『会話の家元』

石燕の筆(影絵草子)

第1話

今日は我が曽我部家の家元を決める日である。何人かの候補者が出揃った。

現家元は言った。


「お前たちにはこれから会話をしてもらう。会話を極めし者に家元の座を譲る」


その内容とは用意された人形とひたすら会話を続けるというものだった。

会話のできない人形にひたすら独り言をぶつけていく。

さも会話をしているように見せかける。会話のできない人形相手だからこそその手腕が試されると家元は言った。

ある一人は、何気ない日常会話を。ある一人はシチュエーションをつくったり趣向を凝らした創意工夫をそれぞれが行い、

やがて全員が終わる。

数時間の検討ののち結果が出た。


「家元は引き続きワシが当分引き受ける」


そう現家元は言った。

理由を聞くと家元は当然、

人形相手に会話などできるはずがない。それなのにお前たちは言われたままにただ人形と会話をした。会話の成り立たない会話は会話ではない。

そう捲し立て、


『この大馬鹿どもが!』と罵った。

落胆の色を隠せない候補者一同は揃って、その場に泣き伏せた。

落胆の色を隠せない候補者一同は揃って、その場に泣き伏せた。



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『会話の家元』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

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