私の家族の物語

猫寝間着

第1話 曾孫誕生と澄麗

 私の名は南澄麗。

御年120歳。

見た目は、まあ50代ってところかな。何故かって、ん〜、いつかは話すことになるのかしらね。

思い出話や現在進行系の出来事も含めてね。

でも、流石に年が年だから、少しボヤケてる所もあるかもしれないわ。

だから先に謝っておくわね。

もし、そうなったらゴメンナサイ、ね。


 今から15年前。

皇紀45年。

私は齢105歳にして曾祖母ちゃんになった。

今日は諸々の検査を終えた孫嫁の菜摘ちゃんが、赤子と共に退院してくるのだ。

出産祝いに、幼馴染みのマー君が経営するレストラン『永遠』を予約していた。

奮発はしていない。

そこは色々あるんだわ。


ん、やけに見目の良い子供がいるが、はて、誰の子かな?ま、いっか。


 先にレストランに到着していた私は、少人数用の個室に通してもらい、今か今かと気もそぞろに視線を泳がせた。

少しして、双子の赤子を連れた二組の夫婦が扉を開けて入ってきた。

息子夫婦と孫夫婦だ。


「母さん、待たせ…。」

ちょっと太めで丸眼鏡。背が低い我が息子、充。

これでも、皇国政府機関研究者。

その充が声を掛けようとした、その時


「お義母さん、ごめんなさい。」


嫁の安曇さんが、横から割り込んだ。

涙を零しながら頭を垂れている。

その隣では、孫嫁の菜摘ちゃんが、泣き腫らした赤い目を伏せている。

孫の一樹は、赤子を私に預けると、サッと菜摘ちゃんの腰を引き寄せ、背中を擦って慰め始める。


私は可愛いひ孫の和琴を胸に抱き、ベビーベッドに寝かせた美琴を愛でながら目を丸くした。


「ちょっと貴方達、何?何のこと?とにかく椅子に座ってちょうだい。落ち着いてから話して。」

私は慌てて、とにかく座ってと言葉を掛けた。


着席してすぐに、安曇さんが口を開く。

「だって、だってお義母さん。この子達、男女の双子なのに、男の子と女の子なのに、二人共に子宮が有るって言うんです。和琴に子宮があるって説明されて…。」

ウッ、と涙で声を詰まらせる。

安曇さん、いつもの冷静さを欠いている。


ショートボブでスレンダー。

顔立スッキリ綺麗系。

いつもは冷静沈着、たまに大胆。

家政学の大学教授さん。

おーい!どーしたー!!


今度は充が

「母さん、その、あの、黙ってて、あの、ごめん。」

充、あなた研究発表とかしてるよね。

何口籠ってるのよ。

ハッキリ言いなさいよ!と、声には出さずにイラッとした。


「実は、検査した奴が大学の同期でね、分かってすぐに連絡がきたんだ。なにかの間違いじゃないかなと言って。そいつが再検査を薦めてきた。それで、僕達4人の遺伝子も調べてもらってたんだ。今日結果が出た。そうしたら安曇の遺伝子が、いつのまにか変化してたんだよ。それと一樹も…。」

あー、口籠った原因はそれ。

研究の当事者に近いから、自分からは伝え辛かったと。

この、意気地なし!


「今では稀な普通性交での夫婦を続けてきた家系なのに、私が、私の遺伝子が何処かで組み変わってたなんて…。一樹に遺伝してたなんて…。」


安曇さん。

あ〜あ、また泣き出しちゃったわ。


でもねー、どうもこうも仕方がないじゃないの。


こんなに可愛い赤ん坊を今更どうするって言うのよ。


思い切って声を掛ける。

「安曇さんのせいじゃないてしょう?いいじゃないの。それにね〜、普通性交で和琴も妊娠出来るかもしれないじゃない。二人共に子を成せるなんて、我が家はこれからも子孫繁栄。安泰だわ〜。」


努めて明るい声で菜摘ちゃんに向けて話す。

「菜摘ちゃん、あと二人くらいお願いね。気長に待ってるから。」

ニッコリと、和琴に頬擦りしながら笑顔を浮かべる。


「お義母さんたら、楽天的すぎます!」

あ、安曇さん、呆れ気味に怒ってる。


「プッ!」

あ、菜摘ちゃん、なにかにツボった。

笑ってくれたか。


菜摘ちゃんの笑顔が出れば、場も納まるかな。

ゆるふわロングヘア、顔立ふんわり可愛い系。

一樹もホッとしてるし、良かった。


 孫の一樹、充ほどではないがチョット太め。本人は筋肉だと言っている。真相は、菜摘ちゃんのみぞ知る、か。

背が高いし、威圧感あるのよね。

でも、菜摘ちゃんが隣りにいるとあ〜ら不思議。穏やかに見えるんだわ、これが。

で、農作物の会社経営者。生産から流通、AIとのやり取りや資金運用などなど。全ての皇国に農地を持ち、ありとあらゆる作物を生産って、我が孫ながら不思議な能力保持者なのよね。

