第47話 Q,強い?→A,強い
初めましてと言うことにはなるのだから、杏奈さん?ちゃん?、どっちでもいいや。杏奈さんと少しぐらい話をしておこうと思ったのがついさっき。パーティー内での立ち位置というか、役割では僕と被っているので、苦手なモンスターだとか、どんなダンジョンを探索したことがあるのかなんて聞きたかったのだが、僕の予想をはるかに上回る事態が起きた。
とりあえず一二三さんが記録したダンジョンの構造図を見ながら、あーだこーだとサザメを中心に言ってた。一通りパーティーの中で話したいことを話せたので、杏奈さんと軽く話してみようかなって思い、近くに椅子を寄せる。見た感じ若く、僕が知らないということは最近、早くても2年前からは本部に呼ばれる立場になっていたであろう杏奈さんは、ベテランに負けず劣らずの実力を持っているのだろうと感じた。つまり興味を持ったのである。
無愛想だとよく言われる顔をいつもよりは和らげて、話しかけようとした時である、
「黒宮さんって、強いんですか?」
と、言う相手によってはパンチの効いた煽りをかましてきたのだ。
流石に一同唖然、とはならなかったが、僕と同じで今日日まで杏奈さんを知らなかった小町ちゃんは顔と顔文字で驚いた表情をしていた。
「強い方だと思うよ」
「へぇ〜、そうなんですか。あんまり名前を聞いたことないですけどね」
煽っているのだろうか。いや、流石に一緒のパーティーになった人間をわざと煽って関係を不仲にさせる奴じゃあないだろう。サザメに、こいつ大丈夫か、と言う視線を投げかけると、元々の性格だ、と口パクで伝えきた。……ダメじゃん。
今僕は、大丈夫か、こいつ、探索者を続けていられるか、と要らぬ心配をしている。まだまだ探索者の世界に足を踏み入れたばかりなのだろう、いやまあ探索者に限らず人との接し方に気をつけないとどこでも邪険されるものだが。
「追放屋って知ってる?」
「聞いたことありますよ、ゲームで言うキャリーみたいなものでしょ。けどあれって、成長に繋がらないと思うんですよね〜」
……ほぉ、言ってみろ。
「危険なダンジョン、例えば自分の実力より二つ上のダンジョンとかに行きませんよね」
「あぁ、行かないな。初心者を連れて行くのは酷だろ」
「それじゃあ自分の実力と同等、もしくはそれ以下のダンジョンに行くんですよね。成長できます?」
「成長ね。まず、ダンジョンに初めて探索する人、もしくは全然暴力沙汰とか過激なものに触れたことのない人が多くいる。それらの、いわゆる初心者がダンジョンに慣れてもらうために同じ実力のところに探索する。もちろんそれなりに経験を積めば少し上のダンジョンに向かうさ」
その過程で人は成長するだろ。
「はぇ〜、そうですか。スタンスっていうか、どういう感じで活動してるのかわかりましたわ」
杏奈さんは納得したそぶりを見せたようだが。
「で、結局強いんですか?」
改めて聞いてくるのか。別に強くなくても、役割を果たせたらいいんだよな。と、めんどくさがってる僕に思わぬ助け舟がやってきた。
「黒は強いよ、杏奈の百倍強い」
「へぇ〜、そうなんですか、サザメさん」
サザメさんがいうなら、と納得しかけてる杏奈さんに追撃が入る。コンコンと、液晶版を叩く音がした。小町ちゃんがタブレットに何か書いていた。
『黒宮さんの主な探索歴です』
『2016年、未探索ダンジョン環境不動型ダンジョン-15-b初探索→
アラスカ州未探索ダンジョン計六つ探索→
パプアニューギニア、マウントハーゲン近辺に発生した未探索ダンジョン計四つ探索→
2017年、オーストラリア、クイーンズランド州未探索ダンジョン計三つ探索→
オーストラリア、準州ノーザンテリトリー東方部にある未探索ダンジョン計十一ほど探索→
2018年、キルギス、キルギス山脈直下の未探索ダンジョン一つほど探索→
2019年、ロシア、カムチャツカ半島未探索ダンジョン計四つ探索、うち一つが、シベルチ山付属準環境変動型ダンジョン、ひらたく言うと、シベルチ山の悪夢からの数少ない生存者です。
その後、療養期間として日本に帰り、追放屋を始める』
改めてみると壮大な経歴だな。この後にちょくちょく未探索ダンジョンを探索してるから、三十五前後か。長い道のりだな。
「はえ〜、海外の人でしたか。そりゃ知りませんよ」
「黒って改めてえげつない経歴してんな」
他二人も僕の経歴を見て引いてる。僕もこの経歴見たら引くわ。
「まぁ、僕は強いと言うことで」
こんな経験してたら強いですよ、とそんなふうな目をして杏奈さんは僕を見てきた。
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