第15話 異変 2
「ルーファス!」
脂汗をかいてティアの隣にドサリと横たわったルーファスにティアが叫ぶ。ルーファスは薄く目を開け大丈夫だ、と呻くように答えて大きく胸を上下させた。
「ルーファス、傷を見せろ。どこに当たった」
ティアは震える指に苛立ちながらルーファスのシャツのボタンに手を掛ける。額からは汗が滴っているというのに指先は氷のように冷たくて全く言うことを聞かない。そんなティアの両手をルーファスが右手で強く掴んだ。そして諭すようにゆっくりとティアに言う。
「——左肩だ。大した傷じゃないから落ち着け」
致命傷でないことが分かりティアもようやく長い息を吐き出す。ティアが落ち着きを取り戻したのを見るとルーファスはティアの手を握っていた右手をティアの頬に添えて軽く撫でた。
「ティア、あれが墜ちた場所が分かるか」
ルーファスに言われてティアはハッとする。そうだ、さっきのあの鳥、あれは一体何なのか。突き止める必要がある。ティアは頷き、ルーファスを見る。
「あいつの目が分かるな? 視界に入るなよ。——ティア、お前も銃を知ってるだろう。あいつの胴体に小さい銃が付いてるはずだ。きっとまだ動くから気を付けろ」
「わかった。すぐに戻る」
そう言ってティアはあの鳥が墜ちたあたりへ走った。二人がいた場所から三十メートルも離れていない。あたりの草を薙ぎ倒して、その黒い鳥は地面に横たわっていた。
大きさはハヤブサほどで、広げた羽の下に丸い目が一つ、そしてちょうど鳥の脚に当たる位置に銃口があるのが見えた。その目が「カメラ」だと言うのはティアも知っていた。動きはしないが、写真を撮るというカメラを見せてもらったことがある。昔の機械にはそのカメラという目が付いていてこちらの様子が見えるのだと聞いた。ティアは慎重に鳥を仰向けにしてバッテリーと弾倉を外し、羽を掴んで拾い上げルーファスの元へ戻る。
シャツを脱いだルーファスの傷口を確かめると、出血も少なく肩と腕の機能も損なわれていない様子で、ティアはギリギリのところで泣くのを堪えることができた。ティアとルーファスは急いで集合場所まで戻り、二人の姿を見たオーウェンとチェイスが駆け寄って来る。
「ティア、兄さん、いったい何があったの?」
チェイスがそう言いながらティアに代わってルーファスを支えながら木陰に座らせる。オーウェンはティアに怪我がないのを確認し、ティアの話を待った。ティアは鳥の残骸を差し出して経緯を説明する。
「この先に牧草地みたいな草原があって、鉄の柵で囲まれてるんだ。かなり広いと思う。少し見て回ったけどキリがなかった。それでしばらく周りを調べてたら、それが飛んできて、撃たれた。——ルーファスがいなかったら私は死んでた」
ルーファスの方を見ると、チェイスが傷口を洗い、清潔な布にアルコールを含ませて消毒してやっていた。ティアの話を聞き、オーウェンは鳥の形をしたその機械を拾い上げて眺めた。
「カメラと銃を積んだドローンか——」
「ドローン、て昔の機械でしょ? 偵察とかに使ってたって聞いたな」
チェイスがそう呟き、ティアも話に聞いたことがあるだけで、実物を見るのは初めてだった。
「いくつか残ってるのを見たことがあるし、作ろうと思えば作れるだろう。——だが、銃を積んで飛ばしているとなれば、そいつが仲間だとは考えにくいな」
鳥の残骸を眺めながらオーウェンは言い、ティア達は「仲間でない何者か」という不穏な存在について考えざるを得なかった。
——しばらくの沈黙の後、オーウェンはルーファスに声をかけた。
「ルーファス、馬に乗れるか」
ルーファスは頷いて問題ない、と答える。
「ならお前達三人は先に帰れ。全員集まりしだい俺たちもすぐに戻る。チェイス、
オーウェンの指示を受けティアとルーファス、チェイスの三人はドローンを持って一足先に学校へ戻った。チェイスはルーファスに付き添って
ルーファスの様子が気になったが、今は自分にできることをやるのが一番の貢献であると信じた。鼻を寄せてティアの髪を嗅ぐ馬の首を抱きしめて、ティアはルーファスの怪我が酷くないことを願う。馬達に飼い葉を与え飲み水を換えてやり、ようやくティアがルーファスの元に向かったのは日が暮れて月が明るく見える頃だった。
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