第17話 METEO_STRIKERS
近隣の森より機械兵が頻繁に現れるようになり、その対応に苦慮していた辺境都市からの要請に応じた筆頭貴族の三条家からの要請で、聖女・藍倫とアンデッドを連れて帝都の最南端にある都市まで出向いてきていた。
目的地である辺境都市へ到着し、藍倫の誘導で入った酒場内では、無謀にも勝負を挑んできた鉄拳制裁の餌食になってしまった藍倫が声にならない嗚咽をあげなら、両手で頭をおさえて石張りの床を転がっており、騒然としていた。
それにしてもだが、器用に回復スキルを自身にかけている。
さすがA級相当の実力だ。
見ていて、みるみると藍倫が元気になっていくのが分かる。
藍倫へ撃ち込んだ鉄拳制裁の威力は、勇者と強斥候のうんこ達へ入れていたものと同等程度の威力であるはずだが、藍倫の痛がる様子を見ていると、常人では耐えることが出来ないくらいダメージを与えてしまうようだ。
うんこ達はみどころのないB級冒険者だと思っていたが、危機回避能力だけは特化していたのかもしれない。
藍倫が鉄拳制裁のダメージから復活してくると、「ず、び、ば、ぜ、ん、で、じ、だ。」と言いながら立ち上がってきた。
そして騒然としていた雰囲気が元に戻り始めていた頃である。
酒場の外から機械兵が侵攻してきたことを知らせる声が聞こえてきた。
「
反射的に酒場から外に飛び出すと、繁華街を歩いているほとんどの者達の顔は緊張感に欠け、どこか楽しげだ。
避難している様子の者はない。
何事もなく歓楽街を楽しんでいる者の姿や、衛兵達の戦闘を見学するために機械兵が侵攻してくる方向へ走っていく者達が見える。
鉄拳制裁から完全復活してきた藍倫が、面倒くさそうな様子で現れる頻度が高くなっているという機械兵について話し始めてきた。
「神の加護を持たない魔物は、通常地上では生きることが出来ないはずなんですけど、どういうわけか機械兵は外に出てくるんですよ。
でもまぁ、機械兵がやって来るのはいつものことですし、駐留している帝国兵に任せおけば追い払ってくれますよ。」
藍倫の言うとおり、加護を受けない魔物は地上世界では生きられない。
先日、ショートカットした砂漠はその砂漠全体がダンジョンとなっており、黒色ワームが地上に出てくるのであるが、砂漠から出ることは出来ないのだ。
機械兵については魔物ではなく、異界の生き物であるのであるが、その事実を知っているのは私以外にいない。
街全体がお祭り騒ぎをしているようにテンションが上がっていく中、背後に控えていた全身を黒マントで覆い隠していたアンデット王が、藍倫へ衛兵達が混乱していると告げてきた。
「藍倫様。最前線の様子なのですが、かつて無い規模で機械兵達が侵攻してきているようでして、衛兵達が大混乱をしており、とても大丈夫そうではないようですよ。」
私達がいるこの場所からは街の建物が邪魔して前線の様子を視認できないが、アンデッド王は遠く離れた見えないものを感知することが出来るスキル『千里眼』を獲得しているのだ。
さすが、超災害級のアンデッドといったところかしら。
そのアンデッド王が『千里眼』の持ち主であることを知らない藍倫が、強い口調で反応をしてきた。
「おい黒マント。前線が大混乱をしているとはどういう事だ。というか、その情報は確かなのか。いいかげんなことを言っていったら、ぶっ飛ばすぞ!」
ここからだと前線の様子が見えないので、藍倫がアンデッド王を怒鳴りつけるその反応は、間違ったものではないのだろうが、その黒マントと呼んでいる者はS級の枠には収まりきらないくらいの危ない奴なのだよ。
とはいうものの、危害を加えることはないので放置していても問題がないようだ。
実際に、辺境都市までの移動中、黒マントは藍倫に何度もゴンゴンと殴られてその度に謝っていた。
雲一つない夜空を見上げると、白銀色の『満月』が輝き、熱い空気が流れている。
私の瞳が黄金色に輝いていた。
満月の輝きが降り注ぐ夜は、私の能力が神域にまで達し、スキル『真眼』を使いこなすことが出来るのだ。
黄金色に輝く瞳にもアンデッド王からの情報のとおり、100個体ほどの機械兵が辺境都市へ侵攻してくる姿が見えていた。
さて、機械兵達の対応についてであるが、駐留兵達が相手をするには荷が重いため、やはり私がするしかないだろう。
どこから機械兵達を狙撃するかであるが、やはり高い位置がよいかしら。
2階建ての建物が並んでいるが、酒場の屋根が一番高そうだ。
「藍倫。その黒マントが言っているとおり機械兵が100個体、こちらへ侵攻してきているようです。」
「マジですか。それが本当だとしたら、辺境都市に駐留している帝国兵では対処てきなくないですか。」
「ここは、私がその酒場の屋根へ昇り、そこから機械兵達を狙い撃たせてもらいます。」
「ここからですか。さすが最強聖女。三華月様です。」
スキル『跳躍』にて屋根に飛び乗ると、街の建物の屋根が続き、街の外の草原地帯まで見通しが効く。
熱い風に髪がなびいている。
距離にして6km程度先に機械兵達の大群が侵攻してくる姿を明確に視認した。
ここからだと0.1mm以下のサイズである。
アンデッド王も藍倫を抱えて追うように屋根に登ってきていた。
