レッドを絶対、うちのもんに……

oxygendes

第1話 執着

 シュルシュルシュル―


 壁という壁全てが大小のイラストボードで覆い尽くされた部屋の中で、モスグリーンのミリタリージャケットを纏った女性が中央に据えたイーゼルに向かいあっていた。右手に持ったカラーペンを振るい、白いイラストボードに鮮やかな線を描いていく。


 シュルシュルシュル―


 女性はジャケットの上腕の部分に縫い付けたウェービングテープに、様々な色合いのカラーペン二十数本を挿していた。使用するペンを次々に取り換え、新たな色の線を加えていく。描かれた多様な線は組み合わさって立体感のある画像を構築していった。


 シュルシュルシュル―


 ボードに現れたのは、全身を深紅の強化戦闘服(バトルスーツ)に包んだ戦士の姿だった。特撮番組『神界戦隊ガイナファイブ』の赤い戦士ガイナレッドである。両腕を大きく掲げ、闘志を顕わに仁王立ちしている。


 シュルシュルシュル―


 女性はさらに、口元だけ素肌が覗くマスク、銀色の手袋や、炎のシンボルを象(かたど)ったバックルなど、戦士の細部を描き込んでいった。


 シュルシュル……シュル


 戦士の姿をほぼ描き上げた女性はカラーペンをジャケットに挿し、一歩下がってボード全体を眺めた。射るような視線を上から下、そして下から上へ走らせて小さく頷く。


「そうよ……」


 女性はおもむろにルージュを取り出した。唇を紅くいろどり、指で形を整える。ボードに描かれた戦士をじっと見つめ、身を乗り出して戦士の唇に自らの唇を重ねた。


「レッドを絶対、うちのもんにする。そのためならみんな……」                                 



 部屋中のイラストボードは全て同じ赤い戦士を描いたものだった。無数のガイナレッドから注がれる視線の中、女性は描き上げた戦士を見つめ続けた。

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