第52話 空を斬る

 その少女、宮本米子は、刀を構え直すと僕たちの方に一歩ずつ踏み出す。まるで鬼と対峙しているような、そんなことを感じさせる気迫を纏っている。

「サザメ、上から何か聞こえるか?」

「数名の呼吸音が聞こえるな。しかし……どれも弱っちい」

 制圧班はしくったか。付いている血は彼らのだろう。

「案山子さんとサザメはフラについて行ってくれ、モンスターに襲われないか心配だ」

「わかりました」

 案山子さんはカラスをたくさん生み出す。カラスたちは大きく群を作り、光すら通さない闇となった。

「黒宮、杏奈、死ぬなよ」

「死なないよ」

「わかってます。絶対に死にません」

 杏奈は軽そうに答えるが、目線は目の前の少女を捉えている。

 カラスの群れは案山子さんと、サザメを包み込み闇の中に消えていった。

「……さて、どうする」

「話していた通りに……」

 杏奈が言い終わらないうちに、駆け出してきた。僕は、それに合わせるように闇を槍のように突き出す。

 少女は刀を振るう。最も容易く、闇を切り伏せた。

「やっぱり、切られるか、っと」

 僕に向けて振るった刀を避ける。嫌な間合いを保ってくる。後退しながら、足元から何度も闇を繰り出すが、どれも切り伏せられる。

 すると、杏奈が少女の背中を貫くように、思い切り槍を投げる。

 その攻撃が見えていたように、後ろに刀を振るう。

 槍が真っ二つに割れた。

 その隙に、少女を阻むように、大きな壁をぶつける。

 刀を振るい、切るが、厚く何層も重ねた闇の前では、無力だった。そのまま押され、通路の奥へと追いやる。

 少しの時間を稼げた。僕は、荒い呼吸をしている杏奈に声をかける。

「刺せるか?」

「……大丈夫です」

「人を傷つけるのは、辛いことだ。無理そうなら、僕がやる」

「大丈夫です!!」

 モンスターとは違う、何かを傷つけること。慣れてなきゃ辛いだろう。今は、ぐだぐだいう時間はない。大丈夫だと言ってるなら、僕は信じるまで。

「殺さずに捕まえるなんて考えるな。あれは人ではない、ただの鬼だ」

「鬼……」

「あぁ、血がついていたのを見ただろう。宮本米子は既に何人か殺している。生半可な覚悟では、切り伏せられるぞ」

 それより、どうして闇が切れるかだ。僕の闇は傷つけられるものではない。暗いという、光がないという概念だ。

 通常、概念なんてものを攻撃できない。それが能力か?例えば、なんでも切り伏せるだとか。

 僕の手元にある明かりで奥を照らすと、凄まじい勢いをつけて、少女が跳んできた。

 不意を突かれた訳ではない、警戒をしていた。すぐに撃退できるようにしていた。対応に遅れた訳でもなかった。

 宮本米子は、僕ではない、杏奈に跳んでいった。

 先程みたいに僕にくると思い用意していた闇は、杏奈の近くにある訳ではない。僕の闇が繰り出す間に宮本米子は、杏奈の白い槍を切り裂いていた。

 切り裂かれたことを認識した杏奈は、すぐに少女の腹に蹴りを入れる。その蹴りを喰らわないと、地面を蹴り、空中に逃げる。

 好機。僕の闇が、その身体を穿つ。逃げ場のない空中。身動きの取れないと、思われたが、宮本米子は、空中を歩いた。

 闇は空を刺し、また別の闇が追撃に出る。杏奈は、新たに生み出した槍を向ける。

 空中を疾る少女は、空を斬る。赤い斬撃が、杏奈に飛んだ。

 予想をしていない攻撃、赤の斬撃は杏奈の胸を斬り裂くに至った。

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