ここから狙い撃たせてもらいます。
――――――運命の弓をスナイパーモードで召喚します。
3mを超える運命の弓が白銀に光る月の明かりに照らされて、煌々と輝いている。
運命の矢をリロードして、弓を引き絞りはじめると、藍倫とアンデッド王が交わしている会話が聞こえてきた。
「黒マント。あれがアルテミス神から贈られたという運命の弓だ。これで機械兵達の運命は終わりだな。」
「三華月様は、ここから6km先にいる機械兵を『全攻スキル』で一気に殲滅すると言うのでしょうか。」
「なんせ三華月様は最強だからな。超長距離にいる機械兵を全攻スキルで殲滅するくらい簡単なことよ。黒マントよ、これから起きる奇跡を刮目しておけよ。」
「承知しました。刮目させてもらいます。」
藍倫が私の戦闘を見るのは初めてのはずなのだが、そう持ち上げられてしまうと、ちょっと本気を出さなければならない雰囲気になってしまった。
とはいうものの、満月の今夜に限っては無限大に火力を上げることは出来るからいいのだけどな。
それではリクエストに応えて『全攻スキル』を披露させてもらいましょう。
「運命の弓に『跳躍』を『シンクロ』させて『クリティカルアロー』をリロードし、『METEO_STRIKERS』で機械兵達を殲滅させてもらいます。」
「おお、なんすか、それ。無茶苦茶格好いい名前じゃないですか。さすが最強美少女です。」
鬼可愛い聖女というのは、何をやっても格好よく見えるのかしら。
藍倫もうまく気分を上げてくれますし、ここは調子に乗らせてもらうことにしましょう。
矢の先を天空に向けると、満天の星が光輝いている。
熱い風が吹いてくる中、息を吐きながらギリギリと矢を吹き絞っていく。
それでは、発射します。
最高点まで引き絞っていた弓のエネルギーを開放した。
―――――――――SHOOT
音速で走る矢が、糸をひくように天空へ消えていく。
拍手喝采を期待していたわけではないが、藍倫を見ると目を丸くして口を開き、間抜けな顔をしていた。
どうしたのでしょう、記憶喪失になり言葉を忘れてしまったのかしら。
「藍倫。間抜けな顔をされているようですが、どうかしたのでしょうか。」
「空に向けて矢を1本だけしか撃たなかったように見えたのですが、それって、うちの見間違いなのでしょうか。」
「見間違いではありません。1本だけしか、撃っていませんよ。」
「あのですねぇ。1本の矢でどうやって100個体を殲滅するのですか。もしもし。算数の計算は大丈夫ですか。」
「はい大丈夫です。」
「いやいや。全然大丈夫ではないでしょう。それに撃ち放った矢の質量を考えると、防御力が高い機械兵を倒せるとは思えません。と言いますか、『METEO_STRIKERS』って何ですか。三華月様は厨二病なのですか。」
どさくさ紛れに私をディスってきている。
大きくため息を吐きながら「凄ぇ期待外れだわ。」と聞こえるように言葉を続けているし。
そして「喪女はこれだから。」とやれやれのポーズまで決めている。
ここぞとばかりに、たたみ掛けてくるじゃないか。
そろそろ月が輝く夜空へ放った矢が、『流星群』となって戻ってくるはずだ。
私につられて夜空を見上げた藍倫が、驚愕の声を上げた。
「な、な、なんじゃ、あれは!!!」
夜空に走る流星群がこちらに向かってくる。
なんとも幻想的で綺麗だ。
辺境都市内の住民達も空に走っている流星群に気が付いたようで、ところどころから歓声が沸き始めている。
これが神々の戦いに使用されたという『天空スキル』の隕石落としなのだ。
藍倫の声が驚愕のものから、恐怖の声へ変化していく。
「こ、こ、こっちに堕ちてくるぞ。これって、逃げなければやばくないですか。」
確かにそうですね。
あの流星群が堕ちてきたら、この辺境都市にも結構な被害が出てしまうだろう。
今更ながらに、まずい事態に陥っていることを認識しました。
藍倫の悲鳴が聞こえてくる。
―――――――――流星群が、機械兵達100個体がいるその地に着弾した。
襲ってくる爆風に備えて、藍倫を掴み屋根から飛び降りると、凄まじい重低音の衝撃派に空気が揺れる。
遅れて、地面から立っていられないほどの衝撃が伝わって来ると、辺境都市の町中から悲鳴が聞こえてきた。
あちらこちらの屋根瓦が落ちていき、ガラスが割れているが、6kmほど離れているため、それほど街に被害が出ていないようだ。
地面の揺れが収まってきたころ、舞い上がった土砂が落ち始めてきた。
酒場の屋根から一緒に降りてきていたアンデッド王の呟く声が聞こえてくる。
「機械兵100個体がそのまま侵攻してくれた方が、都市の被害が少なかったかもしれませんね。」
いやいやいや。
そんなこと、あるはずがないじゃないですか。
というか、ここは私を励ますところだろ。
時間の経過と共に、被害の大きさに絶望する街の声が大きくなっていく。
ここにいたら、私のメンタルが持たない。
機械兵の討伐と、亜里亜の救出をするために早く森に行くべきだな。
限界まで目と口を開き、フリーズして固まっている藍倫の手を引っ張り、森に向かうことにした。
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