異世界転生した元ヒキニートな俺が大魔導師になれました。さあ、これからヒキニート目指して頑張るぞ!
後藤詩門
第1話 働いたら負け
働きたくない。
そう、俺は働きたくないんだ!
いや、働かなきゃ死ぬってことなら働くさ。
死んでも働かない!
とは言わない。
そこまでの根性は残念ながら俺には無い。
でもさ、できるならば働きたくないんだ。
働かなくても生きている人間は、少ないが確かにいるしね。
例えば貴族。
領地から入る税収でウハウハだ。
働く必要は全く無い。
あるいは大商人。
面倒なことは部下に任せて自分は気楽な生活。
部下に任せるシステムさえ作れば良いのだ。
あとは、自由気ままなセミリタイア生活さ。
他にも色々あるに違いない。
そう、ある種の人間はあくせく働かなくても生きていける。
そんな人間に俺はなりたいんだ。
俺の名前はコミュ・ショーリナ。
カーレン王国の名門、王立魔法学園をもうすぐ卒業する十六歳の学園生だ。
魔法はいい。
凄くいいよ。
これを上手く使えば、働かなくても食っていける!
そんな気がするくらい超便利。
俺がそう言うと、周囲は俺を変わり者扱いする。
でも、いいんだ。周りの目は気にしない。
俺は俺の道を歩むのみ。
働かなくても楽しく生きていく!
これが、俺の人生をかけた今の目標なんだ。
しかし、世の中そう上手くはいかないもんでね┅┅
俺は今人生の岐路に立たされている。
働きたくないのに、働かせようとする悪の組織(構成員約一名)が暗躍し始めたせいで!
就職するか、就職しないか(ただし、恐ろしいお仕置き付き)┅┅
このアルマゲドン級の選択を迫られて、俺は今苦しんでいた。
☆
実は┅┅
俺が通っている名門学校、王立魔法学園はその歴史を振り返っても百パーセントの就職率を誇る学園である。
まあ、そりゃそうだ。
ここはただでさえ稀少な魔法の適正を持つ子供たちを、自国どころか近隣諸国からも集めた国際的な学園。
そして、その才能ある子供たちを教養も備えたハイレベルな魔法使いに育成する教育機関なのだ。
卒業生は最低でも魔導師(ウィザード)の資格持ちになる。
魔道士(ソーサラー)レベルじゃ卒業できないからさ。
その下の魔術師(メイジ)に至っては五年生で止まる。つまり、留年だ。
だから、どこの国のどんな組織も王立魔法学園卒業生を喉から手が出るくらい欲しがっている。
そりゃもう、裏金ワイロなんでもござれのレベルで勧誘されるんだ。
そのくらい魔法使いってのはこの世界では優遇される職業なんだ。
だけど俺┅┅働きたくないでござる!
☆
さて、ここで簡単に魔法使いについて説明しておこう。
魔法を少しでも使えれば総称として魔法使い。そう、マジック・ユーザーと呼ばれる。
だけど、魔法使いにも幾つか階級があるんだ。
まず、初級魔法も使えないレベルの魔法使い。
これは単純にマジック・ユーザー(魔法使い)。
もしくは魔術士(メイジ)見習いと呼ばれる。
分かりやすく言えばファイアー(マッチの火くらい)は何とか出せるけど、初級の攻撃魔法ファイアーボールは無理な人。これが
そして、初級魔法が使える魔法使いは先ほど出てきた魔術士(メイジ)を名乗るんだ。
さらに、中級魔法が使えたら魔道士(ソーサラー)だ。
ちなみに、魔道士とは魔法の道を歩む学士って意味。魔術士は魔術が使える学士って意味らしい。似すぎて分かりづらいから俺の中ではソーサラーとメイジで統一してる。
次に上級魔法を使える魔法使い。これは魔導師(ウィザード)を名乗れる。
魔導師とは魔法を教え導く教師ってところ。生徒から先生に格上げされてるんだ。
さらに、その上。
つまり、超級魔法を操れる魔法使いは大魔導師(アーク・ウィザード)と呼ばれている。
ここから、ぐっと希少性が増すんだよねえ。
王立魔法学園でも大魔導師は二十年に一人の割合でしか排出できていない。
しかし、大魔導師(アーク・ウィザード)もトップではない。
さらに上がいる。
それは、オリジナル。つまり、自分だけの魔法を開発して魔法文明の歴史に新たな一歩を刻んだ者。
彼ら彼女らを、世間は賢者(マギ)と呼び称えていた。
ここまでいくと世界中で名前が知られる存在になるんだ。
他にも色んな種類。
例えば魔物使い(モンスターテイマー)や精霊使い、錬金術や召喚術なんてものがあるけど、大まかに言えばこんな感じだね。
この世界で魔法使いは国家資格レベルの住み分けができている。
だから、錬金術師はモンスターテイマーになれないし、精霊使いは召喚術が使えないってのがデフォルトさ。
もちろん、一人で何でもこなせちゃう人間もいるけど。
俺みたいに┅┅
まあ、それは置いとこう。
ちなみに俺は大魔導師であるアーク・ウィザード。
魔法の勉強頑張ったんだ。
だから、王立魔法学園の卒業生なら就職先は腐るほどある。
だけど、俺は卒業式まであと十日だというのにまだ就職先が決まってないのだ。
