死期渡し

界達かたる

Introduction



 弟は剃刀を抜いてくれたら死なれるだろうから、

 抜いてくれと言った。

 しかしそのままにしておいても、

 どうせ死ななくてはならぬ弟であったらしい。

 それが早く死にたいと言ったのは、

 苦しさに耐えなかったからである。


 苦から救ってやろうと思って命を絶った。

 それが罪であろうか。

 殺したのは罪に相違ない。

 しかしそれが苦から救うためであったと思うと、

 そこに疑いが生じて、どうしても解けぬのである。

(森鴎外/『高瀬舟』)


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