王都での再会

 メアリーがノーエンコーブにいる間、一緒に色々と遊んでいた。

 普通に街を散策することもあれば、郊外へ出ることもある。また、父様と一緒に離島地域へ数日ほどの旅行にも行った。


 そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ、メアリーが王都へ戻る時期になってしまった。

 当然、王都へ送るのは僕の役目。そして僕にはメアリーを送るのと同時にある目的があった。


 僕の編入手続きだ。

 来年から僕も学園へと通う。1年遅れての入学なので第2学年に『編入』という扱いになるのだ。


 そういうわけで、メアリーの通学が再開する日に合わせて書類の提出と編入手続きを行いに学園へと向かった。


 母様が一緒に付いてきてくれていたので、母様の手伝いもあって手続きは滞りなく無事に終わった。

 前世から事務手続きは苦手だったので、正直助かったと思っている。


 そして事務室を去る間際、僕に声を掛けてきた人物がいた。


「やあ、ウィルじゃないか。こんなところでどうしたんだい?」


「エリオット! 実は、来年度に編入するために手続きを――」


「そうか。無事に編入できたら、何でも相談してくれ。それより、後で時間あるかい? 今日は始業式だから午前中で学園は終わるし、積もる話もあるだろうから」


 というわけで、王都の喫茶店で待ち合わせをすることに決まった。


「ウィルったら、いつの間にお友達を作ってたの?」


「入学式の後のパーティーで偶然知り合ったんですよ、母様」


「そう。お友達は大切よ? 貴族社会の人間関係は打算や下心がすごく濃い濃度でつきまとうのが普通だけど、ああいう心の底から信頼できる友人を何人か作ることもとっても大切なの」


 母様は僕に友人が出来ている事を喜んでいるようだった。貴族社会の気の抜けない部分を一緒に話すのはどうかと思わないでもないが、それも母様の親心なのだろう。




 昼過ぎ、王都の喫茶店。

 この喫茶店は王都でも有名な店で、貴族や富豪がよく利用する店だ。

 ここではアングリア王国では輸入するしかない茶やコーヒー、そして砂糖や香辛料を使ったメニューを取りそろえていた。

 もちろん、この世界で国家間の貿易は命がけなので、値段もお高い。


 そんな店で僕はコーヒーを、エリオットは茶を飲みながら話をしていた。


「ウィルはすごいね。普通、コーヒーは砂糖と牛乳を入れないと飲めないのに」


 これはエリオット個人や僕らと同年代、つまり10代前半の人だけの話ではない。この世界のほぼ全員がコーヒーを砂糖と牛乳を混ぜて飲んでいる。

 そういえば、前世でもブラックコーヒーが飲まれていたのは日本だけという話を聞いたことがある。ようやく最近、いわゆるサードウェーブコーヒーが登場してから世界的にブラックコーヒーが飲まれるようになったとか。


 ちなみに僕は、ブラックでもそうでなくてもいけるクチだった。


「コーヒー本来の風味を一度試してみたかったからね。でも、しばらくはいいかも」


 まだ品種改良やおいしい淹れ方が未熟なためか、この世界のコーヒーはブラックではあまり飲めそうになかった。

 おそらく、コーヒー豆がこの国では希少なため、コーヒーの淹れ方を研究できるほど料がそろえられていないことが原因だろう。


「そういえば、僕の姉が迷惑をかけているとか……」


「ああ、君が気に病む必要はないよ。最初はちょっと難儀な人かなと思っていたけど、会う回数が増えてくると彼女の魅力もなんとなくわかってきてね。悪い気がしなくなってきたんだ」


 う~ん、これは姉様にエリオットが洗脳されているのか、それともエリオットが大物なのか……。後者だと思いたい。


「それに、ジェーンさんと僕が交友しているのを家族は好ましく思っているらしくてね。ドラモンド公爵家としても今のコーマック伯爵家と仲良くしていることは意義があるから」


 家族公認なら、まあいいか。

 それにしても、今気になることを言わなかったか?


「もしかして、エリオットの家って、あの……?」


「あれ、言ってなかったっけ? あ、そうか。確か僕がファミリーネームを名乗る前に父様に呼ばれたからきちんと名乗ってなかったっけ? ウィルの予想通り、俺の祖父は元海軍大将、フレドリック・ドラモンドさ」


 ええええええぇぇぇぇぇ!? 僕達アングリア王国の船乗りからすれば超有名人の、あのドラモンド大将の孫!?

 運命のいたずらでエリオットの家について聞けなかったが、そんな大物の家柄の子だったのか!


「まあ、おそらく僕の代で船乗りとして第1線で活躍するのは終わりだろうけどね」


「そうか、エリオットの才能って、確か土魔法と光学だったっけ?」


 両方とも、船の運営に直接関係ない。それどころか、土魔法は地面がなければ発動しない。海の上は苦手な属性の魔法だ。


「両親も祖父も、船乗りとして立ち上げた家柄だから船に関わって欲しいらしいけど、この才能では……」


「関わり合いになれないことも無いと思うぞ」


 エリオットはその才能の組み合わせから、プリズムを作り出すことが出来た。それでジェーン姉様の光魔法をいなしたそうだし。

 だから、彼なら高性能なレンズを作り出すことも不可能では無いと思う。

 そうすれば、望遠鏡や双眼鏡、さらにはこの世界の航海に必要な天体望遠鏡だって、今までの物よりかなり高性能な物を作り出すことが出来ると思う。


「だからまあ、悲観するのは早いんじゃないか?」


「なるほど、そういう考えもあるのか。うん、少し考えてみるよ」


 それぞれの屋敷への帰り際、エリオットの顔に悩みの色は見えなかった。

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