第63話 (外伝)遠い未来の話し②
俺達に神風が吹いた。
最強種である全長が100mを超えるヒドラ型の
信じられない事だが、俺達はヒドラ型に勝利し、S王国首都を守ったのだ。
首都の東5km地点の草原地帯に100人ほどで陣をはっていた俺の部隊に大歓声が巻き起こっている。
「大佐ぁぁ、ヒドラ型を殺りましたよ!」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
全員が、究極の緊張感から解放され、歓喜し、抱き合い、握手し、泣いている。
ただのオバハンである三条烈華が持っていた木刀を一閃すると、S王国首都へ侵攻をしていたヒドラ型の巨体が吹き飛ばされ、雷撃の射程範囲に転がっていったのだ。
もしかしてだが、このただのオバハンの一閃が、ヒドラ型を吹っ飛ばしたのだろうか。
武神の家系の純血種だと言われ、一応、俺達人類よりも格上の存在である馬型の機械人形にもまたがっているし、この女はただのオバハンではないのかもしれない。
―――――――そんな時、通信班が、歓喜に沸いている俺達を地獄に叩き落とすような言葉を言ってきた。
<ヒドラ型の健在を確認。>
<ヒドラ型の健在を確認。>
ヒドラ型の健在を確認だと。
それって、ヒドラ型が生きているとでも言っているのか!
俺の理解が追いつかない。
繰りされて聞こえてくる通信班からの声に歓喜していた声は徐々に静寂に変わっていく。
草原の向こうに巻き起こっていた煙が風で流れている。
嘘だろ。
ヒドラ型に落ちた雷は空を突き抜けるような轟音がした一撃だったんだぞ。
あの凄まじい威力で健在である生物がいるはずは無いだろ。
煙が晴れていくなか、ヒドラ型の姿が少しずつクリアになっていく。
通信班から誤った情報がくる事はほぼ無い。
それでもあの一撃を食らって健在なんて信じられないし、間違いであってくれと願った。
「パワー不足ですね。」
すぐそこにいた三条烈華が涼しい顔で言った声が聞こえてきた。
あれでパワー不足だと。
というか、なんで、お前、今起きていることに驚いていないんだよ!
再びヒドラ型に動きを知らせる通信班からの声が入ってきた。
<ヒドラ型にエネルギー体を確認。照準は大佐部隊。大佐部隊、退避してください>
退避して下さいだと。
何を言っているんだ。
ここからすぐに退避なんて出来るわけがないだろ。
向こうへ視線を送ると、ヒドラ型が俺達へエネルギー体を発射する姿が見えている。
クソォォォ。
何で俺達のような弱者へ向けてそんなものを撃って来るんだよ。
終わった。
俺の人生が終わってしまう。
俺達は光に包まれていた。
ヒドラ型が撃ったエネルギー体に俺達は全滅し、死んでしまったのだ。
古代兵器である『雷撃』でも死なない化物に、人類が歯向かってはいけなかったと今更ながらに認識したぜ。
走馬灯が頭の中に流れているようだ。
俺は光のトンネルの中にいるのか。
幻想的な景色だな。
というか俺、もしかして生きているような気がしているんだけど。
俺達の前に立っているオバハンがエネルギー体を受け止めているというか、盾になって俺達を守ってくれているように見える。
包まれている光が収束していく。
通信班からの声も聞こえてくる。
<大佐部隊の健在を視認しました。大佐、返事をして下さい。返事をして下さい。>
何故だか理解が追いつかないが、俺達は生きているようだ。
そして体に異変が起きていることに気がついた。
声を出す事が出来ないのだ。
次第に息も出来なくなってきている。
身体の五感が失われていく感じがする。
何だか今の俺達って、ヒドラ型に対峙している以上にヤバイ状況にいるような気がする。
俺の生存本能が死を受け入れているのだ。
その時、三条烈華の体から、はっきり黄金色のオーラが湧き上がる姿が見えていた。
なんだ、これは!
「私に戦いを挑む馬鹿野郎がまだこの地上世界にいたとは驚きました。いいでしょう。少しだけ本気を見せてさしあげましょう。」
大気が震えていた。
三条烈華から、黄金色のオーラが溢れだしてきている。
オーラって見たことないというか、現実的じゃないものだよな!
というか、このオバハン、人じゃねぇぞ!
俺達は、絶対に触れてはいけないものに触れてしまったんじゃないのか!
三条烈華の闘気にあてられて、俺の本能が死を受け入れ生命活動が停止しようとしているのを理解した。
駄目だ、俺達はこれに逆らう事は出来ない。
今更ながら、三条烈華はヒドラ型より遥かにヤバイ存在だと認識したぜ!
―――――――――――俺。もう二度と、オバハンという言葉は口にしない事にするわ。
<ヒドラ型が逃走を開始しました!>
意識が朦朧としている俺に、通信班からの声がうっすらと聞こえてくる。
ヒドラ型の奴、自分だけ逃げるつもりかよ!
三条烈華様へ喧嘩をふっかけ、逃げ始めやがったのか!
その辺りにゴロゴロいそうな姿をしているが、世界を破滅させる事ができる力を持っているぞ。
烈華様からの声が聞こえる。
「では処刑を開始します。」
木刀を構え始めている姿が見える。
ヒドラ型の奴、終わったな。
先に行ってろ。
俺も、たぶん、もうもたない。
――――――――――――――烈華様が木刀を一閃した。
先ほどのものと違い本気の一閃なのだろう。
いや。表情をみると、あれでも適当に軽い一撃なのかもしれない。
遅れて通信班から「ヒドラ型の消滅を確認!」という声が聞こえてきた。
そんな事、分かっているって。
今、俺達の目の前には、本当にヤバイ存在がいるんだって。
◇
俺の横を烈華様がまたがっている機械人形がパカパカと帝国の方角へ歩いている。
人間の上位種である機械人形も、そりゃあ烈華様には従うわな。
一応、俺の部隊は烈華様を国境まで護衛する任務なわけなのだが。
誰が誰の護衛をしているんだよ。
実質、俺達の方が護衛されているよな。
おそらく俺は、世界で最も安全な場所にいるのだろう。
それにしてもだが、総司令の大将様に烈華様を紹介した時はマジでビビったぜ。
烈華様を見るなり「誰だ、このおばさんは?」だもんな。
生きた心地がしなかったぜ。
100才を超える総司令は、烈華様の一撃で気を失うくらいで事が済んで本当に良かった。
知らない者からすると『100歳を超える年上になんて事をするんだ』と思うだろうが、S王国を救って頂いた烈華様に対して、いやぶっちぎりで生態系の頂点に君臨している烈華様に対してあの言葉と態度は無い。
烈華様の気分次第で、この世界なんて簡単に終わってしまうんだぞ。
100歳を超える総司令だか何だか知らないけれど、本当に言葉には気をつけてほしいものだぜ。
お、そろそろ国境だな。
――――――外伝は終わりです。
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