第107話 残念な量産型のキャラ設定とは

七武列島へ向かう途中、操舵士として招聘したペンギンが次元の狭間を見つけてしまい、侵入したラグナロク領域にて、ホルス神の配下であるイムセティを瀕死の状態まで追い込んだ。

イムセティの目的は、緋色のスキル『フロート』を利用してホルス神を復活させること。

絶滅したイムセティから力を受け取り自信を取り戻した緋色は、世界の調和者になると宣言し、『ラーの軍船』を呼び寄せるという金色の鍵を使用してしまった。


空を覆う暗黒の雲からシトシトと雨が降っている。

突然、生き物のように動き始めた浮島から旗艦ポラリスへ退避し、甲板からその様子を見つめていた。

ガラクタを継ぎ接ぎしてつくられていた浮島が、その形状を変えようとしているようだ。

金属や木材が擦れ、恐竜の唸り声のような音が聞こえてくる。

これから、この物体達がラーの軍船とやらに変わっていくのかしら。

更に、いろんなものを寄せ集めていたガラクタ達が、全く異なる素材へ変貌し始めていく。

足元で同じ光景を見つめていた最古のAIであるペンギンに、異質なものに姿を変えようとしている浮島についての分析を聞いてみた。



「ペンギンさん。ガラクタで継ぎ接ぎされた浮島が、組織構造が異なる木目状の鋼材へ変化しているように見えますが、あの物質の正体について教えてもらえませんか。」

「はい。あれは世界で最も重い金属とされる『ダマスカス鋼』であると推測します。」



ダマスカス鋼とは、数ある『幻影通り』にいる特定の『精霊』が生み出している鋼材で、地上世界において欠かせない金属の一つだ。

ミスリルと比べると、比重が高く、強度もおよばないため、装備品として使用されることは無いが、耐久力が異常に高く、さらに柔軟な特性を持っている。

目の前では、既に浮島全体が木目模様をしたダマスカス鋼に変わっており、全長100m程度ある美しい流線形をした船に姿を変えようとしていた。

その姿は、世界の記憶アーカイブに記録されていた、宇宙を航行するノーチラス号に酷似している。



「ペンギンさん。緋色がラーの軍船を呼んだとしても、『ホルス神の力が無ければ、その船はガラクタ同様な存在』だと言っていたと記憶していますが、見た感じ船として機能していませんか。」

「はい。本来の性能を発揮するには遠くおよばないものの、緋色のスキル『フロート』の効果が、ダマスカス鋼で構成された軍船を海に浮かせているようです。これは私の見込み違いであったと認めざるえません。」



ペンギンと会話をしている間に『ラーの軍船』への変形が完了していた。

メタリックな木目模様の装甲で構成され、その形状は継ぎ目のない流線形に仕上がっている。

シンプルな形ゆえ、無駄なものの一切を削ぎ落とし、それ故に美しさを感じさせる。

船内の状況は分からないが、緋色を含めた漂流者達が閉じ込められてしまった。

この状況は、下手に攻撃を加えてしまうと漂流者達を傷つけてしまう可能性があるということか。

絶滅したイムセティは、『ラーの船を使えば外洋にいるクラーケン達の群れを突破でき、地上世界へ戻ることができる。』と言っていたが、それが可能ならばこのまま放っておいてもいいかもしれない。

