第31話 AIvs運転手
砂漠の地下深くに発見したサービスエリアは、古代の建物が綺麗な状態で残っており学術価値が無限大にありそうであったが、核融合炉と一緒に砂漠へ埋める事とし、太陽がジリジリと照り付ける砂地へ出てきていた。
快適な状態に保たれているバスの車内からガラス越しに見える景色は、太陽光が反射し、砂漠がオレンジ色に輝き、砂地が続く地平線と深い青空とのコントラストが美しい。
後ろを見ると、ゆっくり蛇行しながら走るバスの車輪の跡が、風がとまっている砂漠に刻まれていく。
運行プランを確認するため、乗客席から立ち上がり、ゆったりと幅が確保している通路から自動運転で走っている運転席へ向かい歩いていくと、
「三華月様。どうかされましたか。」
「目的地の
「運行スケジュールを知りたいのですね。運転手に確認させてもらいます。」
乗客席からは寝ているようには見えなかったが…。
これは常習性が感じられるサボりのプロだな。
そもそもこの運転手の存在って、地上世界に必要なのかしら。
「五位堂さん起きて下さい。」
「どうかしはりましたか。」
目をあけた運転手は何ごとも無かったような澄まし顔で返事をしてきた。
職務怠慢をしている姿を見られたにもかかわらず、悪びれる様子がない。
そして私に向けて、黄ばんだ歯をニカリとして、決め顔をつくってきた。
それをされると凄くムカツクのであるが、今は確認したい事があるので我慢しておこう。
いや。やはり運転手は邪魔だな。
「運転手さん。座っている運転席を譲ってもらえませんか。」
古代文明でつくられていたバスにはAIが搭載されており、自動運転を含む管理全般はそのAIが行っているはずである。
運転手を間に入れるよりも、直接AIと話しをする方か効率がいいというわけだ。
私の言葉を聞いた運転手がギラリと睨んでくると、意味不明な決め顔をつくり、再び不快な事を言ってきた。
「聖女さん。この席はワテの戦場なんです。運転手っちゅう仕事はプライドを持ってお客様の命を預かっているんです。いくら可愛い女の子からの頼みだからと言うても、運転手の聖地であるこの席に他人を入れることは出来ません。」
凄いドヤ顔だ。サブイボがたつ。
これ以上、話しを続ける必要性を感じない。
運転手の襟元を掴み、ヒョイと乗客席の最後尾へ放り投げると、不快な悲鳴が聞こえてきた。
続けてバスガイドが後部座席へ走っていく。
もうこれは定番の流れになってしまったな。
頭を抱えて後部座席でうずくまっている運転手の心配をする事無く運転席へ座り、AIとの会話を開始することにした。
「私は三華月と言います。あなたの名前を聞かして下さい。」
「僕の名は北冬辺で、このバスの運行を管理していますAIです。三華月様。よろしくお願いします。」
人類よりも上位に位置づけられている思考性のあるAIである。
私については認識をしているようだ。
会話を始めようとしていると、後部座席でうずくまっていたはずの運転手が私のそばまで来ており、AIからの言葉を聞いて唾液を拡散させながら絶叫した。
「バスが喋ったぞ。大事件や!」
思考性があるAIの存在については、この地上世界に生きる者は認知をしていないため、運転手のその反応は至極真っ当なものだろう。
本来なら、その説明をするべきところなのかもしれないが、運転手については無視をしても問題ない。
「北冬辺。運転手へは反応する必要はありません。」
「承知しております。」
「承知しておるとはどういう事やぁぁ!」
「五位堂さん。落ち着きましょう。また三華月様に投げ飛ばされてしまいますよ。」
バスガイドになだめられている運転手へ視線を送ると、恐怖の表情を浮かべて後部座席の方に走って逃げていった。
怪我をしたくなければ、そこにいてください。
それでは会話を再開させてもらいます。
「北冬辺。
「承知しました。」
フロントガラスの前に立体映像が現れると、目的地である移動都市までのルートが光のラインで表示されていく。
この動いている光がバスで、ライン上にある光の点へバスは向かっている。
進路の先を見ていると、どうやらバスは寄り道をするようだ。
