北の異変

「北の魔物の素材が無い!?」


 ヘーゲル号へ海運ギルドの市場担当の人達が、積み荷を引き取りに来た。

 ついでに北方の魔物の素材を仕入れたいので在庫はあるかと聞いたが、なんとほとんど無いらしい。


 ここハンザ連邦をさらに北上すると、『フグレイク連合』という国がある大陸へと辿り着く。

 フグレイク連合は寒帯の国で、この気候でしか存在しない生物や魔物がたくさんいる。

 フグレイク連合独自の魔物の素材は、最も近いハンザ連邦に卸され、そこから世界各地へと向かう。


 当然、母国アングリア王国に到着する頃には中継料と輸送費で値段が髙ついており、安易に手を出せない価格になっている。

 逆に言えばハンザ連邦まで来ればある程度安く手に入るので、なんとしても手に入れておきたかった。


「原因はわかっているのですか?」


「ええ。実は――」


 理由を聞いた所、これはみんなで話し合う必要があると感じる物だった。




 宿泊している宿はスタインガングの中でも1、2を争うほど大きい。

 そのため、宿泊部屋以外にも様々な施設が存在し、会議室も備えていた。

 僕はそこへ全員集め、現状を説明した。


「海運ギルドの市場担当者から、フグレイク連合の魔物の素材が手に入らなくなった」


「原因はわかっているのですか、お兄様?」


「ああ、すでに判明している」


 単純に、フグレイク連合からやって来る船の数が減少しているのだ。

 もちろん、完全に船がハンザ連邦へ来なくなっているわけではない。少数ながらフグレイク連合からやって来る船も存在している。


 そのフグレイク連合の船員から話を聞いたところ、最近不審な船がハンザ連邦―フグレイク連合間の航路上に出没するようになった。

 しかも、その不審船が襲撃を行ってきたそうだ。


「その不審船だが、1本マストに縦帆を装備していたらしい」


「おい、それってまさか……」


 エリオットが言いかけたが、ここにいる全員が同じ事を思っているだろう。

 ノーエンコーブで父様から聞いた、レリジオ教国のカッターやスループだ。


 ただ、今すぐに断定するのは時期尚早だろう。

 他国から来た船員がアングリア王国の船を見て縦帆の存在を知り、帰国した際に縦帆のことを伝えている。

 逆に、縦帆を装備した船が他国へ行った時、その国に縦帆の概念を知らしめてもいる。今の僕達が正にそうだ。


 そのため、世界各国で縦帆の開発が始まっていると聞いている。


 ただ、それでもまだ少数だと思うが。


「まぁとにかく、今僕達の行動を考える必要がある。それでみんなの意見を聞きたくて集まってもらったんだ。現状、考えられる手は2つある」


 1つはフグレイク連合の魔物の素材以外の商品を仕入れ、予定通りの日程で帰国すること。

 ハンザ連邦ではソーセージ、ビール、精巧なカラクリ仕掛けの工芸品などアングリア王国では手に入らなかったり、手に入る物でもハンザ連邦で作られた物の方が高品質である品が存在している。

 それらを入手し、アングリア王国で売りさばいても十分利益は得られるし、それだけでも単位に色を付けてもらえる。


 もう1つがフグレイク連合へ直接向かい、魔物の素材を買い付けること。

 魔物の素材を狙うのであれば一番確実な方法だが、当然日程が長くなる。

 さらに例の不審船に遭遇する危険性もあるし、またある理由により船を改装しなければならない。


「お兄様、ここからフグレイク連合へはどのくらい掛かるのですか?」


「ハンザ連邦やフグレイク連合の船で2~3ヶ月らしい。ヘーゲル号なら1ヶ月くらいかな。改装して速度を上げられるようにすれば、もっと短くできるかも」


 そう返答すると、すぐさま返答が帰ってきた。


「では、フグレイク連合に行きましょう。せっかくフグレイク連合に近い場所まで来たことですし」


「1、 2ヶ月程度の延長ならどうって事無いさ。父や祖父から聞いた話では、海の状況や

天候などでそのくらいズレることもあるしね」


「不審船? とかもあたしに任せれば大丈夫だって。一発で仕留めるから」


 なるほど、全員の意見は定まっているようだな。

 僕としてはどっちの案も一長一短があって悩むところだったが、全員一致した意見を尊重して、腹をくくるか。


「わかった。では、航海の準備をして5日後に出航しよう。フグレイク連合へ向かうぞ」

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