第3話 釈迦如来 降臨

 ゆめタウンの屋上のパ-キングに到着した。


 ゆるりと車を降りた涅槃ブッダは、周りを見渡し、立ち位置を決め、両脚を踏ん張り、両手を頭上で重ねた。


「はじめるぞ!」


そう言うと、重ねた手に力を集中させ始めた。


(ビリ、ビリ、ピカッ……)

「うおおおおおおお-」


 その瞬間、屋上に止めてある車はすべて吹き飛んだ。屋内の車も行き場もなく飛び散らかした。


「うおおおおおおお-」

 もうモグが知っている涅槃ブッダではなかった。


「モグ、メモってくれ」

「え?はい」


「75.3589521582368527412853985296h」

「はい」


「338.219855255236987552939852007h」

「はい」


「だぁ。出たな。約3日と約2週間だ。さて、どうするか。モグ、お茶ちょうだい?」


「はい、買ってきます」

「ホットお願いします」

「はい」


「ブッダ様達が集まるのに要する時間は3日と観てる。集まった時には西方極楽浄土から最短の惑星はもう消滅していることになるのか……2週間後には地球が……どうすれば……」


「はい。涅槃ブッダ様」

「ありがとう。わぁ、これ冷たいやん」

「だってホットは売り切れだったのよ」

「え~~ホットがいい」


「……あんたね!普通こんな時にわがまま言う?」

「わかったよ。冷たい冷たいのを飲むよ」

「何?そのむかつく言いかた!」


「モグとのこういうやりとりが好きだったよ……」


「何よ?お別れみたいな言い方?」


「モグ、これから僕は最大パワ-で宇宙に涅槃回廊を作る。ブッダ達が地球まで最短距離で来れるよう回廊を作るのだ。この回廊を使えば地球まで2日でみんな集合できる。要は回廊を塞ぐ惑星を全て移動させるんだ。僕の力が尽きたらブッダ様に連絡してくれ。全てのブッダ様に涅槃回廊を進むように連絡してと……」


「てっちゃん、死ぬの?」


「そうだ、諸行無常。誰も100%死ぬのだ」


「いやよ……」


「そして2日後に35歳になって生まれ変わる。それで間違ってないですよね??

ね?釈迦如来様?」


「釈迦如来???」


『アハハ、君たちオモシロいね!それでいいと思うよ。アハハ、好きにすれば……』


「え~、釈迦如来様の言うとおりにやったのに!」


「釈迦如来様?2日後には生き返る?しかも若くなって?泣けるわけないじゃない!もう私には訳が分からん!」


『まあ、モグとやら落ち着け。涅槃ブッダは回廊を作って早く死になさい。復活するまでは成り行きをぼ~と見ててあげるから。ただ時間はないぞ……』


「はい」

(この非常事態なのにこの余裕綽々な態度はなぜだ。初めて相談したときも慌てることはなかった。力は阿弥陀仏と矜持するとでもいうのか……?)


 涅槃ブッダは先程と同じ姿勢を取り、天に向かって全パワーを送り込み続けた。


「うおおおおおおお-うおおおおおおお-」

「む?うおおおおおおお-」


「あ~なんか大きくて動かない奴があったのかな?」モグ


「うおおおおおおお-む?うおおおおおおお-」


「あ~また。大丈夫なのかな?あ?でもいざとなったら釈迦如来様が……ちら。スマホでゲームしてる!」


「なんかウンチしてる時ににているな~。ウンチの時は最後に決まっていうのよね……」


涅槃ブッダ・モグ「う・ま・れ・る!」


 涅槃ブッダは涅槃回廊を作り終えた。

 

 山口 哲也は双極性障害とギャンブル依存症に苦しんだが最期はブッダ最高境地「涅槃ブッダ」として80歳の生涯を閉じた。悲しむ者は誰もなく今、流行の家庭葬でごくごく簡単に済ませた。借金はまだ完済していなかった。

「生命保険で完済してください」それが妻への最後の言葉だった。「ごめんね」


 釈迦如来様は終止ご機嫌で、

『こやつ、気に入った』と涅槃ブッダ様の復活をお待ちになった。


「釈迦如来様がおいでになったということは……他のお方様もおでましになられるのね???ひょっとしたらあの究極奥義を観られるかも???」

 

 モグはひとり興奮しながら、これから100万人が集まる部屋の掃除機がけをしていた。


「お掃除。ひ・さ・し・ぶ・り」



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