しあわせな夢を

ぐーすかうなぎ

第一話 懲りないバカ

「綺麗にしたのは、自分の顔だけのようね」


 綺麗にしたのは己の顔だけ。それはわかりやすい皮肉言葉で、暗に「べっぴん以外に器量はないようね」と言っているのである。そんなしゅうとアヤコの無機質な声に、嫁いできたタエはひたすらに頭をさげたのだった。


 アヤコは人のことを、かなりうがった、、、、見方をする人だった。そう、かえってタエが出来すぎても「なんですか。私のツトメまで奪って、気の回らないこと。恥をかいたじゃないの」と引っぱたくし、タエが健気けなげに話しかけても「私の機嫌をうかがうことが貴女の仕事なのかしら」と、そんな具合で。


「あの……、勝彦カツヒコさんは今執筆中で、部屋に入るなと」

「ったく、あの子もあの子で、いつまでも子供なんだから。ま、どうせ?収入も安定しないで生活苦になりますよ。貴女も嫁として、とんだ貧乏くじ引いたとかナゲくんじゃありませんよ」

「そんな風には」

「あっそ、外面がいいのは結構。でもそれが鼻につく人間もいることをお忘れなく。明日の朝には出ていくのよね」

「はい。東京で勝彦さんと暮らします」


 タエにはやはり、この姑アヤコという存在がわからないままだった。注意しながらも、彼女はタエが陰口を言うのをどこかで待っている。

 また別の意味で何を考えてるかわからない勝彦に対し、タエはそっと胸をときめかせていたのだった。


 ことは去年、秋の昼すぎに起きた。アヤコが例にもれずタエにキツくあたっていた時のことだ。眉間にシワを寄せながら勝彦が二人の間を割るようにして現れ、タエの手を握ると、ポツンと言いはなったのである。


『タエを悪く言うな。懲りないバカ』

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