第136話 仏心について。

ここは、次元回廊内。

土竜が闇商人から購入した掘削機器で掘り進めてきたトンネル内である。

幅が15m程度あり、壁天井は半円形になっていた。

表層は、綺麗に舗装され凹凸のようなものは見受けられない。

換気用にファンが動いており、新鮮な空気が流れている。

等間隔で配置されている照明が回廊内を明るく照らしており、閉鎖した空間であるが、息苦しさというものは感じない。

私の正面には赤色RARE種のイルカ擬きが申し訳なさそうにしている姿があった。

大規模な部隊をロジカルに展開させてきた司令塔で、指揮力が高い優秀な戦術家だ。

土竜からの情報によると、摩凛がいる無人島を中心にし、七武列島近海から魚が消えたという。

客観的に考えて、摩凛が従えているイルカ擬きの群れが、その原因であると予想がつく。

つまり、降りてきた神託を遂行するには、現れた赤色RARE種の魔物達を討伐すればいいことになる。

私に会いにきた話しを伺った後、問答無用で殺処分させてもらいましょう。

土竜は、来訪者のために4人掛けテーブルの椅子を引いてこちらへ座るように誘導し、少年神官はお茶を用意していた。

赤色のRARE種は、丁重な言葉で話しかけてきた。



<三華月様。まずは無人島での無礼を詫びさせて頂きます。>

「敵に対しては当然の行動でしょう。無礼とは思っておりません。」

<そう言って貰えますと助かります。>

「早速ですが、あたながここに来た用件を伺います。」

<その話しをする前に、土竜さんと少年神官さんへ、通訳を頼めないでしょうか。>

「はい。伺います。」

<私は椅子に座れないこと。そしてお茶は飲みないことをお伝えしてもらえないでしょうか。>



少年神官と土竜へ視線を送ると、意図を読み取ったのか、2人は無言で会釈をし、即座に対応を切り替えてきた。

普段はガラクタな2人が、優秀な執事に見えるのは何故なのかしら。

再び視線を正面に戻すと、赤色RARE種が落ち着いた口調でここへ来た用件を話し始めてきた。



<三華月様。結論から申し上げますと、私達一族を殺さないでもらえないでしょうか。>

「つまり命乞いをするために、私へ会いに来たという事ですか。」

<三華月様のために誠心誠意、尽力することを誓います。>

「残念ながら、そのお願いはお受けできません。」

<その理由をお聞かせ願えないでしょうか。>

「地上世界からすると外来種のような存在であるあなた達が、近海の魚を食べまくっているため、地上世界の生体系が崩れつつあるからです。」

<私たちは地上世界の魚は食べませんよ。>



なぬ。イルカ擬き達は魚を食べないのか。

摩凛が使役しているイルカ擬き達が近海の魚を食べまくっていると勝手に思いこんでいただけということか。

砂浜で視認しただけでも、300個体以上はいた。

奴等は一体何を食べているのかしら。

いや。そこは重要ではない。

その話しが本当だとしら、魚が消えてしまった原因が何であるかが大事なのだ。

更に赤色のRARE種が話を続けてきていた。



<そうは言うものの、私達の存在を恐れて、この海域で生活していた魚達がこの近海から逃げていったことは事実ではあります。私達の存在は、この海域において無害であるといずれ認識されるとは思いますが、現時点において地上世界の生態系を崩しているのが現実であり、この世界にいるべき存在ではないことも理解しております。>



言葉遣いも丁寧だし、無茶苦茶しっかりした奴だな。

|イルカ擬き達は、この地上世界にいるべき存在でないことを理解しているが、去ることが出来ない事情がある。

つまり、摩凛に使役されてしまったため、自由が利かない。

お友達であるはずの摩凛からの命令に逆らえないと言っているのかしら。




<三華月様。摩凛の『テイム』から私達を解放してもらえないでしょうか。>

「私が、ですか。」

<はい。よろしくお願いします。>

「摩凛へ話しをして、『テイム』を解除するように直接お願いすればいいではないですか。それとも、何か出来ない事情でもあるのでしょうか。」

<摩凛は私達と会話をすることは出来ません。>



摩凛は、イルカちゃん達の国をつくるという夢をキラキラした目で語っていた。

だが、イルカ擬き達からは迷惑な存在だったということか。

さすが私の見込んだ女だ。

このまま放置しておけば、問題を重くみた近海の国と戦争を始めたり、邪神の異教徒の受け入れ皿のような存在になっていくだろう。

赤色RARE種には、貴重な情報を提供してくれて感謝だな。

同情する余地もあるものの、所詮魔物であることは変わりない。

ここで赤色RARE種の願いを聞く必要もないし、そもそも面倒くさいことは嫌いだ。

ここは奴等を殺処分して、少しでも問題を少なくする方が望ましいところだろう。

聖女であるが、私は仏心という邪魔なものを持ち合わせてはいないのだ。

赤色RARE種と交わしていた言葉を聞き、会話の内容を察した少年神官と土竜が話をしている声が聞こえてきた。



「土竜君。三華月様の行動をどう読む?」

「三華月様は、信仰心のためなら残虐非道な行為に一切の迷いがない聖女ですから。」

「やはり、赤色RARE種は、三華月様の餌食になってしまうのということなのか。」

「はい。それが妥当な線ではないかと思います。」

「何とかしてあげられないのか。」

「何とかですか。」

「土竜君。規定のテンプレだ。そこに打開策となるヒントがあるんじゃないのか。」

「そう言えば、人害の敵が、理由なく味方になるという必勝パターンがありました。」

「それだ。その方法を教えてくれ。」

「はい。人害は、主人公との戦闘に敗北し、何故かつるぺたヒロインへ姿を変えるのです。」

「つるぺたヒロインだと!」

「はい。理由は分かりませんが、何故か、人害のつるぺたヒロインは、主人公になついてしまい、膝の上でゴロニャンとするテンプレがあるのです。」

「土竜君。それだけは絶対に駄目だぞ!」

「駄目ですか。」

「つるぺたヒロインは、目の前にいるじゃないか。」

「やはり、三華月様とキャラがかぶってしまうということですか。」

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