第19話 葭ヶ谷亜里亜の屋敷にて

白銀色に輝く夜空には雲一つなく、風に森全体から少し不気味な音が聞こえてくる。

帝国領の最南端に位置する辺境都市から東の位置にある森の中に、帝国貴族の葭ヶ谷家が所有している屋敷があり、その広い敷地内は3m級の機械兵達で埋め尽くされていた。

その中央にアダマンタイトで装甲を固めている5m級の黒鉄色の機体が鎮座しており、ここが機械兵達の本拠地になっているようだ。

全身を黒マントで覆い隠しているアンデッド王に肩車をしてもらっていた藍倫が、葭ヶ谷家邸のその様子をみて唸り声を上げていた。



「黒マント。葭ヶ谷邸の庭が、機械兵達に埋め尽くされているようじゃが、建物自体はまだ荒らされていないように見えることについてどう思う?」

「機械兵が人間と敵対関係にあるとしたら、この状況は不自然であると思います。」


「うむ。つまり住んでいた者達がもう屋敷から逃げてしまっており、屋敷を破壊する必要がなかったのかもしれんな。」

「藍倫様。屋敷の建物内には6名の生存者がいるようです。」


「なんだと。それが本当なら早く救助しなければならないじゃないか。」



藍倫の指摘したとおり、荒らされた様子のない建物は、間口が広く煉瓦づくりの2階建てで、カーテン越しに灯りがもれている窓には人の姿のようなものが確認できる。

スキル『千里眼』をもつアンデッド王のいうとおり、黄金色に輝いている私の瞳にも生存者が確認できていた。

1階の奥の部屋にいる女が、葭ヶ谷亜里亜で間違いない。

三条家からの受けた2つの依頼は、機械兵の討伐と、葭ヶ谷亜里亜の保護だ。

アンデット王に肩車をしてもらいながら唸り続けている藍倫へ、屋敷内に潜入してくることを告げた。



「藍倫。私一人で屋敷に侵入して状況の確認をしてきますので、ここで待機していてください。」





スキル『隠密』『瞬足』『跳躍』『未来視』を獲得している私は、斥候型の機体のみ注意しておけば屋敷へ潜入することなど容易い。

見る限り、敷地内に斥候型の姿はない。

藍倫は、アンデッド王が付いていれば危険に陥ることはないだろう。

高台を下り、スキル『隠密』を発動させながら葭ヶ谷邸の門を潜ると、3m級の機械兵達が自由に動いているが、私の存在には気が付いていない。

仮に気か付かれたとしても、庭の中央には『絶対回避』の効果が付与されている装甲で武装した黒鉄色の大型機体以外が鎮座している。

ここで一掃してもいいのであるが、機械兵達の処刑は神託が降りてきてから処分したい。

まずは、葭ヶ谷亜里亜の救出を優先させてもらいましょう。


何事もなく屋敷の玄関扉の前まで到達したところ、建物の中にいる何者かが、私の気配に気づいたようだ。

私の存在に気が付いたのは、亜里亜の使用人の一人である女忍者だろう。

そして、黄金色に輝いている瞳が玄関扉を隔てた向こう側の玄関ホールにて、年配の侍が腰を落とし居合い抜きの構えをとり、私に備えている姿を捕らえていた。

それなりに出来る者が揃っているようだな。


玄関扉を少し開き、その開いた隙間に身を滑りこませ、音もなく扉を閉じた。

玄関ホール内は吹抜けになっている窓かの月灯りと魔道の灯りにより明るく照らされ、荒らされた様子もなく手入れがいき届いている。

奥の壁際には、腰を落とし鋭い眼光で睨みつけている居合抜きの構えを取っているタキシード姿をした年配の紳士を視認した。

いつでも必殺の斬撃を撃ち放つ準備が出来ているようだ。

タキシード姿をした年配の男が、私の姿を見て驚愕の表情を浮かべた。



「三条華月様!」



帝都では鬼可愛い最強の聖女くらいにしか思われていないようであるが、正面にいる紳士は、私が武神の家系の純血種として生まれたことを知っているようだ。

私の姿を見た紳士が片膝を付いてこうべを下げると、音もなく姿を現したメイド服を着た女忍者も同じように片膝を床についてきた。



「大変無礼をしました。私は葭ヶ谷亜里亜様の執事をしている者で、名を武野里と言います。となりの者も私と一緒に亜里亜様へ仕えております。」

「亜里亜様の保護と機械兵達の掃討のために、ここへ来ました。」


「え。屋敷を取り囲んでいる全ての機械兵の掃討を、華月様が一人でされるつもりなのでしょうか。武神の家系において歴代最強だと聞いておりましたが、さすがです。」

「そうですね。鬼可愛最強説が正しければ、私が歴代最強で間違いありません。」


「え?」



何故か微妙な空気になってしまったが、まぁそれはさておきだな。

人類の敵である機械兵達に屋敷が囲まれているにも関わらず、この屋敷が無事である事情について問おうとした時、玄関をノックする音が聞こえてきた。

外は機械兵達で埋め尽くされているはずだが、誰がノックをしてきたのだろうか。

年配の紳士がこちらに手のひらを見せながら静かに話し始めた。



「華月様。機械兵達が来ました。屋敷内に招き入れますので姿を隠してください。」



機械兵を屋敷内に招き入れるだと?

聞き間違いでしょうか。

人類の敵である機械兵を葭ヶ谷家は招き入れているって、どういうことなのでしょう。

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