商船学校
王都の学園に編入してから2年、僕は無事に学園を卒業した。
この2年、かなり衝撃的な事が色々あった。
まず、何回か同級生の結婚式に呼ばれたこと。
王族、貴族、富裕層の子息が通っている学園であるため、当然結婚は親同士が決めている場合が多い。
さらに『式を挙げて既成事実化した方がいい』と考えている親も少なくない数が存在し、その結果、学園に在学中でありながら結婚をするパターンが多い。
前世であれば問題視されるが、あいにくここは常識が違う異世界。しかも学生結婚をする子達の親は社会的地位が高いし、将来は家業に参加することが確定しているので経済的な心配は何も無い。
そしてさらに、衝撃的な事実がエリオットの口から聞かされた。
「出産で休む子が毎年何人かいるんだよ」
もちろん、親戚が出産するから休む、ではない。生徒本人が妊娠し、出産するため休むのだ。
さすがに1年生では身体的な理由でほとんどいないが、2年生で1人いるかいないか、3年生で毎年2~3人出るらしい。さらに学園の後に進学する学校となると、身体が出来てくる人数が増加するため女子の半分が在学中に出産を経験するとか。
そのことに対し家族や学園はどう反応しているかというと――喜び、祝っている。
前世であれば超が何度も付くほど大問題に発展するが、この世界では子供や跡継ぎは非常に重要視されるので、何歳で産もうが非常に歓迎される。トラブルに発展するのは結婚相手や婚約者以外の子を産んだ場合くらいだ。
そしてそんな認識である世界なので、学園側も妊娠・出産する生徒に対してかなり洗練されたサポート制度が存在しているのだ。
「私、早く式を挙げて子供を産みたいな~って思うんですけど」
そして、同級生の結婚や出産のニュースを聞く度、甘えるような声でメアリーから言い寄られるのがお約束となっていた。
そして僕はそのお誘いをやんわりと断り続けている。
僕はコーマック伯爵家の跡継ぎではないし、海の上を動き回って生活をすることがほぼ確定している。
だから、ある程度生活の基盤が固まるまで婚約のままでいた方がいいと思っている。
ただ、年齢を重ねるにつれてメアリーがどんどん魅力的になっている。
メアリーの身長や体型は出会った頃とほとんど変わっていなかったが、身に纏う雰囲気が僕好みになりつつあった。
もしかしたら、僕が考えるタイミングよりも早く既成事実を作ってしまうかもしれないと内心ヒヤヒヤしている。
まぁそんなことがありつつ、無事学園を卒業できた。
学園を卒業した後、僕、メアリー、エリオットは商船学校に進学した。
商船学校とは、貿易に限らず民間で活動する船乗りを育成するための学校だ。ちなみに、軍船の運用を教えるのは軍学校の役目で、海軍の教室に入ると教わるらしい。
あとは、船や航海に関わる開発や研究を行うのも商船学校の役目だ。エリオットは研究・開発目当てに商船学校への進学を決めた。
なお、軍学校も研究を行ってはいるが、主に戦術・戦略研究や兵器開発が主で、船や航海関係の技術研究はあまり熱心に行っていない。だからこそ、新型船の開発は海運ギルドと共同で行っているのだ。
商船学校のカリキュラムは、主に4つのクラスに分かれて行われる。
1つ目のクラスは『基礎クラス』。船員として活動した経験が無い、悪く言えば船乗りとして素人の人が入るクラスで、基礎から教わる。
2つ目は『経験者クラス』。すでに船乗りとして活動した経験がある人が入り、入学後すぐ実践的な授業を受ける。一等航海士や船長など、船の中の幹部クラスを務めている人達はこのクラスを卒業している場合が多いとされている。
3つ目は『オーナークラス』。すでに船を持っている人が入るクラス。最大の特徴は、自由に船を使って活動でき、その活動の成果が単位として反映される。
4つ目が『特殊クラス』。船大工や設計技師、船医といった特殊技能が必要とされる職を目指す人が入るクラス。技術研究・開発をやりたい人もここに入る。
僕は当然オーナークラス、船医を目指すメアリーと開発をやりたいエリオットは特殊クラスに入った。
入学式と簡単なガイダンスが終わると、僕、メアリー、エリオットは行きつけの喫茶店へ行った。
「さて、最終確認だけど、本当にいいんだね?」
「ああ、もちろんさ。研究室で物を作っているのもいいけど、船の上で使うんだから実際に航海を経験した方が早いし、実地試験もすぐ出来るからね」
「私も、船医としてお兄様のお役に立てるようがんばります!」
実は、オーナークラスに所属している生徒は他のクラスに在籍している生徒を船員として雇う事が出来る。もちろん、雇われ先の船で活動した分はきちんと単位に反映される。
当然ながら船を動かす人員を最優先で確保するため、経験者クラスや基礎クラスから雇う場合が多い。特殊クラスからは船医や船大工といった航海に絶対必要な人員を雇い入れることはあるが極少数だと聞いている。
対して僕はヘーゲル号の特殊性から、見知った仲とは言え特殊クラスのみから人を雇うという例外的な動きをしていた。
もちろん、雇った人物というのはメアリーとエリオットだ。さっきの話は僕に雇われヘーゲル号で活動することの最終確認を行っていたのだ。
最終確認も終え、喫茶店を出ようとしたその時だった。
「やっぱりここにいた~」
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