第7話 賞賛も悦楽

振り切るように、ヒューゴはひょいとリヒトごと一度立ち上がった。




彼の脇の下へ手をやって、ヒューゴはリヒトとの立ち位置をずらす。すぐ、今度はリヒトだけを椅子に座らせた。


そのまま、リヒトの前に立つ。


肩に手を添え、彼の身体を軽く向こうへ押した。




リヒトは素直に背もたれにもたれかかる。


荒い息を繰り返しているリヒトのシャツのボタンに、ヒューゴは手をかけた。




丁寧に上からひとつひとつ外していく。




リヒトはなすがままだ。ぐったりと背もたれに身を預けている。


何も言わないが、その視線は、ヒューゴの顔に固定されていた。




じっと見つめられるのは、いつものことだ。


気にせず、ヒューゴはボタンをある程度まで外したところで、シャツを左右に押し開く。






リヒトの裸の胸が露になった。






大きく喘ぐ胸。


その白い肌の中、きれいなピンク色の乳輪が、ふっくらと盛り上がっている。




その頂きで、芯をもってつんと尖った乳首が勃起している様は、花の蕾のようでもあった。



とたん、ヒューゴの濃紺の目が、宝物でも見つけたように、きらきらと感嘆に輝く。


心底惚れ惚れしたといった声で、彼は告げた。






「リヒトはいつもきれいだな。どこもかしこも」








それは、幼子のように本物の、純粋な感嘆―――――手放しの、賞賛の態度だ。








刹那、快楽に蕩けていたリヒトの黄金の瞳が、さらに陶然と潤む。




肉体の快楽というだけでは足りない、心の快楽に酔ったような表情で、うっとりとヒューゴを見つめた。




彼はよくこうしてリヒトを褒めるが、ヒューゴはそのたびいつも、新鮮な感動に満ちている。


視線の先で、ヒューゴはリヒトの胸に顔を寄せた。




リヒトの表情に期待が閃いた途端、ヒューゴが胸にキスを落とす。




「ん」


ぴくり、とリヒトの指先が跳ねた。だが、ヒューゴの行動を止めはしない。





しばらくして顔を放したヒューゴは。




リヒトを真顔で観察。何に満足したか、一つ頷く。


リヒトのシャツのボタンを留めなおしながら、ヒューゴ。






「これで、あとからひりひりしたりしないからな」






人間は脆い。


敏感で皮膚が薄い部分は、どうしても、キツい責めを施せば擦り剝け、傷つく。


目に見えなくとも。そういった細かな傷を、ヒューゴはまめに癒してきた。もう習慣だ。




特にリヒトにはどうしても、過保護になってしまう。






(赤ん坊の頃を知ってるからなあ)






ただ、今ではこうだが、ヒューゴは悪魔だ、治癒らしい治癒など、かつては使ったことすらなかった。


それでも、神聖力で捕まえられたとはいえ、ほとんど大人たちから放置された十歳の子供といきなり二人で過ごすことになったのだ。




使えない、では済まされず、人間だった前世の知識も総動員して、よく熱を出したリヒトの看病に奔走したものだった。


おかげで治癒には特化した。悪魔なのに。




思い出に浸りつつ、ヒューゴはてきぱき作業を続ける。





着替えさせる最中にも、リヒトは肩で息をしていた。

ヒューゴの手の動きを見つめながら、無意識のように言葉を紡いだ。




「好き、だ、」




ヒューゴの濃紺の瞳が、上目遣いになってリヒトの顔を映す。


上気した頬に、潤んだ瞳。


濃密な色気漂う眼差し。




その上で先の台詞とくれば、恋人同士の睦言のようだが、






(会話の流れとリヒトの性格からして…『ヒューゴは僕の精気が好きだろ?』とかそういう)




―――――皮肉や嫌味だろう。ちなみにリヒトは負けん気が強い。






確かに悪魔にとって、神聖力に満ちたリヒトの精気は極上品だ。


しかも体液ともなれば、涎を隠す悪魔はいない。否定する要素はなかった。




不思議なものだ。


神聖力として外に現れた力を振るわれたなら悪魔にはこれ以上ない攻撃になるのに、それが満ちた血と肉は、ご馳走になるとは。






「はいはい」






軽く言って、ヒューゴは手際よくリヒトを着替えさせる。
















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