ハーマフロダイトブリッグ
『帆装を新たに設定していただかなければなりません』
そう。マストが2本に増えたため、2本マスト用の帆装を設定し直さなければならない。
2本マストの帆装にも有名どころはいくつかあるが、すでに僕は決めていた。
「ハーマフロダイトブリッグにする」
ハーマフロダイトブリッグとは何か? それを説明するには、スクーナー、ブリガンティン、そしてブリッグの3つの帆装を説明しなければならない。
スクーナーとは、マスト2本以上の船で全て縦帆を装備している船のことだ。またマストの高さも決まっており、全てのマストが同じ大きさか最後尾のマストが一番高くないといけない。
次にブリガンティンだが、これはフォアマスト(前方のマスト)に横帆、メインマスト(2本マストの船では後方のマスト)に縦帆を備えている帆装だ。
ただ、より正確に言うとメインマストのコースセイル(一番下に位置する帆)が縦帆であればよく、それより上はどんな帆でもかまわないらしい。
ネット百科事典に載っている帆装概念図だと、トップスル(縦帆を装備しているマストでは縦帆の上の帆のこと。なお『スル』は『セイル』がなまった言葉)は横帆になっている事が多い。
ちなみに、ブリガンティンは元々オールと帆を備えた小型船の事を指していたらしく、13世紀頃の地中海の海賊に愛用されていたらしい。
そのため、名前もイタリア語で海賊を意味している『brigantino』を語源にしているとか。
最後にブリッグ。これは元々ブリガンティンを短縮して表す言葉だったらしいが、後年になってブリガンティンと明確に区別されるようになった。
帆装は2本マストで両方に横帆が取り付けられていること。だがメインマストの後方に補助帆(『スタンセイル』あるいは『スタンスル』と呼ぶ)が取り付けられている事が多く、ここに『スパンカー』というガフセイルを小さくしたような帆を装備する場合が多いので、所見でブリガンティンとブリッグの違いがわかる人はまずいないと思う。
それらを踏まえた上で、ハーマフロダイトブリッグとは何か?
それは、フォアマストにブリッグ、ブリガンティンと同じ横帆を、メインマストにスクーナータイプの巨大な縦帆を装備した、ブリッグ(ブリガンティン)とスクーナーの相の子のような船である。
そのため、生物学用語で『雌雄同体』を意味する『ハーマフロダイト』を冠する。別名は『ブリッグスクーナー』。
ちなみに、アメリカではハーマフロダイトブリッグの事を『ブリガンティン』と呼ぶらしい。帆船の事を調べていると、たまにこういうややこしい名前が出てきたりする。
では、このヘーゲル号の帆はどうなったか?
まずマストそのものが1本の時より大きくなった。
そしてフォアセイルから舳先に向かって張られている三角帆『ジブ』。これが2枚に増えている。
フォアセイルには横帆が張られているが、これは上下に3分割した形で張られている。もちろん、全て夕日色だ。
ちなみに帆の名前も全て決まっており、一番下が『コースセイル』。単純に『マストの名前+セイル(スル)』と呼ばれる事もあり、この場合は『フォアセイル』と呼ばれる。なお、横帆の中では一番大きい。
その上が『トップスル』。そしてさらに上が『トガンスル』だ。
次にメインマスト。これはスクーナー型だけあってマストがフォアセイルよりも高く、マストの上から下まで全て繋がっている巨大な縦帆を装備している。
ヘーゲル号のシンボルマークである青い切り込みの入った羽はこちらに描かれている。
また、フォアマストから舳先に渡って張られている三角帆『ジブ』だが、これは上下2枚になった。
『ところでキャプテン。なぜこの帆装を選んだのでしょうか?』
「安定して走れそうだから、かな」
順風の時でも逆風の時でも、安定した速度で航行できる。だから横帆と縦帆を1本ずつ持ったハーマフロダイトブリッグを選んだのだ。
これでヘーゲル号の強化が終了したので、そのまま孤児院に帰った。
翌日、船の大きさと装備が変わっていたのに驚かれて騒ぎになってしまうのは、また別のお話。
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