第105話 神殺しについて

雨足が少し強まってきていた。

海面から霧があがり始め、雨と潮のにおいの入り混じったにおいがしてくる。

ペンギンによってポラリスへ実装されていた8門の古代技術で造られた対空機関砲からの一斉斉射が、時速200kmを超える速度で海面スレスレの高度を保ちながら旗艦ポラリスへ突撃してきたイムセティを蜂の巣にした。

既に鳥の姿が分からなくなったイムセティが、力無くガラクタで継ぎ接ぎされた浮島へ不時着をしていく姿を確認したペンギンは、甲板で指揮棒を優雅に振りながら旗艦ポラリスを鋭く旋回させ、浮島に着岸させようとしている。

そのペンギンは、ドヤ顔をしながらこれまでに獲得していた情報を基に、この世界について分析していた話しを始めてきた。



「三華月様。ラグナロク領域はご存知の通り神々が戦った世界であり、元々は大綿津見神の眷属であるクラーケン達が支配していたようです。帝国旗艦ポラリスがこの世界に侵入してきた際、クラーケン達が襲い掛かろうとしてきた理由は、自分達の世界を荒らした外来種のような存在である三華月様を駆逐しようとしたものと考えられます。」

「なんと。クラーケン達は、清純かつ可憐な女の子の姿をしている私が、外来種のような存在だと思ってしまったのですか。」

「そんなアホみたいな、どうでもいいことなど、地下深くのマグマの底の底へ埋めておいて下さい!私が言いたいのは、神々の戦いで勝利した三華月様に歯向かうとは不埒な奴等だということです!」



おいおい。私が清純かつ可憐な女の子という情報が、アホみたいでどうでもいいことなのかよ。

クラーケンよりもペンギンの方が不埒な存在なのではなかろうか。

それに私が神々の戦いで勝利したとは、どういうことなのだろう。

確かに女神のように美しい女子であることは否定できないところではあるが、神々の戦いには参加しているわけはない。

その不埒なペンギンが、続けてイムセティの処遇についての話しを始めてきた。



「続いて、三流神のイムセティの目的について説明させてもらいます。それは、神々の戦いに敗北してしまい、この地に封印されていると思われる主神ホルスを復活させることでしょう。そのためには天空から加護を受ける必要があり、そのために緋色のスキルにて何か重要なものを海に浮かせたいものと推測されます。なんにしろ、ここでイムセティは抹殺しておくべきであると考えます。」

「全く興味が無い話しを聞かせて頂き有難うございます。それでは、ペンギンさんが提案されたとおり、さっさとイムセティを処刑してしまいましょう。」

「YES_MINE_MASTER」



海面から約10mの高さにある甲板から接岸した浮島を見下ろすと、イムセティの怒気により未だに気を失っている漂流者達の姿が見える。

そして翼を失い、全身を蜂の巣にされたイムセティは芋虫のように這いずり、目指す方向に気を失っている緋色の姿があった。

最後の力を振りしぼり、緋色を取り込もうとしているのかしら。



「ペンギンさん。イムセティがまだ良からぬ事を企んでいるようです。私へ命乞いをさせる必要は無いので、サクッとトドメを刺して貰えませんか。」

「え、私が奴にトドメをさすのでしょうか。」



私からのお願いを聞いたペンギンが、今までに見せたことがないくらい動揺している。

今しがた、イムセティを殺すべきたと進言してきたばかりのはず。

なにがどうしたのかしら。

足元にいたペンギンが顔色を変えて、目を吊り上げている。



「申し訳ありませんが、あの三流神のトドメについては、三華月様の手でお願いします。」

「どういうことでしょう。何か、ペンギンさんにはトドメを刺したくない事情でもあるのでしょうか。」

「もしもの話しですが、将来ホルスが復活してしまったとしたら、『イムセティを殺した者を見つけ出し、我が眷属と同じ苦痛を味合わせてやる。』とか言ってきそうじゃないですか。その時は、四天王である私を三華月様は助けてくれるのでしょうか。そもそも嫌な仕事を配下へ押し付ける行為ってパワハラに該当するのではないですか。」 



ペンギンは私をマインマスターと呼んでいるが、何とも薄っぺらいマスターなのだな。

それに、汚れ役には慣れているとはいえ、私も神殺しにはなりたくないし。

とりあえずですがイムセティを動けなくしておこうかしら。

雨が降り仕切る中、甲板の端にある手摺りの下段へ片足を乗せて、運命の弓を構えた。

イムセティは動けないように床に張り付けにさせてもらいます。

矢をリロードし、弦を引き絞り狙いをつけた。

スキル『ロックオン』を発動。

ギリギリと弓を引き絞り、弓のエネルギーが臨界点に達した。

それでは狙い撃たせてもらいます。

――――――――――――SHOOT。


雨が降る中、音速で走る運命の矢が起こしてしたジャイロー回転により、弾道の跡を追い水しぶきのラインが伸びていく。

翼を失ったイムセティの胴体を運命の矢が串刺しにするように、浮島の床へ張り付け状態にした。

そのイムセティはモゾモゾともがくものの、動くことが出来ない状況に諦めたのか、徐々に静かになっていき、その様子を見ていたペンギンが口に手を押さえている。



「生かさず殺さずの状態にしてしまったのですか。それにしても、無慈悲にとても酷い事を平気で実行してしまうとは、さすがは三華月様です。」



生かさず、殺さずって、もっといい表現方法をして下さいよ。

私だって神殺しには成りたくないし、かといって緋色を取り込まれるのも阻止しないといけないし、妥協点がこの方法だったわけですよ。

気がつくとペンギンが私の太ももをペシペシと叩いている。



「三華月様。イムセティをあの状態のままにしておくと、復活して我々に何かをしてくる可能性もありますので、ここは外海の底へ奴を沈めてクラーケン達に処分してもらいましょう。」



なるほど。

神殺しはクラーケン達に代行させるというわけか。

生かさず殺さずよりも、遥かに残虐な提案である気がするが、それがベターな選択なのかもしれない。

雨が降りしきる中、ペンギンを両手に抱えて、甲板から約10m下にある浮島へ飛び降り、衝撃を吸収するように膝を曲げ、片手をついて着地をした。

イムセティからの殺気も消えている。

そろそろ漂流者達も目を覚まし始めてくるころだろう。

ペンギンを抱えてイムセティの元へ歩いて行くと、目を覚ましていた緋色がフラフラと歩いてきていた。

こちらへ向かって来るというよりも、イムセティへ吸い寄せられているように見える。

イムセティに緋色を取り込むだけの力が残っているとは思えないが、嫌な予感がする。

その緋色は足を止め、床に運命の矢で張り付けとなっている原型が分からなくなったイムセティを、見下ろしながら話しかけている声が聞こえてきた。



「俺と取引がしたいのか?」



体が条件反射をし、運命の矢をリロードし弓を引き絞っていた。

緋色とイムセティが交わそうとしているその取引の内容は不明であるが、真っ当なものとは思えない。

今すぐイムセティを絶滅させなければならないと直感した。

―――――――SHOOT


緋色が接触をする前にイムセティの脳天を正確に撃ち抜いたはずだが、既に緋色の雰囲気が一変していた。

間に合わなかったのだろうか。

緋色の顔が、自信に満ち溢れているものに戻っている。

その緋色が吠えた。



「うおおおおおおお!」

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