第18話 恐怖
カサカサ、とどこからか音がする。周囲は闇に満ちており、何かが這い回っていることだけが薄暗い視界から入手できる情報だろう。それは人と同じような大きさ、いや少し小さいかもしれない。そして、それがたくさん蠢いている。
カンカン。キィィン。
何かが、金属を叩きつけたような音を出す。その音に続き周囲から似たような音が響く。音と同時にあちらこちらで火花が湧く。火花が周囲を照らし、辺りを光に包む。
ここには三つの生命体の姿がそれぞれの本能に従い行動していた。
一つは、台所、風呂場、家の至る所に出没する全人類が体の全てを使い嫌悪する、Gから始まる生命体。その滅するべき生物が、純黒に光る姿を肥大化させ、足を50まで増やし、巨体となったその姿で天から地まで這い回っていた。
一つは、子供の夏を象徴する、これもまた漆黒に光る巨体、その中さらにで目を引くのは白く、燃え尽きたように白い顎。こちらは、憎むべきGとは違い体を極端に細く、生命活動に支障が出ない最低限の機能を持った夏の王者。
それらが、柱の近くに縮こまる生命に向け、殺意、いや殺意と呼ぶには敵意がなく、敵意と呼ぶにはそれらは敵とすら見なしてない。無垢な子供がアリの巣に水を流すのに殺意はいるのだろうか、無垢な少女が道端に咲いた雑草を踏み潰すのに敵意はいるのだろうか。ただの食欲という本能がそれらを動かす。
一つは、巨大ながら、かなり細身の体の生命に捕食される間際の生命。彼らは、互いに体を抱き合わせ、身を縮め、火花の出るその大きな顎に体を貫かれないように、肥満と化した人類と同じ大きさのGに体を漁られないように、誰かが自分たちを助けてくれるように祈っていた。
しかし、エネルギーの効率がすこぶる悪い漆黒のそれが、腹の中から湧き出る本能に抗うわけでもなく、純黒の奴らが一生命に情けをかけるわけでもなく、存在のする人類より遥かに高次元に住んでいる彼らが手を差し伸べるわけでもない。
現実は非情である。
ちょうどこの文を君達が読み終わったぐらいか、常識に
最後の人類を喰らうが、その食欲は満たされない。次に目をつけたのは、こちらを伺っていた純黒の奴らだ。そちらに顎を向け、火花を散らし飛びかかる。
その後、ここら一帯が明るくなることはなかったが。
約五日間、ダンジョンと化したメガロタワーから脱出ができなかった民間人、計54名。ご冥福を祈る。
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