異世界航海冒険録

四葦二鳥

新しい人生

 港に船が集まっている。

 そのほとんどはガレー。たくさんの人員で櫂を漕いで進む船だ。

 ガレーは長距離を航海出来ず動かすのに大量の人が必要だ。だが、瞬間的な速度は速く、人を比較的多く乗せられるため、戦闘用の軍船として用いられることが多い。

 港に集まっているガレーは、全て軍船だ。


 なぜ軍船が集まっているかというと、季節行事のように押し寄せる敵国の船団を殲滅するからだ。

 ただ、もう殲滅を終えた後であり、つまり凱旋したところだ。


 そして凱旋を終える頃、この年に10歳を迎える子供達に人生の一大イベントが訪れる。

 成年式だ。この世界は、一応成年式を迎えると大人ということになり、独自の財産を持てたり恋愛も自由に出来たりする。

 もちろん、現実的にはまだ肉体的に成長途中ということもあり、子供扱いされることが多い。完全に大人として認められるのは、おおむね15~18歳くらいか。


「もう転生して10年近くか。早いな」


 そしてこの僕、ウィルも成年式を控えている子供の一人だ。そして成年式を楽しみに待っていた。

 僕は、いわゆる転生者だ。前世は会社員をやっていて、少々帆船に興味があった。

 それで横浜で行われていた帆船のイベントを見物した帰り、世間一般に言うあおり運転を食らった。その結果、トンネル内で壁に激突。そのまま即死した。


 そしたら、白い空間にいつの間にかいた。

 そこには女性がいた。人をもてあそぶのが好きそうで距離を取りたかったが、一応職務には忠実らしい。

 曰く、『不幸なまま人生を終わらせた人を救済するシステムがある』と言うことで、僕もその対象になったらしい。

 それで転生してくれることに相成ったのだが、来世では自分の希望をその世界のルールに沿う形で叶えてくれるらしい。


 僕は快適な帆船を持ち、それを運転したいという希望を出した。

 帆船に興味を持ったのは社会人になってからだし、現在帆船の数はかなり少なく、ほぼ動力船。それだけに関わるというのはニッチすぎて日本では帆船関係の職に就くのはまず無理そうだからだ。


 諸々の手続きを終え転生すると、生まれたのはアングリア王国という国だった。

 この世界は前世に比べると小さい、亜大陸や小大陸とでも呼べそうなサイズの陸地が点在している。アングリア王国は北寄りにあるアングリア大陸を治める国だ。

 武勇を尊ぶ国だが、武力を維持するには様々な物が必要ということをよく理解しており、『真の武人は武力以外に優れた物を持たなければならない』という格言があるほど。

 そのため、よくイメージされる軍事国家のようなピリピリした空気は感じさせない。


 アングリア大陸は、南西から中央部にかけて巨大な大河のように長い入り江『アングリアコーブ』が存在し、それを利用した海運が発達している。

 僕が生まれたのはノーエンコーブという、アングリアコーブの北側の入り口にある巨大な港街だ。

 治めているのはコーマック伯爵家で、ノーエンコーブの街を含めた広大な

領地を治めている。

 そんな街の孤児院に僕は生まれた。


 精神は肉体に引っ張られるようで、僕の精神は同年齢よりも何歳か高い程度で収まっていた。

 だが、前世の子供時代からあまり友達がいなかったし、仕事でも無い限り自分から話しかけるようなことはしたくなかったので、必然的に一人で本を読んだりすることが多かった。


 そんな暗い幼少期を過ごしてしまったが、成年式を受けることでようやく僕の希望が叶うだろう。

 なにせ、成年式こそがこの世界のルールに沿う形で僕の転生直前の希望が通る儀式なのだから。

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