第2話 記憶が戻る――この人生は五回目

 普段、お父様は領地で暮らしている。半年に一度ぐらいしか会えない関係だ。


 私と、継母やクリスティーナの間に距離があることはご存じだけれど、ここまで深刻なものとは思っていない。


 私が一人で別棟にいるのも、死んだ母親の面影を追ってのことと本気で信じているらしい。


 本当のことを話してみたい、と思ったこともある。けれどクリスティーナに取り上げられたネックレスが頭に浮かんでできなかった。


 古びた姿見に映る自分の姿を確認する。落ち着いたストロベリーブロンドに深いルビー色の瞳、華奢な体躯。どれも、お母様譲りの外見をしているらしい。


 かつて、古参の侍女・ルーシーはよくお母様の話をしてくれた。


『この世のものとは思えないほどの、儚げな美しさのお方でした。セレスティアお嬢様はお母上によく似ておいでです。だからこそ、奥様は冷たく当たるのでしょう』


 ――そのルーシーも、今はもう屋敷にいない。


 着替えを終えた私は、クリスティーナに続いて母屋へと渡る。今日は、神殿で『啓示の儀』を受ける日。聖女や神官など、神に仕える特別な職業への適性がないかを調べるのだ。


「何だか、今日はいいことが起こる気がするの。まぁ、お姉さまには無縁な話かもしれないけれどね。世の中には、恵まれた星のもとに生まれる人間がいるのよ?」


「……」


 自信たっぷりのクリスティーナが眩しい。私の価値は、由緒正しい伯爵家出身のお母様をもち、マーティン様の婚約者だということだけ。


 そんなことを思いながらロビーに差し掛かる瞬間、嫌な気配がした。



 ――ガシャン。



「キャーッ」


 ホールに響き渡るガラスが割れる音。鼓膜をつんざくようなクリスティーナの悲鳴。何が起きたのかわからなかった。


 私はいつの間にかしりもちをついていて、使用人に突き飛ばされ庇われていた。どうやら、足元にシャンデリアが落ちたらしい。


「お怪我は」


 めったに話しかけてこない使用人たちも、さすがに緊急事態と判断したのだろう。久しぶりの会話に、震える唇を動かそうとしたとき。



 ――頭の中にいろいろな映像が流れ込んできた。


 

 お父様が強盗に襲われる場面マーティン様からの婚約破棄留学ベリーソース未来の予知瑠璃色奇襲勇者って誰何二人の聖女罠黒竜退治での一閃彗星病異母妹達に謀られて死ぬ盾にされて死ぬ治癒魔法を使いすぎて死ぬ好きだった人に裏切られて死んだ。



「あ、いま私が送っているのって、5回目の人生だったわ」


 そうだ、私は人生をループし続けている。


 そして記憶を取り戻すのは毎回決まって十五歳のこの日。雪が降った朝、クリスティーナに借りたレモンイエローのドレスとコートを着て、シャンデリアが落ちた瞬間。



 5回目ともなれば混乱することはない。あっさりとすとんと、胸に落ちた。

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