第2話 土下座をしましょう。
―――三華月―――
JOB : 大聖女
備考1 : アルテミス神に仕えている
備考2 : 見た目は可愛い女の子
備考3 : 信仰心が刻み込まれた体の身体能力は突き抜けて高い
スキル : 連射、必殺、未来視、暗視、
ブラインド、真眼、瞬足、
跳躍、隠密、自己再生、
シンクロ、スキルウイルス、
闇属性耐久、リロード、
ロックオン、壁歩
◇
太陽が沈みかけて空の色が暗くなりかけている頃、
森の中に凸凹になった土道沿いに建っていたその屋敷は、レンガ造りの間口が広い2階建ての建物で部屋の数が20程度あるように見える。
まさに大貴族の別荘といった感じがする邸宅だ。
一宅地もかなり広くとられており、隣の家まで500m以上の間隔がとられていた。
土を固めた道からは雑草が覗いており、視界には人の姿は無い。
虫達の鳴き声が聞こえ、帝都でありながら田舎暮らしが楽しめる地域である。
勇者を土下座させるためここまで来たのであるが、留守番をしていた美人賢者からの話しでは、魔術士は奴隷である猫耳剣士と一緒にクエストへ出ていて不在だそうだ。
残念ではあるが、また出直してくるしかない。
戻ろうとする私の意思を無視した勇者は、間口の広い玄関先に立つ美人賢者へ、ぎこちない口調でパーティーに戻るように促していた。
「なんか俺達、
おいおいおい。話しを改ざんしないで下さいよ。
調子が悪いのは俺達ではなく、ポンコツ勇者だけではないですか。
美人賢者は、追放した魔術士を追いかけてパーティーから抜けたわけであって、戻ってきてもらいたいのならば、まず魔術士へ謝罪するのが筋ってものだろ。
もじもじしている勇者からの誘いに対し、美人賢者が予測外の言葉を返してきた。
「私と
なぬ。
即答で拒否するどころか、美人賢者のその言葉からはパーティーに戻る事に対し、前向きな姿勢が感じられる。
いやいや。そこは勇者を罵倒して下さいよ。
勇者がダメージを負う姿を見たかったのに。
もうまったく、期待外れだわ。
魔術士へ勇者が土下座する姿も見ることが出来ないし、何をしにここまできたのやら。
収穫無しどころか、私の方が精神的なダメージを受けてしまった感じがする。
未練がありそうな様子で美人賢者への言葉を探している勇者を玄関先から置きざりにして門の方へ歩き始めると、今しがた冒険から戻ってきたばかりその魔術士と鉢合わせになってしまった。
「
魔術士の背後には、聞いていた猫耳剣士の姿がある。
ゆったりした服装をしているものの、とんでもない巨乳と分かる猫耳族の成人女性だ。
とてつもなくエロイ体をしている。
腰に剣を携えているところを見るとJOBは爆乳剣士といった感じかしら。
美人賢者もダイナマイトバディだし、魔術士もおっぱい星人だったというわけか。
気が付くと、勇者も爆乳剣士を見て驚愕の表情を浮かべている。
微乳ではあるものの鬼可愛いはずの聖女に見向きもしないとは。
その時である。
―――――――――――再びスキル『真眼』が発動し、魔術士が猫族の爆乳剣士とも男女の関係にある事実を告げてきた。
やれやれ。とんだ猿野郎だったのだな。
爆乳剣士を品定めするように眺めていると、魔術士が視線を切るように体を入れてきて凄んできた。
「三華月。俺に何の用なんだ!」
何をそんなにいきりたっているのでしょうか。
少し爆乳剣士のエロイ体を見ていただけじゃないですか。
見て減るものでもないでしょうに。
それはそうと、魔術士が冒険から帰ってきたということは、目的である勇者の土下座をする姿が見られるかもしれない。
とりあえず挨拶でもしながら、勇者を土下座させるように追い込んでみるとするか。
「
「お前には関係がない事だ。」
魔術士が鬱陶しそうな表情をしながら視線を切ってきた。
何ですかね、その偉そうな態度は。
この魔術士は重ねてムカつく。
心の狭い私は怒ったぞ。
その腹いせに、美人賢者へ
「ゾロアさん。さすがS級スキル『アビスカーズ』の使い手だけのことはある。B級ダンジョン攻略なんて楽勝だったのではないですか。」
「三華月。なぜ俺が『アビスカーズ』を獲得していることを知っている。お前、『鑑定眼』の持ち主だったのか!」
