第40話 ペンギンの考察について

東の水平線に太陽が上がり始めていた。

頭上で輝く星の光がすこしずつ弱まり始めている。

古城だけの姿になってしまった移動都市から眼下を見ると、50mほど下に大海が広がっており、その先には砂漠が広がる大陸が見えてきていた。

隣の足元には、世界参賢者の一人で私の家臣になったと宣言してきたペンギンか立っており、同じ景色を眺めている。

過ごしやすく感じるくらいの気温は、これから日中に向けてグングンと上がっていくだろう。

最高司祭から受けたクエストが完了した時、前触れなく星運を処刑する神託が降りてきた。

――――――そう。星運の地獄行きが確定したのだ。


遠くを見ながら、星運と一緒にバスへ乗り込んできた2人の女のことを思い出していた。

万里と水落のことだ。

2人の女は、星運を慕っているように見えていたが、今更ながらに状況を当て嵌めていくと、星運と奴隷契約を結んでいたハーレム嬢だったように思える。

愛する異性には自身だけを愛して欲しいという本能、欲求がある。

つまり愛のあるハーレムなど存在しないのが現実であり、個人差はあるものの浮気が許せないと思う感情は健全な思考だ。

ハーレムとは、経済的援助であるとか、マインドコントロールをしなければ成立しないのだ。

今更ながらに考えると、32話で万里と水落の二人が私と戦闘を行ったときの心境は、星運に背中からナイフを突き立てられているような状態だったのかもしれない。

足元にいるペンギンへ、移動都市を海に沈めるように指示をした。



「ペンギンさん。私が海岸に降りたったら、この古城は海に沈めて下さい。」



私の命令を聞いていたペンギンは何かを言う事なく静かに頷いた。

奴隷都市が無くなったからといって、世界から奴隷が消えるわけではない。

ハーレムを望む者がいる限り、奴隷の需要が生まれ、供給する者達がいるからだ。

海岸が迫り、移動都市から降りる準備をしていると、ペンギンが旅の同行を申し出てきた。



「三華月様。一つお願いがあるのですが。」

「はい。何でしょうか。」

「臣下として、暫く三華月様へ同行することを許可してもらえないでしょうか。」

「私と一緒に行きたいのですか。そうですね。せっかくの申し出なのでお手伝いをお願いします。」



移動都市を守護する役目が無くなり、暇つぶしに私の手伝いをしたくなったのかしら。

最古のAIで参賢者の一角という肩書きだし、役にたってくれるかもしれない。

駄目な性格ではあるが、どこか憎めないところがあるしな。

ペンギンが勢いよく宣言してきた。



「YES_MINE_MASTER!星運の逃走ルートについて絞り込み作業が終わっておりますので、早速ご説明させてもらいます。」



ペンギンが短い手を上げると、正面の空間へ砂漠の立体フォログラムが浮かび上がり、矢印が砂漠の都市まで伸びていく。

その矢印線は星運の予想される逃走ルートだ。

移動都市から降りた星運は砂漠の都市へ向かったのだろうと思ってはいたが、ペンギンからこのような形で絞り込んでくれると、迷いなく目指すことが出来る。

ペンギンから、星運が購入したという1人の奴隷について、情報を話し始めてきた。



「三華月様。星運を追いかけるにあたり、四十九という少女に関する情報をお伝えしたく思います。」

「はい。何か知っておいた方が良い話しがあるのですね。」

「その通りです。四十九とは、異界の神を信仰する教徒達が地上世界を混沌に陥れるために魔界から転移にて呼び寄せた少女なのですが、スキルに目覚めることが無かった為、奴隷として移動都市へ売られてきたのです。」



異界の神を信仰する信者は、転移の技法にて外界からスキルの才能にある者を呼び寄せている奴等である。

更に言うと、魔界の者は地上世界の神から加護を受けることが出来ないため、太陽や月の元では生きることが出来ない。



「31話でトラブルを起こし三華月様の処刑対象となってしまった星運は、精神的に追い込まれてしまい、その結果、護衛役として移動都市にいた少女達を全て購入しました。」



商人が奴隷を買い漁る動機は、奴隷を高値で転売するのが通常だ。

私に命を狙われ、精神的に追い込まれたまでは分かる。

ペンギンは、移動都市には可愛いい女の子が集まると言っていたが、その女の子達に護衛役がつとまるとは思えるない。

話しの続きに、その答えがあるのだろう。

話し続けているペンギンからの言葉に耳を傾けた。



「ここで重要となってくるのは、星運がS級スキル『覚醒』の持ち主であるということです。」



覚醒とは、眠っている才能を強制的目覚めさせるS級スキルだ。

星運が一級商人であることとか、万里と水落が奥義級の技を使いこなせていなかったことに違和感があった。

そう。2人の女が『覚醒』により奥義を獲得したならば、侍と槍使いとして、基礎能力が劣っていたことにも説明がつく。

更にいうと奴隷を購入し、能力を覚醒させることにより付加価値を与え転売すると、簡単の利益を得ることができるだろう。

足元では、ペンギンからの説明が続いていた。



「もうお気づきになられていると思いますが、星運は購入した女子達に『覚醒』を発動させ、護衛役を増やそうとしたわけです。」

「異界の信者達が転移の技法を用い、魔界から呼び寄せたにも関わらず、目覚めることがなかった少女のスキルを星運が覚醒させたということですか。」

「推察されたとおりです。星運の覚醒により、四十九は『影使い』のスキルを獲得しました。それもかなり適合率が高いようです。」



『影使い』は攻撃値については脅威ではないが、汎用性が高く攻略が難しいスキルだ。

適合率が高い者が使いこなせるようになれば、アンデッド王を凌ぐことが出来るかもしれない。

だがそれ故に、あつかいが難しい。

無理やり獲得したとなると、その能力を持て余してしまうだろう。

外を見ると、眼下に大陸の海岸が広がっており、移動都市が砂浜へ降下を開始していた。

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