第59話 安定の使えない〇〇〇

帝国領の北に位置する標高2000mの大地は植物がほとんど生えてなく、一年に数度ほど降る雨とはげしい日夜の温度差で浸食されている岩地が延々と続いていた。

冷たい風が吹いており、太陽の下で流れる雲が速い。

機械人形に馬車を引かせて舗装されている一本道を進む先に、地平線の先に4k㎡ほどの大きさがある都市を覆っている城壁が見えてきていた。

城塞都市エインヘルヤルである。

城塞都市の下に世界最大規模のダンジョンがあり、世界で唯一現れるという『強欲の壺』を狩りとろうと、一攫千金を夢見るトレジャーハンター達が、世界からこの地に集まってくるのだ。

そして今、私は手綱をひく馬車は、野党達に囲まれて停止していた。


馬車を引いている馬が機械人形であると分かると、寄ってくる野党は普通いないのだが、こいつらはただの馬鹿のようだ。

どこにでもこの手のウンコ共は湧いてくるものだな。

野党を狩ったとしても信仰心の足しにはならないのであるが、野放しにすることも出来ない。

運命の弓を召喚しようとしたタイミングで、客室内にいた四十九が毛布を体に巻いていた状態で姿を現し、ピョンと地面へ飛び降りてきた。

四十九の手には黒鉄色の手錠は付いていない。

星運と結んでいた『奴隷契約の鎖』は完全破壊されていたため、外されていたのだ。



「ここは、アタシ。対応、任せろ。」



四十九がVサインをつくると、続いて客室内から出てきた月姫から声援が送られてきていた。

星運のスキル『開眼』により、四十九には、火力こそは低いのだが捕らえどころがなく変幻自在のスキルである『影使い』が目覚めている。

使いこなすことが出来れば私でも対応が難しい代物だが、そのぶん扱いも難しい。

更に四十九の場合、『影使い』の適合率が高いそうだ。

有り余る力を抑えられるのかしら。

四十九がスキル『影使い』を発動させたようで、足元にある影が大きく広がり始めていく。

表情がいくぶん強張っているように見えるのだが、何だか嫌な予感がする。

――――――――――船が海に沈むように、四十九の体が影に溺れ始め、「あわわわわ。」と、うめき始めていた。

先日、砂漠の都市にて四十九が『影使い』を発動させた際は、『奴隷契約の鎖』によりリミッターが設定されていたらしく、その束縛が外れてしまった為、スキル『影使い』がうまく制御出来ていないようだ。

影の沼が好き勝手に動き始め、四十九が溺れ始めている姿が見える。

面白いショーではあるが、このまま放置しておくわけにはいかないか。

その時、月姫が機転をきかせてロープを投げ、四十九の手にひっかけた。

なんとも器用な眼鏡女子である。

だが、その月姫も四十九に引きずられるように影へとはまり落ちていく。

このままでは不味くないか、と思っていたら、既に2人の姿は影に引き込まれてしまっていた。

自爆した四十九に月姫が巻き込まれてしまったという感じかしら。

底なし沼に落ちていく2人の慌てた姿って、見ていて面白いものだな。

間抜けな様子を見るのは私の大好物だったため、2人を救助する事に躊躇してしまった。



「過ぎてしまった事を悔やんでも仕方がないと言うが、この言葉をつくった者は天才だな。私は有難い格言に従って、自身の犯したミスを忘れる事にしよう。」



四十九には『私の加護』を与えており、その存在は把握出来ているので生存していることは感じ取れている。

2人は城塞都市の地下ダンジョンに落ちてしまったようだ。

四十九にとっては『影使い』を自分のものにするにはちょうど良い機会なのかもしれない。

幸いサバイバル生活に才能を発揮している月姫も一緒なので、2人なら何とか生き延びる事が出来るだけの力量はあるはずだ。

馬車を囲んでいた野党達の姿は、当然であるが既に消えていた。






城塞都市は、最もおおきなギルドである『白翼』が推し進めている重商主義の政策により、世界で最も繁栄している都市と言われており、私は機械人形に馬車を引かせて都市内へ進入していた。

2×2kmの城壁に囲まれた都市内には、青い屋根瓦が敷かれた建物が密集するように建ち並び、馬車が通り過ぎるくらいの幅が確保されたレンガ敷きの道路には、冒険者達と商人達であふれ返っている。

昼間からお酒の匂いが漂い、街全体から活気に満ち溢れている感じがする。

情報収集のために酒場に入ったところ、城塞都市で、昨日、『白翼』のギルドマスターが殺されてしまったことが大きなニュースとなり、街は大混乱をしていた。



ギルド『紺翼』のギルドマスターである『飛燕』という男が、その犯人である。



私が目指す場所は、地上世界の人間の誰も到達が出来ていない最深部フロアーだ。

ダンジョンの途中まで優秀なMAPPAに案内をお願いしたいところであるが、現在『飛燕』が地下ダンジョンに潜伏中のため、その討伐隊の編成隊メンバーに優秀なMAPPAがそちらに駆り出されていた。

単独でダンジョン攻略をするしかないかと思っていた時、酒場内に奴等の姿があった。



―――――――――美人賢者アメリアと、うんこ2人がそこにいたのだ。



「三華月様。お久しぶりです。城塞都市に来られていたのですか?」

「ご無沙汰をしております。野暮用がありまして。」

「久しぶりに三華月を見ると、可愛いい聖女に見えてしまっているのだが、これは一体どういう事なんだ。」

「本当に初対面な感覚で見ると可愛っすよね。でも、しばらく一緒にいたら、そのうちそう見えなくなるっすよ。」



美人賢者は相変わらずいい人だ。

勇者と強斥候も相変わらず、駄目な奴等だ。

そう言えば、強斥候の方は優秀なMAPPAだったかしら。

勇者の方はと言うと、使えないなのは安定だな。

その美人賢者が、私の野暮用に協力を申し出てきた。



「私達でよろしければ、三華月様の野暮用のお手伝いをさせてもらいます。」

「有難うございます。私の連れが2人、城塞都市の地下ダンジョンに転移をしてしまいまして、その2人を探しに行かなければならないのです。協力を申し出て頂き、感謝します。」

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