簡単にゲロしてくれて有難うございます。
やはり魔術士は、最強のデバフスキル『アビスカーズ』を獲得していたのか。
背後を一瞥すると、勇者とは対照的に、会話を聞いていた美人賢者からは驚いているような素振りが見受けられない。
酒場にて追放劇を繰り広げていた際、魔術士がパーティーに必要な存在だと訴えていたことを考えると、美人賢者は魔術士がS級スキルの使い手であることは認識していたのだが、口止めをされていたのだろう。
ここは話しの流れにまかせ、勇者を土下座まで追い込み、魔術士がクソである事を暴露してあげましょう。
「先日は
「断る!」
すごいドヤ顔だ。
それだ。
それを見たくて、私はここに来たのだ。
私同様、魔術士も、勇者の土下座を楽しみにしているはずだ。
それでは勇者へ、土下座をするようにお願いさせて頂きます。
「
「断る!」
おいこら。
美人賢者をパーティーに戻ってもらうためには、まず魔術士に謝罪してからだと言っておいたのに、忘れてしまったのかしら。
本当に役に立たない勇者だ。
とはいうものの、実際のところは爆乳剣士を性奴隷にし、美人賢者も手に入れてしまった魔術士からすると、勇者パーティーへ戻ってくる理由はない。
どうしたものかと新しい策を考えていると、突然、魔術士が怒りの籠った声で叫んできた。
「土下座も出来ないなら帰れ!」
「それはつまり、
「「断る!」」
勇者と魔術士の声が重なった。
私としては魔術士がパーティーへ復帰してもしなくてもどちらでもいい。
土下座が見たいだけなのだ。
その時、屋敷の中から『人狼の少女』が出てきて、魔術士に抱きついてきた。
「お兄ちゃん、お帰りなさい!」
―――――― 再び真眼が発動した。
この流れはもしや。
その人狼少女の容姿から察するに、だいぶん幼く見えるが、幼女と性行為をするその行為は犯罪だろ。
美人賢者、猫族剣士、人狼少女の3人と同時プレイでもしているのでしょうか。
この魔術士は変態でかなり気持ち悪い。
うんこ以下の存在だ。
その時、アルテミス神より『神託』が降りてきた。
――——―女の敵である魔術士を駆逐せよ
YES MY GOD。
この鬼畜の変態野郎はここで殺処分をし、私の信仰心を上げさせていただきます。
神託による命令は何よりも優先される。
ロリコン変態野郎の処刑は必ず実行させてもらう。
だがその前に、魔術士に都合の良い女の扱いを受けている美人賢者には、魔術士がうんこである事を理解してもらわなければならない。
森の中に離れた間隔で建っている屋敷の玄関前で、魔術士に人狼の少女が抱きつき頭を撫でられ嬉しそうにしており、その横では爆乳剣士が少し私を警戒している。
存在感が無い勇者は無視でいいだろう。
美人賢者には、これから魔術士と話す内容を聞いてもらうことにしましょう。
「
「何だ!」
「
私からの指摘に魔術士は顔を強張らせ、爆乳の猫耳剣士は顔を真っ赤にした。
美人賢者は無言で、空気の読めない勇者は「マジかよ!」と絶叫したが、その声には魔術士を責めるものではなく、羨ましい感情が見受けられる。
魔術士については、欲望のままにハーレムをつくっていることに罪悪感は無いようだ。
爆乳剣士はハーレム嬢であることを受け入れているようだが、それは奴隷から救ってくれた負い目もあるのかもしれない。
判断力がある年齢に達していない人狼少女については、同意を得たとしていても悪戯をしたら駄目だろ。
美人賢者はこの状況を受けとめきれていないように思えるが、それが普通の感覚だ。
私に事実を突き付けられ怒っている様子の魔術士へ、更に言葉を叩きつけた。
「
「三華月。お前には関係無いだろう!」
「あなたは同じ家で3人とやっている。そのうちの1人が幼女です。ロリコンは罪ではありませんが、
不意の問いかけに美人賢者は返事をすることなく辛そうな表情を浮かべて押し黙っている。
何故か美人賢者に優しい勇者が、「おまえは悪くない」と気を遣っている姿がまともなので気持ち悪い。
ロリコン変態野郎の魔術士が支離滅裂に吠えてきた。
「なんなんだ、お前は。俺が何をしようが、お前には関係ないだろう。」
関係ないはず無いだろ!