そう。クラーケン達からの攻撃を突破することができるかが問題なのだ。


ラーの軍船が静かに動き始めていた。

足元にいるペンギンへ視線を送ると、持っていた指揮棒を振るい始めている。

軍船にたっている4本のマストに張られている帆が開き、軍船を追いかけるように始動した。

ラーの軍船がぐんぐん速度を上げており、後ろを追うポラリスは徐々にその距離が引き離されていく。



「ペンギンさん。軍船は地上世界を目指しているようですが、クラーケン達からの攻撃を突破できると思いますか。」

「はっ。四天王の一角であるこのペンギンから愚考を申し上げます。この状況を見る限り、イムセティは勝算があり、緋色へ軍船を託したものと思考します。」



四天王って、急にどうしたのでしょうか。

愚考を申し上げるって、そのおかしな言葉遣いは、何かの役作りなのでしょうか。

それはともかく、その愚考とやらの続きをお聞かせ願いたい。

甲板の上で指揮棒を振るっているペンギンが物凄いドヤ顔でこちらを見ている。

ここは、適当に話し方を合わせておけばいいのだろうか。

私が魔王の設定でいいのかしら。

やれやれ。面倒くさいペンギンだ。



「うむ。さすが我輩の最も信頼できる四天王だ。吾輩にペンギンが考えるイムセティの勝算とやらを聞かせてみよ。」



私からの言葉にペンギンからドヤ顔が消え、キリリとした顔つきに変わっていった。

今の話し方で正解だったのかしら。

気は進まないが、少しばかりお付き合いさせて頂きます。

そのペンギンが優雅な雰囲気を演出しながら頭を下げ、しっかりとした口調で言葉を返してきた。



「至高の御方よりもったいないお言葉を頂戴し、恐縮でございます。愚考ではございますがペンギンから、ラーの軍船についての分析と予測をお話しさせて頂きます。まずラーの軍船に使用されている装甲の素材である『ダマスカス鋼』についてですが、硬度はそれほどではないものの耐久力が高く物理的打撃を吸収する性質を持っており、さらに軍船の形状を分析すると、クラーケン達からの攻撃を受け流す設計になっているものと考えます。」

「なるほどのぅ。『ダマスカス鋼』の破壊されにくい長所と、変形しやすいという欠点を上手く利用して、あの船は設計されておるということか。」

「That‘S_exactly!」



本来の力を取り戻していないとはいえ、神であるイムセティが、簡単に絶滅してしまったことに違和感があったが、ホルス神を復活させるため自身の命を差し出し、ラーの軍船を再構築させたのは、やはり地上世界へ行けるたけの算段か出来ていたということか。

何にせよ、これで漂流者達が無事に地上世界を戻れるならば、私としてはそれでよしだ。

主神ホルスが復活してしまい、配下であるイムセティを殺した私へ報復をしてきたとしても、月が輝く夜ならば返り討ちにすることが出来るだろうしな。

指揮棒を振るい旗艦ポラリスを器用に操舵しているペンギンを見ると、少し不機嫌な顔をしているようであるが、何か言いたいことがあるようだ。



「三華月様。会話の語尾を『~じゃ。』に統一してもらえますと、さらに雰囲気が出て、魅力的ある個性的な女の子になるものと思います。」



それは、封印されていた人害が討伐されてしまったにも関わらず、殺されなかったことに恩義を感じ、ツルペタロリ姫の姿になり、主人公の膝の上でゴロゴロするキャラ設定のことを指しているのだろうか。

それって、ありきたりと言いますか、個性のないよくある量産品で、男に媚びる残念なキャラではなかろうか。

ペンギンが念のためみたいな感じで話しを続けてきた。



「賢明で偉大なる魔王様ならばすでに気が付いているものと察しますが、ホルス神が復活してしまいますと、自身の眷属であるイムセティを殺した三華月様に報復してくるかもしれません。」

「うむ。その時は、まずは四天王であるおぬしに相手をしてもらおう。期待しておるぞ。」

「私がですか。」



ペンギンがフリーズしてしまった。

魔王の前裁きは四天王が相手をするのが定石であり、そしてやられてしまうのが鉄則だ。

そうなってしまったらペンギンとはGoodbye_foreverだな。

そのペンギンが目を背けながら、再び訳の分からない事を呟き始めた。



「そもそも四天王とは4人がいてこそのものであり、私1人では未完成ですよね。つまり私はまだ四天王では無いものと思われます。ホルス神との戦闘では、残念ながら三華月様のお役にたてそうにありません。」

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