすがにいつまでも軍事行動に協力しているのは辛い。


 僕は貿易や輸送といった商船として活動している方が性に合っている。

 戦闘に参加するのは、あくまで船が危険にさらされたときかハンターからの依頼があったときに限りたいのだ。

 戦争に参加するとなると、自ら危険な戦闘へと突っ込んでいかなければならない。

 簡単にくたばるつもりはないが、なるべくなら平和的に活動していたい。戦争はなるべく避け、不可避であればなるべく短く終わらせる。


 僕に限らず、多くの人がそう思っているだろう。


 さて、もうすでに僕達がヘーゲル号に乗り込んで出航するだけで良いようになっている。

 すでにサルマント支部長の指示で海運ギルドが仕入れる商品を代理で(しかも大分色を付けて)注文してヘーゲル号の船倉に積み込んでくれたし、他に航海に必要な食料や消耗品、日用品を運んでくれている。

 それと、この前の戦闘でヘーゲル号が沈没する可能性が見えてしまったため、400ポイントかけて装甲を1段階引き上げた。


 というわけでヘーゲル号に乗り込もうとしたところで、呼び止められた。


「コーマック船長」


「サルマント支部長、どうされたんですか?」


 呼び止めたのは、サルマント支部長だった。


「今日スーハウを発つと聞きまして。お礼を兼ねてお見送りをしようかと。あと、この者達が言いたいことがあるそうなので」


 サルマント支部長に促され前に出たのは、ここの港に着いたときに不審船の仲間だと勘違いして僕達に突っかかってきた男達だった。


「その……俺達の浅い考えで不審船扱いした上に、危害を加えようとしてしまった。本当に申し訳ない」


 男達は頭を下げた。

 まぁ別に許してやってもいいが、そのまま無条件に許すというのも引っかかる物を感じる。

 しかし金銭や保証を要求したいわけではない。


「今回の件はこれで水に流してもいいですが――気をつけてくださいよ。あの時は余裕がなかったからあのような行動に出たのかもしれませんが、最悪訴えて莫大な慰謝料を取られてもおかしくはなかったですし、場合によっては捕まっていたかもしれません。今後は、きちんと旗を確認して適切な行動を取ることをおすすめしますよ」


 忠告する体で最悪の事態の予測を伝え、遠回しに脅した。

 特に慰謝料や逮捕の可能性について話したときは、大の男の顔が青く震えていたので、脅しとしては成功と思っていいだろう。


「ではサルマント支部長、お世話になりました。我々はアングリア王国への帰路に就きます」


「無事帰国出来ることと貿易の成功をお祈りしています」


 そしてヘーゲル号に乗り込み、僕は船尾楼上の舵輪に手を掛けた。


「タラップ収納、錨を上げろ!」


『タラップ収納、完了。錨の巻き上げ、完了』


「フォアセイル、メインスル、ミズンスル、ジガーセイル、トップスル、トガンスル、ロイヤル、スタンスル展開!」


『了解。展開完了しました』


「よし、ヘーゲル号、出航だ!!」


 風を捕まえたヘーゲル号は徐々にスーハウの桟橋を離れ、スピードを増していく。

 メアリーとエリオットは、サルマント支部長達が見えなくなるまで手を振っていた。

 ジェーン姉様は……そういう気遣いを期待するだけ無駄だろう。

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