ヨット(アナログゲーム)
「みんな、今出港したら1月半は海の上だ。買い忘れた物とかないな?」
「私は問題ありません、お兄様」
「俺もだね。研究に必要な材料は多めに買っておいた」
「あたしも大丈夫かな~。まぁ忘れてもなんとかなるでしょ」
ノーエンコーブで父様とフレドリックさんに見送られつつアングリア大陸を北上し、今はサプライトハウスの港にいる。
これからさらに北上しハンザ連邦を目指すのだが、現在のヘーゲル号の船足でも1ヶ月半はかかる。
道中に無人島などはあるらしいが、街など皆無なので満足に物資が手に入る環境ではないのだ。
そういうわけで僕は乗組員全員に最後の確認をしたが、全員準備完了という返事だったので出港を決断した。
「よし、タラップ格納、錨を上げろ。メインスル、フォアセイル、ミズンスル、トップスル、トガンスル、ロイヤル、スタンスル、ジブ、全ての帆を張れ」
『タラップ格納完了、錨巻き上げ完了、メインマスト、ミズンマスト、フォアマスト及びジガー、全てのマスト展開。風向き、風力良好。いつでも出港可能です、キャプテン』
「了解。ヘーゲル号、出港だ!」
サプライトハウスを出港して半月が経過した。
ここまでの航海は順調。極端な悪天候にも見舞われず、安定した航行を継続していた。
それはそれで非常に喜ばしい状況なのだが、同時にある苦痛にもさいなまれている。
暇すぎる……!
毎日毎日同じ事の繰り返しで、飽きが来ているのだ。
僕は基本的にヘーゲル号の舵を握って操作しており、船の操縦も好きなのだが、こう同じ景色ばかり続いていると変化が欲しくなってしまう。
なお、この世界の航海には魔物の襲撃が付きもので、僕も最初はそれを警戒していた。
しかし、そういった危機への嗅覚が鋭いジェーン姉様がすぐさま甲板にやって来て、あっという間に光魔法で倒してしまうのだ。
しかもジェーン姉様は魔物の解体も会得しているらしく、甲板に引き上げた魔物の遺体を手際よく解体していき、1時間もしないうちに船倉や冷蔵庫に収納してしまうのだ。
一連の手際の良さはマリーも舌を巻いており、『なぜ私でも感知できない魔物の存在を把握できるのでしょう?』と首を傾げていた。
そんなわけで目立った戦闘は一切行っていない。ポイントはしっかり入ってはいるが。
なお他のメンバーはというと、メアリーは医学書を持ち込んで勉強に励んでいるがすでに読破、エリオットは発明に勤しんでいるがすでにマンネリ気味、ジェーン姉様は部屋で寝ているか船の探険――最も船の探険はすでに飽き気味。
つまり、誰も彼もが変わり映えのしない毎日に飽きてきており、気分転換を必要としていた。
『船長、そんなに暇でしたら、例のアレを行ってみてはいかがでしょうか?』
「ああ、アレか。そろそろやろうか」
僕は航海生活に飽きが来る事を予測し、船の上にぴったりの遊びを用意していたのだ。
そういうわけで僕は全員を食堂に呼び出した。
僕はサイコロを5つ取り出し、それを振った。
気に入った目が出ればそれを確定させ、残りのサイコロを振り直す。振り直しは3回まで。
そして出た目で作れる役を決定し、点数を確定させる。これを役の数と同じ12回繰り返し、最終的に点数が多い人の勝ちだ。
「つまり、サイコロ版のポーカーということかい?」
「そうだよ、エリオット。でも、ポーカーとは違う点がいくつかある」
その違いの最も大きな点は『使える役は1ゲームに付き1度まで』という点だろう。
例えば『3ダイス』という出目が3つ揃ったとき成り立つ役がある。この役は役を成り立たせる出目の数字によって得点が変わる役だ。
なので、例えば1の目が3つ出て3ダイスを確定させたが、次の回では6の目が3つ出たとする。
点数としては後者の方が高いが、すでに3ダイスを確定させたため悔しい思いをする……なんてこともある。
つまり、わざと低い点数の役を確定させるという戦略も時には必要になるのだ。
ところで、なぜヨットが船の上にピッタリの遊びなのか?
実は、ヨットは前世でカナダのカップルが考案した遊びと言われているのだが、なんとヨット(船)の上で友人達と遊んだらしい。だから『ヨット』という名前なのだ。
そういった経緯で、このゲームを船の上で遊ぶのにピッタリだと思ったのだ。
ちなみに、サイコロはサプライトハウスで買ったが、点数表とルールブックはヘーゲル号のショップ機能で買った。
「じゃあ、やってみようか」
最初はゲームの進行につまずくことも多々あったが、回数を重ねるごとに慣れていった。
そんな中、特に目立つ活躍をしたのがジェーン姉さんだ。
「お、ラッキー」
ジェーン姉さんは最も難易度が高い役、5つの目をそろえる『ヨット』を初手、しかも1回サイコロを振っただけで成立させてしまった。
その後もたった1回サイコロを振っただけで次々と高得点の役を成立させてしまい、最終的に理論上の最高得点をたたき出してしまった。
――本当になんなんだ、この人。
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