卒業が決まった者で就職が決まってない学園生は俺一人。
はい、目立ってます。
いや、別に試験に落ちたとか面接で断られたとかじゃないよ。
俺は俺の意思で就職しないんだ。そう、あえてね。
でも、そのせいで今大変なことになっているんだよなあ。
ああ、頭痛いわ┅┅
☆
「おい、コミュショー。てめえ、いい加減にしやがれよーー!」
ここは王立魔法学園の豪奢な応接室。
普段、学園生が使うことはないが呼び出されたので仕方なく来た。
そして、ふかふかソファーに座らされた俺へ怒声を浴びせるのは目の前のおっさん。
名前はシゲイズ。
高位の魔法使いが愛用する金の刺繍が施された黒いローブを着ている。
見かけは暗黒街のボスみたいな強面だが、実際はカーレン王国の副宰相というお偉いさんだ。
あと、貴族でもある。
シゲイズ伯爵。
けっこう上位の爵位で、上には公爵、侯爵、辺境伯がいる。
下は子爵、男爵、準男爵、騎士爵だ。
当然、上に行くほど人数は少なくなる。
カーレン王国には公爵三人、侯爵四人、辺境伯は一人、伯爵が十人。
子爵以下は多いから省くとする。
伯爵以上は皆、代々続く名家ばかりだ。
それから、黒いローブは大魔導師であるアーク・ウィザード以上しか着れない暗黙の了解がある。
よって、シゲイズ副宰相もまた大魔導師以上の魔法使いだ。
実は、こんなマフィアのボスみたいな顔して賢者(マギ)なんだよね。何気にここの卒業生で、俺にとっては大先輩にあたる。
だから、俺のことをコミュショーと呼んでも黙って受け入れるしかない。
俺、名前を略されるの嫌いなんだ。
俺の名前はコミュ・ショーリナ。コミュショーと略されるとコミュ症みたいで何かイヤ。
さっきから、コミュショーコミュショーと連呼されて少しイライラしてる。
でも、おっかないから文句は言えないよ。
そのおっかないシゲイズ副宰相の周囲には、学園のトップである学園長を始め学園幹部の先生方が勢揃い。
みな黒いローブを着ている。当然、大魔導師以上の高位の魔法使いばかりだ。
あっ、一人だけ濃い紫色のローブだった。紫色は王族しか着用できないローブだ。
なんとこの学園には王族もいるのですよ。流石は王立魔法学園。
さて、彼らは全てシゲイズ副宰相と共に俺を吊し上げるため集まったお歴々。
名目上はね。
実際はシゲイズ副宰相がやり過ぎないように見守ってくれてるお目付け役だ。
ぶっちゃけ、ありがたい。怒れる大魔人シゲイズ副宰相と二人っきりとか嫌だもん。
しかし、ただの学園生を相手にこのメンツは理不尽だよなあ。
「なあ、コミュショー。俺も鬼じゃねえ。正当な理由があるならてめえが就職しないことにも目を瞑ろう。ほれ、理由を言ってみろ!?」
先ほどから何度も繰り返されるこの質問。
だが、俺の答えは決まっていた。
「……いや、その、なんとなく働いたら負けかなって?」
「ふざけんな、コミュショーー!」
オーガの咆哮。
いや、シゲイズの咆哮。
あまりの迫力に幻が見えたよ。
マジでモンスターのオーガに似てるよなあ。
俺の最後の言葉に被せるようにシゲイズ副宰相が喚く喚く。
カルシウムが足りてないのかな?
少し心配になる。
しかし、何で一学園生が就職しないってだけで王国の副宰相というお偉いさんが怒るのか?
それはこの王立魔法学園が持つ特殊性にあった。
「いいか、コミュショー! てめえも知っての通り、ここは魔法使いを養成する学園だ。貴重な人材をバックアップするため王宮から必要な資金は全部出ている。てめえの学費もタダ。てめえが食った飯代もタダ。てめえが着ている制服もタダだ。全て国王陛下の恩情だぞ。おい、コミュショー。てめえにとって国王陛下はどんな存在か言ってみろ!」
そう、激オコのシゲイズ副宰相が言うように王立魔法学園は全てが無料。タダなのだ。
それは魔法が使える人材を野に埋もれさせないため、十代前の国王陛下が取り決めた方策。
毎年、国費のかなりを注ぎ込んでいるらしい。カーレン王国で唯一の王立学園は伊達じゃないのだ。
まあ、ここは魔法至上主義の世界。魔法を使える子供が特別視されるのも無理はない。
おかげで、俺のような平民でも快適に魔法を学び楽しく過ごせてきた。そこは本当に感謝しているよ。
「どうした、コミュショー。てめえにとって国王陛下がどんな存在か早く言え!」
思わず「タダトモです」とお茶目に答えそうになったが止めておく。
この言葉をシゲイズ副宰相が知ってるとは思わないけど念のためにね。怒らせると怖いし。
実は俺、転生した日本人。ただし、記憶は曖昧なのでハッキリとは言えないが……
引きこもりのニートだったのは覚えているんだ。
略してヒキニート。世間的には誉められはしなかったけど、俺は楽しかったよ。
引きこもった理由は高校の時のイジメ。そして、それ以降はズルズルと。
三十四歳までの記憶があるから、どうやらそこで俺は死んだっぽい。
ずいぶん早死にだよな?
