第107話 残念な量産型のキャラ設定とは

空を覆う暗黒の雲から細い雨が降っていた。

太陽が昇るっている時間帯であるが、あたりは夜のように暗い。

海面から10mの高さにある旗艦ポラリスの甲板から見る浮島が、生き物のように動いていた。

緋色が金色の鍵を使用したとん、動き始めたのだ。

私はペンギンを抱きかかえポラリスへ退避し、状況を見守っていた。

金属や木材が擦れ、恐竜の唸り声のような音が聞こえてくる。

ガラクタを継ぎ接ぎして造られた浮島がその形状を変え始めていた。

更にそのガラクタ達が、組織構造が異なる木目模様の素材へと変貌しつつある。

足元で同じ光景を見ていたペンギンが、現状況について説明をしてきた。



「三華月様。緋色の話しを聞いた限りでは、浮島が『ラーの軍船』という代物へ変化しようとしていると考えてよいかと思います。」

「浮島を構成していたガラクタ達が変貌しているあの木目模様の金属は、もしかして『ダマスカス鋼』でしょうか。」

「はい。地上世界において、最も耐久力が高いと言われる金属、ダマスカス鋼で間違いありません。」

「鉛よりも比重の高い金属が、緋色の『フロート』の効果で浮いているわけですね。」



ダマスカス鋼。

それは特定の『精霊』が生み出している鋼材。

装備品として重宝される『ミスリル』と比べ、10倍以上の重量があるため、冒険者達からは嫌厭される金属だ。

だが、ミスリル金属よりも遥かに耐久力が高く、さらに柔軟な特性を持っている。

月の加護が無い状況では、私でもそうそうその装甲を突き破ることは出来ない代物だ。


目の前では、ガラクタを継ぎ接ぎしていた浮島が、メタリックな木目模様が施された船へ姿を変貌させていた。

全長は100mくらいか。

継ぎ目がない滑らかな流線形をしている。

一切の無駄をそぎ落としたシンプルな形状なゆえに、その姿が美しい。


船内の状況は分からないが、緋色を含めた全ての漂流者達が閉じ込められてしまった。

性能だけで言えば旗艦ポラリスよりも遥かに優れているのだろう。

クラーケン達が棲む深海エリアを無事に突破してくれるのなら、天空神ホルスが復活することになったとしても、それでいい。

私としは、同族の命を護ることが何よりも優先されるのだから。


流線形をした木目模様の船が動き始めている。

ポラリスも風から推進力を得て追走するものの、静かに海上を走るラーの軍船から一気に距離を置かれていた。

もうまもなく、軍船は深海エリアに到達するだろう。

足元で指揮棒を振るいながら、4本のマストに張られている帆を器用に操っているペンギンへ、今後の展開について聞いてみた。



「ペンギンさん。まもなく軍船が深海エリアに到達します。」

「はい。ポラリスの底に装備しておりますソナーが、深海から上がってくるクラーケン達を捕らえております。」

「やはり、軍船の航行を阻むつもりということですか。」

「はい。奴等の目的は、この世界を蹂躙した天空神を復活させないこと。軍船内に天空神ホルスが幽閉されているかは不明ですが、復活するための素材が船内にあるのは間違いないでしょう。」

「ペンギンさんの目から見て、軍船は、クラーケン達からの攻撃を突破できると思いますか?」

「四天王の一角であるこのペンギンからへ愚考を申し上げます。私の見立てでは、イムセティは勝算があり緋色へ軍船を託したものと思考します。」



ペンギンはクラーケン達の攻撃を回避し、包囲網をすり抜けられると考えているのか。

それは漂流者達が無事に地上世界へ戻ることを意味しており、そう出来るのなら、私が軍船の航行に干渉する余地はない。

ふと足元へ視線を送ると、指揮棒を振るっているペンギンが物凄いドヤ顔で私を見ていることに気が付いた。

何かを求められている感じがする。

そう言えば、先ほど何気に私のことを魔王と呼んでいた。

ああ、これは。私に魔王役をやらせたいのだろう。

はいはい。面倒ではありますが、それくらいさせてもらいますよ。



「うむ。さすが我輩の最も信頼できる四天王だ。私にお前が考えるイムセティの勝算とやらを聞かせてみよ。」



ペンギンからドヤ顔が消え、キリリとした顔つきに変わっていた。

どうやら、正解を引き当ててしまったようだ。

正解を導きだし、本来なら喜ぶところなのかもしれないが、どんよりと暗い気持ちになっていく。

今更ながらに思うのだが、面倒くさいことになってしまった。

ペンギンは、貴族風に優雅な仕草で頭を下げながらしっかりとした口調で言葉を返してきた。



「至高の御方よりもったいないお言葉を頂戴し、恐縮でございます。」

「うむ。」

「愚考ではございますが四天王の一翼をになうペンギンから、ラーの軍船についての分析と予測をお話しさせて頂きます。」

「うむ。うむ。」

「ダマスカス鋼で造られたラーの軍船の形状を分析したところ、軍船はあらゆる物理攻撃を受け流す設計になっているものと思われます。」

「ほおぅ。」



魔王はだいたい『うむ。』と『ほおぅ。』言っておけば大丈夫だというの都市伝説を、何気に実証してしまったぜ。

その話しはおいといて、ペンギンは軍船がクラーケンからの包囲網を突破できると考えているのか。

漂流者達が無事に地上世界へ戻れるならば、私としてはそれでよし。

天空神が復活してしまい、配下であるイムセティを殺した報復をしてくる可能性もあるだろうが、その時はその時だ。

指揮棒を振るい旗艦ポラリスを器用に操舵しているペンギンを見ると、少し不機嫌な顔をしている。

何か気に入らないことでもあるのかしら。



「三華月様。私から一つ注文があります。」

「私への注文ですか。」

「はい。魔王らしく、会話の語尾には『~じゃ。』に統一してもらえますと、さらに雰囲気が出て、魅力的ある個性的な女の子になるものと思います。」



それは、封印されていた人害が討伐されてしまったにもかかわらず、殺されなかったことに恩義を感じ、ツルペタロリ姫の姿になり、主人公の膝の上でゴロゴロするキャラ設定のことを指しているのだろうか。

男に媚びる、個性が無い残念な量産型ではなかろうか。

ペンギンが念のためみたいな感じで話しを続けてきた。



「賢明で偉大なる魔王様ならばすでに気が付いているものと察しますが、天空神ホルスが復活してしまいますと、自身の眷属であるイムセティを殺した三華月様に報復してくるかもしれません。」

「うむ。その時は、まずは四天王であるおぬしに相手をしてもらおう。期待しておるぞ。」

「え。私がですか。」



ペンギンがフリーズしてしまった。

魔王の前裁きは四天王が相手をするのが定石であり、そして絶滅してしまうが鉄則だ。

そうなってしまったらペンギンとはGoodbye_foreverだな。

そのペンギンが目を背けながら、再び訳の分からない事を呟き始めた。



「そもそも四天王とは4人がいてこそのものであり、私1人では未完成です。つまり私はまだ四天王では無いものと思われます。天空神との戦闘では、残念ながら三華月様のお役にたてそうにありません。」

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