第5話 わるくちよりうたがききたい

× × ×














日の出の時間。




洗い立ての真っ白なシーツがたなびく合間。








褐色の肌の青年が、鼻歌交じりに歩いている。




長身。


首には、革の首輪。


楽し気な瞳は濃紺。




懐っこそうな笑みを浮かべた唇からは、歌が呑気で惚けた旋律に乗って零れる。




機嫌の良い声は、優しく柔らかかった。








手には大きな空の籠。


着ている衣服は簡素でみすぼらしいが、清潔だ。




格好など特に気にしていないのだろう、彼の黒髪は、あちこち跳ねていた。




それを撫でつけるためか、無造作に前髪へ伸ばした手の下、何を見つけたか、濃紺の瞳が一か所に固定される。


歌が止まる。


続いて、足も。




次いで、唇の端だけ上げて彼は笑った。








「なんだ、今日も来てたんですか」








シーツを干している近くの、木の根元。


五歳くらいの子供が、膝を抱えてうずくまっている。




膝の間に顔を落としているから、表情は見えない。


輝くような銀髪が、春でもこの時間はまだ冷たい風にさらさらと揺れている。






「また一人ですか。せめて侍女の一人でも連れて歩いてくださいって言ったでしょう」






離れた場所から子供を見遣り、青年。


呆れた声。




敬語ではあるものの、敬意と言ったものはない。


ただ含まれるものは悪い感情ではなく、近所のお兄さんと言った雰囲気。






気安い態度に子供が返す反応も、幼子らしいものだった。






「…みんなわるくちばっかりだもん。どうせきくなら」


ぼそぼそと不貞腐れた声で、子供。








「あなたのおうたがいい」








「悪口って?」




気楽な青年の問いに、子供は顔を上げた。


その瞳は、黄金。




鏡のような澄んだ双眸に映ったのは青年の姿―――――だが。








朝の光の中、青年の足元に伸びる影は、人の形をしていなかった。地面へ向いた青年の目が惚けた様子で瞬くなり、それは人の形を取り戻す。




気付いた様子もなく、子供がわずかに逡巡。すぐ、思い切った態度で一息に言った。








「母上が、父上をころそうとしているって」




「安心してください。そんなの、」


そんな話、天気の話と一緒と言った態度で、青年はにこり。








「言うほど簡単な話じゃないですよ」










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