第3話 遺跡の住人 2


 かつて人類は地球上の生命の頂点に立ち、爆発的な人口増加を繰り返した。それが、残された資料から読み取れる人類の歴史だったが、もはやそれを信じられる証拠など何もない。今や人類はこの地球上で最も無力な存在なのだった。自然が人々にもたらすものはもはや恵みなどではなく、過酷な試練である。


 「計画」以前に行われたシミュレーションでは、保護されない人々は全滅すると考えられていた。実際ほぼその通りになったが、ほんの僅かに生き延びた者があり、その人々が小さいコミュニティを形成し、現在の環境に適応しつつ細い糸を今日までかろうじて繋いできた。


 そもそも彼らは終局以前から多発した異常な変化を克服した者たちであったので身体的に非常に強靭であった。その後も度重なる過酷な環境変化に耐えた者が残った。彼らは地球に敗北したことを悟り、手に余る科学や偏った繁栄を自ら捨て去ることで自然と共存してきたのだ。共存というにはあまりにも厳しい環境であり、凄まじい勢いで地表を埋め尽くす植物たちの侵食や巨大化した生き物と戦い続けている、といった有様だったが。

 

 奇跡的に彼らには生殖能力が残されており自然な形での妊娠・出産が可能だったが厳しい自然環境と生き物たちとの生存競争によって、その数を増やすことは容易ではなく、またその寿命も短いものであった。


 地球が原初の姿に帰るとき彼らもまた無力な一哺乳類に帰らざるを得なかったのである。太陽が昇っている間だけ、捕食者の目を盗んで食料やその他の資源の調達に走り回る毎日。武器と呼べるものはあってもエネルギーや弾薬を消費する類はほぼ使えない。原始的な斧や槍で戦い、勝つことが出来た者だけが生き延びてきた。ここで暮らす集団はそうして生き延びた者の集まりだった。


 生き延びるために作り上げられたコミュニティの結束は固い。血縁関係にある者が大多数で、上下関係や役割も明確にされ、それが覆ることはまずない。コミュニティ内の人間は大抵が誰かの五親等以内に収まるのだ。結婚相手は他のコミュニティで探し、どちらかのコミュニティに移り住んでそこで家族を作っていく。


 全員が必ず誰かの家族なのだ。子育ても、戦いも皆で協力して行うからこそ固い絆で結ばれている。まるで狼のパックれのような集団なのだ。そんな中でティアだけが誰の家族でもない「赤の他人」なのだった。


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