第103話 ラスボスの四天王とは。
大気が揺れ、静かだった海に波が荒れていた。
全長50mほどの浮島が揺られて、無数にある継ぎ接ぎ部から擬音が聞こえてくる。
強烈な殺気にあてられた漂流者達は気を失い、横たわった姿で細い雨に濡れていた。
見上げると、暗灰色の重たい雲に一面を覆われている空に、石像で出来た者が、真っ白な翼を広げながら空へ昇っている。
緋色を地上世界に連れて帰ろうとした私を妨害してきたイムセティだ。
目的は、異世界の主神ホルスを復活させること。
私を見つめる瞳には、殺意が籠っている。
その姿は既に人のものではなく、鳥の形態へ変化し、顔は卑猥に歪んでいた。
これから始まろうとしている私との戦闘に勝利を確信し、笑っているようにも見える。
空から地上に対し最も効果的な攻撃は、こちらの攻撃が届かない上空から爆撃し続けること。
だが、私の射程は無限に近い。
既にスキル『ロックオン』にて補足しているイムセティがどれだけ高い位置へ昇ろうとも、『未来視』を持つ私にとって奴を撃ち落とすことなど容易いなのとなのだ。
重力の恩恵を受けながら滑空し音速を超える速さで突撃してきたとしても、何ら問題ない。
そのイムセティは、約20mの上空地点で静止した。
それは、20mまでしか飛ぶことが出来ないのではない。
それ以上の高さを飛べないように、結界が張られているからだ。
ラグナロク領域に進入し、その結界の存在を感じていた。
力の弱った異界神では、その結界を突き破ることは出来ないのだろう。
何にしても私に狙い撃たれる運命に変わりはない。
その時である。
―――――――――上空で静止していたイムセティが被弾した。
何者かが、鳥の形態をした者へ砲撃してようだ。
轟音が鳴り響き、イムセティが黒煙を上げなら墜落していく。
浮島から50m先の沖合に碇を下ろし停泊している旗艦ポラリスの主砲から発射した弾丸が石像の者を撃ち落としたのだ。
甲板の上では、ペンギンがオーケストラの指揮者のように指揮棒を振るいながら頭を下げてきた。
そしてドヤ顔を浮かべると、短い手をポラリスの方へ伸ばしている。
私へポラリスに来るように招いているようだ。
スキル『跳躍』をしても、50m沖合に停泊しているポラリスまで飛ぶことは不可能だ。
『壁歩』の効果で海面を歩くには時間がかかる。
ペンギンが視線を送る先に、タグボートが浮かんでいることに気が付いた。
ちょうど、ポラリスと浮島の中央の海を漂っている。
あれを利用しろということか。
用意のいいことだ。
タグボートを足場に利用し『跳躍』にてポラリスの甲板へ着地した。
「三華月様、お待ちしてりました。」
ドヤ顔を浮かべているペンギンが深く頭を下げている。
ポラリスからの砲撃にて撃ち落とされたイムセティは、着水寸前で踏みとどまり、海面スレスレで翼を羽ばたかせていた。
帝国の旗艦ポラリスに実装している主砲は、イムセティを撃ち落とせるような強力な砲台ではなかったはず。
もしかして、ペンギンが改造していたのかしら。
「三華月様。我々『無敵艦隊』が乗る旗艦ポラリスには、七武諸島に頻繁に出没しているという海賊への対策として、古代文明にある簡易型の主砲を私の手で装備させてもらいました。」
やはり海賊対策で古代文明の技術を活かして武装強化をしていたのか。
そうこうしているうちに、鳥の姿をしたイムセティがポラリスの上空を旋回していた。
主砲の直撃を受け、ダメージは負っているようだが、まだまだ元気なようだ。
悪魔のように顔を歪ませ、怒声を響かせてきた。
「AIごときが、神である我に歯向かうとは。その罪は万死に値する!」
イムセティから殺気が伝わってくるが、足元でドヤ顔を浮かべているペンギンは、意に介していないようだ。
イムセティを見つめるペンギンの目が見開くと、額に青筋を浮かべ始めた。
この姿はきれる時の前兆だ。
そして、上空で旋回をしていた敵へ叫んだ。
「力を取り戻せていないクソ三流神の分際で、三華月様に対し頭が高いわ。お前ごとき三流神は、このペンギンが成敗してくれる!」
ペンギンは完全にイムセティを見下している。
相手は神なのだけど、大丈夫なのかしら。
そのペンギンが私の方へ向き直り、再び貴族っぽい感じで優雅に頭を下げてきた。
これって、何かの演劇なのかしら。
「この特級下僕であるペンギンが、あの三流神を三華月様へ土下座をさせ、媚びへつらい命乞いをする姿をお見せ致しましょう。その暁には、このペンギンを四天王の列へお加え下さい。」
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