第7話 幼なじみは家族同然!?

「大事な話がある」


 ユルーゲルが応接室を出て行くと、ロニが話しかけてきた。


「何か問題でもあった?」


 いつもの台詞だが、どこか硬い口調にジェシーも、少しだけ緊張した。


「何故、魔法を依頼した者を探すんだ?」


 あぁ、そのことか、とジェシーは長椅子に座り、隣を叩いた。その場所に、ロニは静かに腰を下ろす。


「私の目的を邪魔されないためよ」

「目的?」

「ロニだから言うけど、私は回帰前の生活に戻りたいの」


 口に出すと、急に恥ずかしくなり、膝の上で両手を組んだりしながら俯いた。


 だって、


「国外追放を望んでいる、なんて可笑しいかしら」


 こんなことを考える令嬢など、どこを探してもいないはずだから。


「そこに俺がいるのなら、別に可笑しくはないよ」

「勿論、いるに決まっているじゃない! 回帰前はロニだって一緒にいたんだから、むしろいないと困るわ!」


 ロニは、幼い頃から傍にいることが、当たり前の存在だった。

 同い年でもない、二つ年上のロニとそういう関係になれたのは、偏に四大公爵の家に生まれたこと。そして、その一角であるゾド家に、セレナが生まれたからだ。


 四大公爵家には、それぞれ役割があった。

 我がソマイア家は、学者兼魔術師の家系。騎士のマーシェル家。代々宰相を輩出するメザーロック家。最後に、歴代王妃の家系であるゾド家である。


 つまり、ゾド公爵家に女の子が生まれたということは、次期王妃を意味する。その補佐役として、四大公爵家の年の近い子供たちは、幼い頃から交流させられるのだ。


 集まると自然に、二つ年下のセレナが中心となって、五つ年上のサイラスが、私とロニの面倒も一緒に見ている。そんな関係だった。


「一緒、か。……良かった」

「そうよ。何を言っているの?」

「だが、国外に住むだけなら、わざわざ追放される必要はないんじゃないか?」


 確かにそう思うのは不思議なことじゃない。ソマイア家は、弟のカルロが家を継ぎ、マーシェル家に至っては、ロニは次男である。家に縛られる必要はなかった。


「でも、セレナに何かある度に、呼び出されるのよ、サイラスに」

「あぁ、そうか。俺たちは補佐役だから、それは避けられないか」

「だからといって、セレナがどうでもいい、というわけじゃないのよ」

「知ってる」


 そう言って、ロニはジェシーの肩に頭を乗せた。


「ただ、創作活動に専念したいだけで……」

「そこに俺はいていいだよね」

「さっきも、そう言ったじゃない」


 ジェシーも頭を傾けて、軽くロニの頭に当てた。


「なら、犯人を捜さなくちゃいけないな」

「それもさっき言ったわよ」


 何を言っているの、と言おうとした瞬間、ロニの体が目の前に倒れ込んできた。慣れた調子で、長椅子の端に足を置き、頭をジェシーの膝に乗せた。


「どうしたの? 剣の練習でもしたわけじゃないのに、疲れることなんてあった?」


 ロニとはよく、一緒に鍛錬をしていた。私の魔法とロニの剣。幼い頃から遊びのようにしていた後、いつの間にか、このような体勢で休憩することが、通例になっていた。


「うん。安心したからかな、凄く疲れた気分なんだ」


 そう言って、不貞腐れたように顔を背けた。そんなロニの髪を、ジェシーも慣れた手つきで触れる。


「よく分からないけど、昨日は慌ただしかったものね」


 ロニは空いた方のジェシーの手を、自らの方へ引き寄せる。その行為もよくあることだったので、驚くことなくジェシーは、ロニの髪を撫で続けた。



 ***



 目を閉じて、仰向けになってからどれくらいが経っただろうか。ふと、頭からジェシーの手の感触がないことに気がついた。


 代わりに聞こえてくる、寝息。そっと目を開けると、ジェシーの顔が近くにあった。


「ジェシー?」


 声を掛けてみたが、返答はない。どうやら、ジェシーも寝てしまったようだ。


 ロニは起き上がり、一旦ジェシーを横に寝かした。


「男と認識されていないのも、辛いもんだな。サイラスの気持ちが、よく分かるよ」


 他の者に対しては、警戒心を怠らないジェシーが、自分の前では、こんなにも無防備になる姿を見て、ロニは溜め息をついた。


「ここまでしても、気づかないんだから」


 それでもロニは、ジェシーの体を抱き上げて、部屋へと連れて行くのであった。

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