第15話 ドジ系ヒロインとは
地下6階層へ降りる階段は、ストレスなくすれ違えるくらいの幅が確保されていた。
壁・天井は階段と同じ灰色石材で仕上げられている。
壁面に等間隔で配置されている魔道の灯りが階段内を明るく照らし、城内のように重厚なつくりになっており、重々しい空気が流れていた。
ミノタウロスが討伐された迷宮内からは、全ての魔物の気配が消えている。
美人賢者達を先に帰らせて、『真眼』にて発見した地下6階層へ通じる隠し階段を降りていた。
階段を一段降りる度に、全身を焼きつくされるような感覚になっていく。
地下6階層からかつて味わったことがない『死の瘴気』が漂ってきているのだ。
スキル『自己再生』を獲得している私以外の者だと確実に死に至ってしまうだろう。
下へ降り進むほどにその『瘴気』の濃度が高くなっていく。
この先には確実にS級相当の存在がいる。
ミノタウロスが使用していた斧に『ライフドレイン』と『起死回生』の効果を付与した者がそこにいるのだろう。
歴史的名工と呼ばれる者でも、あの大斧のような代物を造ることは出来ない。
世界を混沌に堕としいれようと野望を抱く者がいるのではないかと、期待が膨らんでくる。
階段を降りたそこには、地下6階層の入口であろう木製扉があった。
何の変哲もない普通の片開き扉のように見える。
扉には鋳物で出来たノックノッカーがあり、その横に『御用があればノックをして下さい』というふざけた紙が貼られていた。
ノックをしたら、大爆発とかしてしまう罠が仕掛けられているのかしら。
やれやれです。
そんな単純な罠にひっかかるはずがないじゃないですか。
ふっ。残念ながら私は『ドジ系ヒロイン』ではないのだ。
面倒ではあるが、扉を『ロックオン』で補足して地下5階層へ戻り、そこから扉を破壊させてもらいます。
木製扉をスキル『ロックオン』で補足し、降りてきた階段を戻り始めたその時。
何の前触れなく木製扉が開かれた。
————————そこには、骸骨の姿があった。
この骸骨が『死の瘴気』を振りまいている張本人だ。
私と視線が重なると礼儀正しいお辞儀をしてきた。
「大聖女、三華月様ですね。初めまして。私はここで鍛冶職人をしております
初対面の相手に定型の挨拶をしてきたアンデッド王と名乗る骸骨からは、私に対して敵意が感じられない。
だが現状においては、敵意の有無は重要ではない。
木製扉に罠が仕掛けられていたかが、今の私にとって大事なのだ。
「はい。私が三華月です。よろしくお願いします。早速ですが、その木製扉に仕掛けられていた罠を解除していただき、有難うございました。」
「罠って何の事ですか。この木製扉には、罠なんて仕掛けられていませんよ。」
「しらばくれても無駄です。木製扉に罠を仕掛けていた事は分かっています。」
「いやいや。本当に罠なんて仕掛けていません。三華月様の勘違いだと思います。」
「万が一ですが、その扉に罠が仕掛けられていなかったとしたら、私のとった行動は間抜けなものであり、私はドジ系ヒロインであることになってしまいます。ご理解頂けたでしょうか。」
「なるほど。理解しました。罠を解除しましたので、中へお入り下さい。」
ふぅ。やはり罠が仕掛けられていたのか。
あやうくドジ系のヒロインになるところだったぜ。
アンデッド王から招かれるままに扉をくぐり室内へ入ると、中は大聖堂ほどの大きさがある空間になっていた。
降りてきた階段に使用されていた石材が、天井・壁・床へ用いられ、天井からの灯りが全体を明るく照らしている。
一流ホテルのスイートルームのように天井が高く豪華な雰囲気だ。
置いてある机の上には、制作済みの装備品が並べられており、奥の方には錬金を行う際に用いる魔具が置かれている。
自己紹介でも鍛冶達人と言っていたし、確認するべくもなく、ミノタウロスが装備していた大斧を精製したのは、向かいにいる死霊王で間違いない。
だが私にとって重要なのは、真実を突き止めることではなく、神託が降りてくること。
その神託が降りてくる気配が微塵も感じられない。
アンデッド王が用意してくれた椅子に腰かけると、ここに来た用件について尋ねてきた。
「聖女様。ここまで来た用件について教えて頂きたいのですが、やはり死霊王である私の討伐をすることが目的なのでしょうか。」
瘴気の質と量がこれまで出会った個体と比べると異次元に高く、大災害級の危険な存在なのだろうが、世界に影響がない存在ならば討伐対象になることはない。
アンデッドを狩る趣味はないし、この骸骨は100%スルーしていいだろう。
私に討伐されたいのなら、こんな地下深くに引き篭もっては駄目ですよ。
知り合いに悪の司祭がいるならば、紹介してあげたいところではあるが、この死霊王が私の餌になる素質はないと感じる。
こんなクソ骸骨に用はない。
撤収だ。撤収。
「あなたを討伐するつもりはありません。私は帝都に戻る事にしますので、これで失礼させてもらいます。」
椅子から立ち上がり、来た階段の方へ歩き始めると、死霊王が一定の距離を保ち後ろを付いてきていた。
まだ何かあるのかしら。
足を止め振り向くと、何故か凝視されている。
「なぜ付いて来るのでしょうか。聞きそびれていた事があるのなら伺います。」
「いえいえ。そうではなくて、三華月様に付いて行こうかと思いまして。もしかして、まずかったでしょうか。」
「まずいです。あなたが付いてくると帝都が壊滅するではないですか。」
「私は、むやみに人殺しは行いませんよ。」
「あなたはボケ老人ですか。あなたの振り撒く『死の瘴気』に、一般の者が耐えられるはずが無いでしょ。」
「私が帝都に行くと、人がたくさん死ぬから付いて来るなと言っているのですね。」
まてよ。
このボンクラである死霊王が帝都の者を大虐殺してしまったら、確実に神託が降りてくる。
圧倒的な量の信仰心を稼ぐことが出来るではないか。
有りか、無しかと言えば、2000%有りだ。
とはいうものの、私が帝都へ誘導する事は出来ない。
ここは思案のしどころかもしれないな。
目を閉じ、思いを巡らせ始めようとした時、死霊王が再び話しかけてきた。
「聖女様。これでよろしいでしょうか?」
そこには黒マントで全身を隠した死霊王の姿がある。
そして『死の瘴気』が完全に抑えられていた。
何かのコスプレをして披露しているわけではなく、黒マントが『死の瘴気』をシャットアウトしているようだ。
「三華月様。これで問題はクリアーできたでしょか。」
「なるほど。それで、鬼可愛い聖女にストーキングを正々堂々とやらしてもらうぜ、みたいな意思表示をされているのでしょうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
「まぁ、構いませんが、それで何の目的で帝都に行くつもりなのですか。」
「理由はありません。ここにいても暇ですし、なんとなく聖女様に付いて行こうかと思いまして。」
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