「このバスは、今どこに向かっているのでしょうか。」
「もうまもなくバス停へ到着します。」
「そこが終着地点の移動都市グラングランというわけではなさそうですね。」
「
「北冬辺。有難う。引き続き安全運転をお願いします。」
「承知しました。」
この後、移動都市へ向かっているバスへ乗車してくる3人とは、やはり奴隷商人なのかしら。
運転席から離れて乗客席に戻ると、入れ替わりに運転席に座った運転手がAIに向かい怒鳴り始めていた。
「北冬辺。返事せんかい。ワイは運転手やぞ。無視すんなや。なんとか言えや。ワイを下にみてるんか。」
AIは人をサポートするために生まれてきた存在ではあるが、現在地上世界においては思考性のタイプは、人よりも上位存在に位置付けられている。
怒っている運転手については、人の中でも底辺に近い位置にいるはずなのだが。
北冬辺は、運転手に対して一切の返事をする事は無かった。
北冬辺が指定していたバス停に到着すると、遮熱性の術式が施されたローブを全身に覆い隠している3人が乗車してきた。
男1名と、女2名のようである。
乗車してきたその3人が車内に乗り込んて覆っていたフードを外すと、先頭にいた男が愛想よく笑顔で自己紹介を始めてきた。
「僕は一級商人で星運と言います。綺麗なお姉さん、よろしくお願いします。」
容姿に目立つ要素がない10代後半くらいに見える男で、身長は私よりも頭一つ低く、体は鍛えられていないようだ。
ヘラヘラしているその顔からは仕事が出来そうな雰囲気はなく、帝国の4大貴族の一角である東條家が商人に与える中の最高ランクである一級商人にはとても見えない。
続いて乗車してきた2人の女は、星運とは不釣り合いの知的なお姉さんと、小柄な可愛いらしい女の子であった。
「万里です。よろしくお願いします。」
20代前半に見える高身長の女だ。
知的な雰囲気がするが、腰に刀をぶらさげているところを見ると侍のJOBのようだ。
実際に、首のネックレスには『剣豪』という文字が刻まれている。
剣豪とは上級JOBである侍の中でも、『奥義』級の技を獲得した者に与えられる称号だ。
もう1人はとても可愛い女の子で、活発そうな15才くらいの年齢に見える。
150cm程度の背丈あるが、大きな背中に槍を装備していた。
「私は水落だよ。よろしくね。」
水落と名乗った朗らかな笑顔を見せている元気のいい女の子が付けているネックレスには、『ゲイボルグ』という文字が刻まれていた。
ゲイボルグとは、槍使いの達人が使う『奥義』を獲得している証である。
違和感がある。
奥義を獲得している者はそれなりに戦闘力を有しているはずなのだが、2人の女からは高い戦闘力が感じられないからだ。
―――――――突然、『未来視』が星運からの攻撃を予知した。
星運が私へ鑑定系スキル『スキャン』をしてくる未来が見えたのだ。
鑑定系スキルとは、相手に大きなダメージを与えることは無いが、その行為は攻撃に変わりなく、無断で他人へ鑑定系スキルを使用する行為は犯罪である。
―――――――星運と視線が重なった瞬間、衝撃波が発射されたのを視認した。
スキル『スキャン』による衝撃波は景色が歪む程度のものなので、意識しないと見えないレベルのものだ。
その衝撃波は、信仰心で武装している私に効くはずなどなく、派手な十字架が刻まれている聖衣によってはじかれた。
こんな未熟な衝撃波が、私に通るはずが無いだろ。
バスの座席の前ではバスガイドが笑顔で自己紹介を行い、和やかな空気が流れている。
誰も星運の非道な行為に気が付いていないようだ。
スキル『スキャン』が弾かれて間抜けな顔をしている星運を処刑する者は、私しかいないようだな。
席を立ち上がり、星運を指さした。
「私が何故、攻撃をされたのか分かりませんが、正当防衛ということで攻撃をしてきた
突然の言葉にバスガイドが驚きの表情を浮かべ、取り巻きの女2人が慌てた様子で星運との間に割って入ってきた。
空気が張り詰めている。
万里と水落の2人が自身の武器に手を掛けていた。
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