何があった、前世の俺?
まあ、今は異世界で幸せだから気にしないでおこう。
おっと、シゲイズ副宰相がゆでダコみたいになってる。何か答えないとヤバイな。
タダトモは置いといて、国王陛下の存在は俺にとって……
「や、優しい父親のようなお方です」
日本にいたころの父親のようにニートさせてくれたら最高なんですが。
俺の内心の呟きには気付かず、シゲイズ副宰相は満足したように頷いた。
「その通りだ、コミュショー。わかってんじゃねえか。国王陛下は俺ら魔法使いの偉大な父親のようなお方だ!」
良かった。シゲイズ副宰相の機嫌がほんの少し良くなったようだ。
このまま、就職しない俺の選択も認めてくれ。俺は働きたくない!
これは前世から続く俺の矜持なんだよ。
だが、物事はそう上手く運べるわけもなく……
「国王陛下はな、偉大な父親として俺ら魔法使いに気を使ってくれてるんだ。それは将来、国のために働いてくれることを期待しての先行投資だよ。それをなんだ? 働いたら負けだと? おい、コミュショー。お前ふざけてんのか? つまらんこと考えてねえで、お国のために働きやがれーー!」
シゲイズ副宰相ご乱心。
向かい合うソファーでここまで騒がれると昔を思い出してしまう。
イジメが嫌で引きこもったばかりの頃、親戚のおっさんが偉そうに講釈垂れてたよなあ。
あの時は本当に辛かった。
イジメくらいで学校休むなとか言われたよ。
馬鹿だの阿呆だの腰抜けだの、最後は無能の穀潰しとまで言われたっけな。
でもな、親戚のおっさん。イジメって辛いんだぜ?
周囲がみんな敵だらけに見えるんだ。
授業以外の時間が苦痛でしかなかった。
普通は逆だろ? 休み時間が苦痛なんて考えられないよ。
でも、高校時代の俺はそうだった。
あんたにはこんな気持ち分かんねーだろうな……
というか、おっさんはイジメられた経験あんのかよ?
偉そうなことは自分でイジメを跳ね退けてから言えや!
そう思ったが、当時は何も言えなかった。情けないけどメソメソ泣くしか出来なかったんだ。
しかし、今は違う。
俺は異世界で魔法の才能を与えられた。
もう、無能じゃねえ。どっちかと言えば有能。いや、超有能なんだよ。
だから、俺は無職の道を選ぶんだ。
そう、前世でヒキニートと蔑まれた俺が今世でもヒキニートになってやるのさ。そして、幸せになるんだ。
引きこもるのは無能だったからじゃない!
仕方ない運命だったんだ。
だから、俺は異世界でも引きこもってやる。
超級魔法を使いこなす貴重な大魔導師であるアーク・ウィザードの俺がヒキニート。
これで、前世で俺を無能だなんだと扱き下ろした連中に勝てる気がするんだ。
そう、これは俺の前世から続くプライドをかけた戦い。
聖戦なんだよ、シゲイズ副宰相!
「よし、コミュショー。てめえに選ばせてやる」
おお、俺の無言の抗議が届いたのか?
シゲイズ副宰相がニヤリと笑って俺に選択権を与えてくれた。
ここまでは就職一択しかなかったのにさ。
もちろん、俺の答えは決まってるぜ。
「もし、卒業式までに就職を決められなかったら┅┅」
「な、なかったら?」
勿体ぶるシゲイズ副宰相に俺は先を促す。すると彼はこう言った。
「俺の娘であるアッキーと結婚しろ。いやあ、良かったなコミュショー。てめえの言ってた働いたら負けってのを実現できるぜ? 俺の領地は税収が良いからなあ。嬉しかろ?」
なるほど、永久就職か!
シゲイズ副宰相は伯爵。領地も広いと聞く。
娘のアッキーさんと結婚すれば、働かなくても税収だけで食っていける。
死ぬまで引きこもっていられるんだ!
俺はすぐさまシゲイズ副宰相に頭を下げてこう言ったよ。
「就職します。ですから、結婚は無しでお願いします」
日本には負けるが勝ちという言葉があるのだよ……
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