第40話 ニチジョウ
どんどんと騒がしくなってくる。私の知らない人が知らない同士で、私を巻き込んでどんどん騒がしくなってきた。……私はいつまでこのカフェにいるのだろう。今日はキララちゃんと仲良くショッピングして、美味しいスイーツを食べて帰る予定だったのに……なんで指名手配犯と出会うんですかぁ。
あ、また増えた。このカフェに人集まりすぎじゃない?いや、賑わってるんだなぁとは思いますが、さっきから個性が豊かな人ばっかなんですよ。
キララちゃんは興味が尽きたのかショートケーキを貪ってます。どうしましょう
「おいおいおい、とっても暗い顔をしてるじゃん。ほら、スマイル、スマイル」
私の目の前で指名手配犯がパンケーキを食っています。にっこりとジェスチャーをしながら振り抜いてくるのがとってもうざいです。それに対してキララちゃんは特に反応をしない。
キララちゃん……。
キララちゃんは反応しませんが、指名手配犯の横にいる人が反応します。どことなくインテリ感を醸し出した、メガネをかけた人。着崩したサラリーマンみたいな服装をしていて、万年筆を握ってる。会話を聞いていると私の知らない作家さんらしい。先ほどからずっと私の前の席に居座って我が物顔でこちらを見てきてます。
彼は、私とキララちゃんが指名手配犯をどうしようかと頭を悩ませていた所で、カフェに不満げそうな顔をしながら入ってきました。どうやらカフェの常連らしく、店主さんと親しげな挨拶を交わしながらカウンターに座ったのですが、目の前の指名手配犯がキララちゃんと騒がしく
返事にもならない呻き声を指名手配犯に返したところで、コーヒーを一気飲みしました。どうやらカフェインで酔うタイプの人間らしく、先ほどからこの指名手配犯と、目の前の作家、あとカウンターに座っている音楽家のような人が主役となって騒いで、店全体を巻き込みパーティー会場を作り出しました。キララちゃんはそんな中微動だにしません。何か反応をしてぇ。私には無理だよぉ。
「ふっふっふ、キララちゃんに助けを求めようとしても無駄だぜ。ほら、諦めたような表情をしている」
また何かほざいてる。先ほどから、店の外に出て連絡を取ろうとすると目の前の作家が何度も阻止してくるから諦めた。扉が開く音がしたので入り口を見たらまた人が入ってきた。さっきから音楽家のような人が大勢の人に連絡をしてるようです。今入ってきた人は特徴的な髪の色と背中に抱えた大きなギターケースが特徴的。言うならこの空間にいる人誰もが特徴的なんだけど。
「おい、名無し。ずっと目の前の少女に熱心じゃないか。やっぱり知り合いなんだろう」
「え、僕と彼女たちが知り合いだなんて馬鹿らしい。初対面だぜ初対面。僕と君のような間柄さ」
先ほどから作家の人は指名手配犯のことを「名無し」と読んでいます。私たちの目から見るとかなり危険な人間だけど、事情を知らない人からすると名前を名乗らないただの不審者だ。
「それにしたってやけに親しげだよなぁ」に対して、ニヤニヤと笑みを浮かべることを、答えにしている指名手配犯。
店主がショートケーキをわたしたちの机の上に置いた。誰が頼んだのだろうと思っていたけど、キララちゃんが素早い動作でショートケーキを抱え込む。何個食べる気なんだろう。料金は私持ちだよね。キララちゃんは、私の財布に多大のダメージを負わすほどに甘いものを食っています。そろそろ頼むのを辞めてほしいな。
「よく食べるな、そこの魔法幼女は。そのうち糖尿病にかかるぞ」
「だいじょ〜ぶ」
上にあるイチゴを美味しそうに頬張るキララちゃん。キララちゃんから目を離した作家の人はまた私のことをじっと見てきた。先ほどから見られてばっかで嫌な汗をかいてしまう。
「そこの魔法幼女は外見から察するに探索者なんだろ。じゃあ少女はなんなんだ」ただの付き添いか?と、万年筆で私のことを指してきます。横の指名手配犯が頷いて、そうさそうさ、と言っているのが妙にむかつきます。
「君はあれだ、小さくて、探索するのに向いていないような体つきな気がする」