この子、一応農学博士だったよなー。


 そこへマー君がやってきた。

「いつもご贔屓にありがと。スーちゃん♡」

同じ歳で、見た目50代のこの男性は、幼馴染みの東真琴。いわゆるイケオジ。

ホント、渋くて良い男なのよ、実年齢は知らぬが仏だけど。

ん、琴の字が気になるつて?色々あるのよ。色々。


「ん、何か有った?」

室内の暗い雰囲気に、マー君が、家族に気付かれないよう耳打ちする。

「また今度ね。詳しく話すから。」

小声で返す。

小さく了解と頷いて、再び口を開く。


「今日は『永遠』のコース料理を心ゆくまで堪能してって下さいね。デザートも、とびきりのを用意したから楽しみにしてて。ベビーベッドはこの日の為に新調しといたから。あ、既に使ってるか。何かあったらお声掛け下さい。では!」

爽やかな笑顔で、言うだけ言って離れていった。

若い頃から空気読む力は変わってないわ。

所作も流石だわ。

皇国内でも有数の実業家だものね。

相変わらずね。


「さ、外食なんて、久し振りに贅沢してるんだから、思いっきり楽しんで食べましょ。追加もOKよ。」

食いしん坊の私はノリノリで声をかける。


「か、母さん。奮発しすぎじゃない?大丈夫なの?」

あー、それは懐事情のことかな?我が息子よ。

確かにね、高いからね。この店の値段設定。

気にしてくれて有難う。

でも大丈夫。

「ん?気にしないで。この日の為にマー君にお願いしたんだから。」

「幼馴染みだからって、無理強いはだめだよ母さん。」

ん、だから大丈夫だって。

私とマー君の仲はさ、色々あるんだよ、色々…ね。


 45年前から始まったベーシックインカム。

皇国民の平均所得は減り、レストランを頻繁に使うのは富裕層のみとなっている。

月々支給のデジタル通貨『スメコ』だけでは利用など出来ない。

我が家は実際、高位ランク家族なのだ。


 あ〜。それにしても、全くややこしい世の中になったもんだわ。

100年以上生きてきてるけど、国ってのはさ、いつもいつも、想定の範囲外でした。って、それで済ますんだから。

いつかはこうなるんじゃないかって、普通はさ、予測するもんじゃない?

私だって感じてたわ。

心の中で、盛大に一人ごちた。


 今回の出来事の大元は、男性に子宮を作る遺伝子治療だろう。

子は臍帯で母胎と繋がっている。

生命の不思議かな。子の遺伝情報が母胎に反映されたということだろう。

治療者は参加不可だったはずなのに、違反者がいたのだ。

普通に、想定内でしょうよ!

ったく、これだから!!!

これから出続けるんでしょうね。 

普通生殖可能者からの子宮持ち男性がさ。


 55年前

まだ、皇国が帝国と呼ばれていた時代、原因不明の病が、この星の帝国という帝国全てに蔓延した。

多くの帝国民が治療を受けた。

死亡率は高くはなかった。

2年程で騒ぎは治まり平和が戻った。と、思われた。

次の年、病が新型となって、再び現れた。

しかも不思議なことに、旧型で治療を受けた人達に感染者が多く出た。

文字通り、人がバタバタと倒れた。

免疫不全症候群。

実に帝国民の二分の一が儚くなった。


 そして何故か、運良く生き残った人の多くに生殖能力異常症が現れた。普通生殖で子を成せる女性と、その女性を孕ますことの出来る男性が稀な存在となったのだ。

更に、女性は殆ど産まれなくなった。


 病の騒ぎが一段落すると思われた頃、星全体の気温が一気に下がった。

氷期だった。

 

 この星には、島国の第一、第二帝国と、いくつかの帝国がひしめき合う大陸が2つある。

氷期は、北極からの冷気がアッという間に大陸を包み込み、全土を凍り付かせて始まった。

大陸の河という河、湖という湖、全てが凍りついた。

その状態が約2年続き、そこから3年掛けて、ようやく氷期は去った。

そこに暮らしていた有機生命体がどうなったかは語りたくもない。

大陸は今、AIが管理する穏やかな生産国となっている。

何故か帝位継承者は生き抜いたんだよね〜。

ま、世の中なんてそんなもんかー!


