新説巌流島~宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか~
デバスズメ
~宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか~
宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか。その答えは、誰もが知っている巌流島の決闘に隠された歴史だけが知っている。
「遅いぞ武蔵!」
「待たせたな小次郎!」
佐々木の待つ砂浜に宮本の小舟が到着する。あえての遅刻という作戦が功を奏したのか、すでに佐々木の心は落ち着きがない。
……いや、佐々木の心は別の意味で落ち着いていなかった。
「来ましたよ来ましたよ小次郎さん!いよいよ世紀の決戦だーっ!」
「あのな」
「はい!」
「もう少し静かにしてくれないか?」
「はい!すみません!」
「お前さんが俺に憧れてるってのはよーく分かった。分かったんだが、よく俺より先に巌流島にたどり着いたな」
「そりゃあもう、小次郎さんの予定はすべて確認してますから!推し活の基本は応援、ならばこの決戦を応援しないでどうしようというのでしょうか!」
「今日の決闘は一部の者にしか伝えていないはずだったが……」
「はい!なので情報を掴むのがとても大変でしたよ!」
「いやそうじゃなくて、なんでお前が知ってたのかってことだよ?」
「……」
「急に黙るな!怖いだろうが!」
「はい!すみません!」
「返事だけはいいんだがな……」
「おい、小次郎、そろそろおっ始めねえかい?」
「ぬ、そうであった。どうにも調子が狂うが、しかし、刀に狂いは無しというところ、お見せしよう」
「しからばこちらも二刀流でお相手……」
「で、出たー!宮本武蔵お得意の二刀流!これが生で見られるとはーっ!」
「……やっぱやめ。一刀で行くわ」
「ええーっ!?せっかくの二大剣豪揃い踏みなのに!?」
「これみよがしに二刀流を見せつけるみたいでなんだかな……」
「ちくしょーっ!小次郎さん!武蔵のやつ、小次郎さんのこと舐め腐っていやがりますですよ!?」
「何だその口調は」
「んなこたぁどーでもいいんですよ!小次郎さん!小次郎さんは本気でやってくれますよね!」
「……お前さんの真っ直ぐな瞳で見つめられると、困るな」
「ってことは……!」
「どのみち他の武器は持ち合わせていないゆえ、これ一刀で戦うのみ」
「おわーっ!で、出たーっ!噂に名高い物干し竿!聞きしに勝るその長さ!圧倒的な存在感!構えただけで迫力が違う!なんという素晴らしさだぁ!」
「ちいとばかり黙っちゃくれねえかな……」
「はい!すみません!」
「それじゃあ、今度こそ始めるか、小次郎よ」
「ああ、始めようか、武蔵。お前さんを破るために編み出したこの秘剣、破れるかな……?」
「出たー!必殺、燕返しの構えだーっ!上段からの切り下ろしで相手をひるませてからの切り上げはまさに必殺の初見殺しだぁ!」
「お前さんこのやろう!初見殺しをバラしちまったらもう初見殺しじゃあねーだろーが!」
「あ!!!!!!!!!!すみません!!!!!!!!!!」
「……どうするよ、佐々木」
「どうするって言ってもなあ……俺はこのまま続けてもいいんだが」
「まあ待て、こっちは獲物を変えさせてもらうぞ。こっちだけが手の内を知ってたんじゃあ真剣勝負ってわけにもいくめえよ。よろしいか?」
「かたじけない」
「そういうことなら……こっちはこの木刀でいくわ」
「いやなんだよそのやったら長え木刀は!?」
「こんな事もあろうかと用意してきた長刀対策の木刀よ」
「なんてやつだ!き、きったねえ!小次郎さん!あんなやつコテンパンにやっつけてくださいよ!」
「元はと言えばお前さんがこっちの手の内をバラしたからこんなことになっちまったんじゃあねえか!」
「……」
「急に黙るな!怖いだろうが!」
「はい!すみません!」
「返事だけはいいんだがな……」
「で、どうする小次郎?まさか今更『やっぱりやめた』とは言わぬよな」
「ぐっ……ええい!やってやろうじゃあないか!」
「さすが男前!小次郎さん!やっちまえー!」
「喰らえ!必殺燕返し!」
「小次郎さんの上段からの切り下ろしだぁ!だけど武蔵の木刀の方が長い!がら空きの小次郎さんの頭に武蔵の木刀が襲いかかってしまうーっ!」
「ぐはあ」
「やられたーっ!こ、小次郎さんがやられちまったぁー!ばったりと倒れて動かねぇー!」
「おい、そこの」
「は、はい!」
「俺は帰る。小次郎の介抱をしてやってくれや」
「はい!!」
……その後も小次郎はわけの分からぬ推し活とやらに巻き込まれ続けるのだが、実際に何が起こったのかは隠された歴史だけが知っている。
宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか。その答えは、第三者の介入によって不殺武器を使用していたからである。
おわり
(諸説あります)
新説巌流島~宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか~ デバスズメ @debasuzume
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