「作家君は探索者だったりするの?」
無遠慮に指名手配犯が聞きます。作家の人は首を横に振る。探索者ではないそうです。
「職業柄、探索者の人間に話を伺うことが多いのだ」
「それはなんで?」
「わからないのか?リアリティを求めているのだ。私は」
突然作家の人が手を振り下ろす。鈍い音を机は鳴らし、食器は揺れた。
「最近はなんだ、バカみたいな御伽噺ばかりだ。誰もが幸せになるものばかりだ。このくだらない世界にファンタジーの代名詞のようなものが出たからって、クソみたいな話が許されるわけがないだろう」
近くに置いてある水を一気に飲む。
「馬鹿がよっ、誰も彼もが不幸になるのが現実だ。それを認めない
今度は天井を見上げて天を仰ぐようなポーズをとる。情緒が不安定すぎます。
「あぁ、不幸であればいいんだよ、リアルでいいんだよ、たくさんの不幸に見舞われながら日常の中にある小さな幸せを噛み締めればいいんだよ、みんな死んだんだ、これからみんな死ぬんだ、夢を見るんじゃない、夢を見せるんじゃない、このファンタジーを魔王を使って解決する作家がいた、このファンタジーを神のせいだという作家もいた、陰謀論だと囁く作家もいた、どれも違うだろ、この世界に神なんていない、この世界に必然なんかない、この世界は無数の偶然が万華鏡のように見え隠れしてできた虚構だ、わたしたちが書くのは浮浪者が思い描く夢だ、解決なんかしないだろ、読者の望む世界なんてつまらないだろ」
いつの間にか作家の人の演説をみんなが聞いている。店は静かになりました。
「そんな世界はそいつらが勝手に夢を見るんだ、そいつらが勝手に夢を見るんだ、私たちがわざわざ言語化する意味はない、そんな物に力を注ぐ必要はない、私たちはリアルを綴るんだ、どこまでも残酷で美しいこの世界を綴るんだ、最悪な災厄が跋扈する不条理な世界を綴るんだ、血が混じった泥水を啜るんだ、幸せになることを阻むんだ、夢を持たせるんじゃない、見させた夢を忘れさせるんだ、私は、私たちは、このくだらない世界を叫んで生きるんだ、喉をからせ、体を震わせろ、現実を見ろ、ファンタジーはすぐそこまで迫ってるんだ、幸せな現実なんてものはすぐに消え去るんだ、私たちは、逞しい作品を作るんだよ!!!」
机の上で立ち上がったかと思うとすぐに机の上で泣き始めてしまいました。たくさんの人たちがそれぞれが持ってる物で呼応を始めます。やがて作家の人から流れた音楽は呼応していない、私とキララちゃんと指名手配犯を包み込み大きな音楽へとなっていきました。
全員が叫んで、騒いで、これじゃあもう手がつけられません。キララちゃんを連れて外に出ます。私を止めてくる作家の人は泣き始めてしまったので誰もわたしたちのことを止めません。
店主にお金を払って私たちはカフェを出ました。指名手配犯はずっと私たちのことを見ていたまま何もしませんでした。
「なんかすごかったね。キララちゃん」
あのカフェで私たちは4時間いたでしょう。陽は傾いており、寒い3月の空気がわたしたちの体を包み込みます。今さっきの光景を見て特になんとも思っていないのか、無反応なキララちゃん。ショートケーキの残りカスが口元についていたので取ってあげました。
「ありがと〜」と、心のこもっている挨拶をしてくれます。
「いまさっきのひとたち、なにをいっているのかがわからなかった〜」
不思議そうな表情でこちらを見てくるキララちゃん。私はなんて答えよう。
「だけど、どこかくるしそうにみえたな〜」
珍しいことを言う物です。キララちゃんが人の感情を察するとは。人を救うことしかできないキララちゃんが、救うことのできない希望を考えるとは。成長、なのかな?わからないけど。
「そういえば、あのしめいてはいはんはどうするの?」
あ、忘れてた。
その後近くの探索者協会に連絡をしましたが、あのカフェに着いた頃にはいなかったらしく、騒がしい人たちが残っていたらしいです。
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