学園の1日
翌日から、学園では普通に授業が始まった。
この国の学園のスケジュールは、午前と午後で全く違う。
午前中は読み書き計算、そしてこの国の歴史や世界の地理といった一般教養を教える。貴族や富豪の子供が通うだけあって、マナーを学ぶ授業も設けられている。
僕は、元々孤児院でトマス先生が教育に力を入れていたこともあり、勉強に関しては特につまずくことはなかった。計算に関しては前世の経験もあり一番成績が良いかもしれない。
マナーについては、コーマック家に養子にもらわれてからある程度学べていたので、細かい違いを気にすることはあったが特に問題は無いと思う。
午後は、個人の才能を伸ばす授業を行う。そのため、クラス関係なく個人によって別々の教室に行き授業を受けることになっている。
教室の分け方だが、似ている才能の持ち主を一纏めにしているようだ。剣や槍など戦闘系の才能を持つ子供の教室、魔法使いの教室、といった感じで。
そしてこの午後の授業が、僕の最大の懸案事項となっている。
僕の才能は、精霊から授けられたヘーゲル号に紐付けられている。そしてこんな才能の持ち主なんて、アングリア王国内では僕一人だけ。世界中を探しても似たような才能の持ち主がいるかどうか怪しい。
仮に適切な教育プログラムを作れたとしても、僕にやる意味があるのかという疑問符も付く。
何せ僕は、何度も魔物を倒しているし、対人戦闘も実戦で経験済みなのだ。
その上で訓練を行うとなると、それはもう軍学校などの上級学校の領分となってしまう。
「コーマック君、本当にすまない」
そういうわけでこの問題に決着が付かず、僕は午後一杯の時間を一人自習で過ごすという事になってしまった。
自習生活を始めてから1週間。
ハッキリ言って、これで良いのか不安になってきた。
もちろん自習時間中はただ無駄に過ごしていたわけではなく、やれることは色々やった。
いずれ世界中の海を航海したいので、海外の情勢や特産物を調べていることが日課となっている。
また、海運ギルドと海軍との新型船開発プロジェクトはまだ続行しており、僕もアドバイザーの役をまだ続けていた。
そのため、たまに僕が持っている帆船の知識をレポートにまとめ、プロジェクトの方に送っており、その作業を自習時間中に行っている。
そういった活動を続けており、他の同年代の子のほとんどがやっていないような活動を行っている自覚はある。
しかし、受けるはずの授業を受けていないという罪悪感と、何か役に立つような知識を教えているんじゃないかという想像で、このままではいつか周りの人から置いて行かれるんじゃないかという焦りのような気持ちがなんとなく存在していた。
そして居ても立ってもいられなくなった僕は、担任の先生に直談判した。
「午後の授業を見学させてください」
数日ほど学園の職員の間で会議があったそうだが、無事に僕の要求は通った。
そして色々と授業を見て回ったが、その中で興味を引かれる授業を発見した。
「銃火器クラス、か」
銃火器クラス。その名の通り、銃や大砲といった武器の扱いや技術の向上を目指すクラスで、銃や火器に関する才能を持った子達が集まっている。
ヘーゲル号では僕の命令1つでマリーが勝手に照準を付けて発射するので僕自身が銃火器の技術を持つ必要はないが、1つだけ扱う必要性があると感じることがある。
僕は白兵戦が苦手だ。まだ10歳を越えたばかりだし、一応海運ギルドで白兵戦について教わってはいるが基本的に避けてきた。大人相手に近接戦闘の才能を持つわけでもない僕が敵うはずがないからだ。
以前、敵をわざとヘーゲル号に侵入させたことがあったが、それはきちんと作戦を立てていたから出来たことであり、基本的に白兵戦を避ける方針は変わっていない。
しかし、今のヘーゲル号には武器庫があり、僕も銃器を持てている。
それに、いつまた白兵戦の必要にかられるかわからない。その時のために、自分で銃を取り回す訓練を積んでおくのは必要であると思った。
「あの、このクラスの授業を受けさせてもらえませんか……?」
結局、非常に長い職員会議に掛けられた末、僕の要望は通ることになった。
来月初めから僕も参加することに決まった。
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