美人賢者をこのまま放っておく事も出来ないし。
そろそろロリコン変態野郎は殺処刑して、信仰心を稼がせて貰うことにしましょう。
魔術士に真っ直ぐ指差して宣言した。
「これからロリコン変態野郎を処刑させて頂きます。」
「よせ、三華月。俺に戦う意思は無い。」
無抵抗で処刑される道を選択されるのですか。
手間が省けて助かります。
抱き着いていた人狼少女から敵意をむき出しにした目で睨まれている。
魔術士の背後に控えていた爆乳剣士が、警戒した様子で腰の刀を抜きながら前に出てきた。
「ゾロア様、おさがり下さい。」
見上げると星が光り始めている空には、月の姿がない。
今夜は月が輝きを失う新月なのだ。
地上世界において新月の夜だけは、『月の加護』は受けられない。
だが問題ない。私は人類史上最強なのだから。
仮にS級相当の冒険者が相手だったとしても、私に負ける要素は微塵もない。
魔術士の前に出てきた爆乳剣士が刀を構え、腰を落としていく。
緊張感が高まる中、爆乳剣士との間に、美人賢者が割って入ってきた。
「三華月様。私の事は大丈夫なので、どうか戦闘はおやめください。」
「何が大丈夫なのでしょうか。
「そ、それは…」
つい流れに任せて本音と言うかキツイ事を言ってしまったが、終わってしまった事を気にしても仕方がない。
くよくよして考えても事態が解決するわけでもないしな。
うむ。何もかも魔術士が悪い。
あいつのせいにしておこう。
改めて、魔術士へ向けビシッと指をさした。
「アルテミス神が私に告げています。
「よせ、俺に戦う意志は無い。」
「
「…。」
「その
「誤解だ。」
「
存在感が消えていた勇者から「結局は私怨かよ。」と呟く声が聞こえてきた。
だから何ですか。
私の気が収まればいいのだよ。
このロリコン変態野郎はチョッキンしないとだな。
―――――――運命の弓を連射モードで召喚し、更に運命の矢をリロードする。
3mを超える大きさの白銀に輝く弓が姿を現すと、魔術士は観念した様子で爆乳剣士に私を攻撃するように指示を出してきた。
「
魔術士の指示に、爆乳剣士が私に斬り掛かってくる。
私のことを、ただの清純で可愛い聖女だと思っているのかしら。
実際は、超武闘系のスキルを数多く取得している、清純で可愛い聖女なのだよ。
爆乳剣士の相手は適当にさせていただきましょう。
――――――――突然、危険を察知した『未来視』が、爆乳剣士がこれから繰り出してくる攻撃を予測した。
速い!
いや、爆乳剣士からの斬撃に対して、私の反応が遅れたのだ。
体が自分の感覚より遅くなっていることに気が付いた。
かろうじて、爆乳剣士からの攻撃に運命の弓を合わせたものの、力負けしてしまった。
衝撃を踏ん張ることが出来ず、後退してしまったのだ。
ひどく体が重く感じる。
なるほど。これが『アビスカーズ』のステータスダウンの効果というわけか。
感覚的に80%以上のステータスを下げられているものと認識した。
スキル『自己再生』の能力を過信し過ぎていたようだ。
『自己再生』は傷に再生はもちろん、あらゆる異常効果に耐性があり、ステータスダウンの効果を受けるとは考えていなかったのだ。
現在の能力は、B級相当くらいまで下げられてしまっているのかしら。
私に斬りかかってきた爆乳剣士は、C級相当くらいだろう。
ステータスダウンはしてしまったが、獲得しているスキルは使用可能だ。
爆乳剣士からの初撃には対応が遅れてしまったが、状況さえ理解すれば何ら問題ない。
私が敗北する要素は無い。
まずは、魔術士から爆乳剣士を引き剥がさせてもらいます。
『跳躍』にて魔術士から大きく距離をとると、爆乳剣士も釣られて間合いを詰めてきた。
「待て、
もう遅い。
美人賢者では音速の弓矢には対応出来ないと分かっている。
そう。これで私の攻撃から魔術士を守る者がいない。
それでは神託に従い、変態ロリコンを処分させてもらいます。
後方へ深くした跳躍から着地すると、向かってくる爆乳剣士が狙撃線上から外れていることを確認した。
運命の矢を『リロード』し、スキル『ロックオン』を発動する。
運命の弓を引き絞り始めると、ギリギリとしなり始めていく。
そして弓のエネルギーが臨界点に達した。
それでは狙い撃たせてもらいます。
――――――――SHOOT
音を置き去りにして運命の矢が糸を引くように走っていく。
誰も反応が出来ていない。
いや。たった1人。音速で走る矢を補足している者がいた。
魔術士に抱きついていた人狼少女だ。
その瞳が反応し、両手の爪が凶器になっている。
―――――――そして、運命の矢がその爪に撃墜されてしまった。
「お兄ちゃんは私が守ってあげるよ!」
人狼少女はヤルだけの少女ではなく、戦闘力もあったのか。
なかなかやるものだな。
ステータスを下げられているこの状況下で、無理に魔術士を仕留める必要もないだろう。
そうですね。
今日のところは一旦退く事にしましょう。
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