 我が国第一帝国は幸運にも?氷期の始まりと時を同じくして、帝国のド真ん中にそびえ立つ帝山が噴火した。

帝山の周辺では死者も出て、それなりの悲惨さはあった。

けれど、大きく括ったら、この噴火は氷期の被害を最小限に抑えたのだ。

それでも、人口は最盛期の三分の一に減ってしまった。


 第二帝国は、元々我が国よりも火山活動が活発な土地柄だった。なので、人々は生き残った。

我が国よりも病の被害が甚大だった為、人口は四分の一程度になってしまったが。


 病と氷期の影響か、各帝国の帝達も次々と儚くなられ、其々、帝太子が即位した。と同時に、有史以来帝国と呼ばれた国々は、『皇国』と名称を改めた。

まるで、総てを忘れ去りたいかのように。


 大陸には殆ど有機生命体は居ない。

居ても、一部の皇帝位継承順位者か、第一、第二皇国からの移住者か、仕事での出張者だ。

氷期の間、AIは独自の変化で危機を乗り越えた。

今では体を持ち、市民として暮らし、生産活動に勤しんでいる。

皇帝とも、まあ、上手くやっているのだろう。


 45年前、第一、第二皇国は大陸と友好関係を結んだ。


大陸の名称も、第三、第四皇国となった。

有機生命体で、か弱い私達の暮らしの多くは、彼らに支えられ、成り立っていると言ってよい。

乱れに乱れた国内の情勢も、少しずつ落ち着いた。

もはや属国と言えるかもしれない。


 そして、ベーシックインカムが始まった。


 普通生殖の能力を残せなかった人々は、学問や仕事力に支障が出るようになった。

集中力や記憶力、読解や計算など、それこそあらゆる面で能力が下がった。

彼らは皇国から毎月支給されるベーシックインカム、デジタル通貨『スメラコイン』略して『スメコ』で生活している。

支給額は一律11万皇(スメラ)。

全ての皇国民、一律同額。

ただし、税率が違う。

ランクの高い者達の納める税金の額は半端な額じゃない。


 私達にはA〜Eのランク付けがある。

Aは、普通生殖可能で、皇国職員か、それに準ずる者。

Bは、普通生殖可能で、大学の教授や実業家。AIと商談を交わせる者。

Cは、生殖可能で、皇国基準の雇用能力を有する者。

Dは、いわゆる夜の営みの仕事に就ける者。

Eは、職能不適格者。働くなと皇国に定義付けられている者。

医者がいないって!そりゃ、AIが全ての診療可能だもの。必要ないでしょ。

農民はって!AI管理で生産してるけどなにか?


仕事は多くの皇国民の手の届かない、遙か遠い存在となったのだ。


 『スメコ』のみで生活しているのは、主にDEランク者で、圧倒的多数者でもある。

そして、彼らには生殖能力が無い。

人工受精を検討されたこともあった。

が、出来なかったのだ。何をやっても失敗に終わった。

そして今、その多くはシェルターで暮らしている。

気の合う者同士で組分けされ、大小の共同体を形成し、助け合って生活する。

共同の墓地もある。

他者と馴染めずに問題行動を起こす者もいるが、別管理され、遺伝子治療を受けて、暫くするとシェルターに戻される。

ここからは、なかなか這い出す事は出来ない。


 人口減少。

皇国政府の取った対策は最悪だった。

男女とも、高校生になると検査が行われるようになった。

女の子には子宮内の状態検査が、男の子には精子の活動検査が行われた。

後に生殖機能検査と呼ばれるようになった。


子を孕めると結果が出た子供たちは、子を望む夫婦への子供提供を目的とした、皇国主導の強制性行為可能法に巻き込まれた。

この法律は、10年間、10人の子供を提供することが含まれ、採択、施行された。

それが終われば自由の身って、何考えてんだー!


 この10年間は、望めば教育機関への通学は許されている。学びたいだけ学べる。

皇国側は、むしろ学んでほしいのだ。

孕める=上位ランク。

知能も高く維持されている。

上位ランク者としての能力の維持と、10年以降も国へ貢献し、皇国繁栄の一助を担ってほしいがために。


だが、精神的に弱い子は途中で淘汰された。

それでなくても、精神的に弱り、ケアを受けながら続ける子が多数を占めた。

強制性行為の相手は抽選で決まり、その相手と、無理矢理事に及ぶのだ。

途中で精神を病んだとして誰が彼等を責められよう。

親類縁者の力が強く、強力なサポートがあったり、生命力が著しく強かったり、反骨心があったり、上位クラスに居続けられる子供達は、大人が考えるよりも芯の強い子に限られた。


男性の体内に子宮を作り、男性が子を産めるよう、遺伝子を組み替えるの治療も始まった。


全ての名目は

《そうでもしなければ、この星から人類が居なくなってしまうから。》


だが、体内での定着率は低く、思ったようには進まなかった。


 彼等は己等の所有物か!

脳ミソの中覗いてみたいわ!!

グチャグチャにかき混ぜてやりたいわー!!!

と、脳内沸騰してた時期もあったけど、今となっては懐かしい。

騒ごうが喚こうが、政策として30年間実施された史実なんだから。


 むか~しよんだBLとか、オメガバースとかのせかいかとおもうよ。

つっこみどころまんさいだわ。

でも、いきてるのよわたしたち。

そう、このくにで…。













 



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