追憶

@kanzakiyato

追憶

『行ってきます』


と君が言う。僕が、


「気をつけてね」


とそう言う前に君は家を出て行った。

今日は結婚して1年記念日。料理も掃除もできない僕は何ができるんだろう。

夕方、君が帰ってきた。君の右手にはシオンの花が握られていた。

君は僕の前に座って、


『帰ってきてよ』


と君は泣いていた。僕は、


「おかえり。どうして泣いているの?泣かないで。僕はここにいるよ。」


と返す。


「ねぇ泣かないで。」


そう呟くも君の瞳からはまるで、止まることも知らないかのように、

ポロリ、ポロリと大粒の涙が零れ落ちる。

僕はもうこの声を君に届けることができないのだ。

なぜなら、

━━━━━━━━僕はもう、死んでいるから。

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