第58話 ささやかな祝勝会
剣闘大会の後、俺の家でささやかな祝勝会を開いた。
俺を含めたエルドルド家、従者、そしてライ、フィーネ、ギルが集まった。父上はいつもより酒が進んで、母上に随分と甘えていたが、ミゲルの手刀によって気絶させられていた。そして、ライがミゲルを少し引き気味に見ていた。分かってくれたか、ライよ。ミゲルはやばいんだぞ。特に俺と父上には。普段は主従関係が成り立っているが、俺たちが何か良くないことをした時には容赦がない。俺たちにどこまでやっていいのかを分かっているところがまた怖い。
父上が寝たことで、明日も早いということで、少し早い時間でのお開きとなった。
ラザロの一件で少しモヤモヤは残るが、結果はライの勝利。これだけで継承権争いが優勢になるとは思えないが、少なくとも現在の状況より悪化するのは避けられた。
しかし、問題はライの勝利を周りの貴族がどう思うかだ。別に、ラザロの剣術が優れていないという訳ではない。ただライがラザロを上回る勢いで成長したというだけの話だ。
ライを操りにくい人間だと思い第一王子派閥に流れる者。
その反対に、期待して第二王子派閥へ鞍替えをする者。
今回の試合が継承権争いの状態を変化させることは間違いないだろう。
ライにとってはチャンスでもあり、ピンチにもなり得る。今まではライ自らが派閥の動向をチェックできていたが、派閥の人間が増えるとそれも難しい。
これからはライの真価が試される事となる。俺はそれを精一杯側で支えることしかできない。俺が何か表立って行動を起こすことはしない。だが、今はそれでいい。
◆
「おはよう、カイル」
母上の声で目を覚ました。いつぶりだろうか。とても懐かしく感じた。
「おはようございます。母上」
いつもと変わらない笑みを浮かべて俺を見る母上。やっぱり俺はこの人のもとに生まれたのだと改めて認識する。
前世は前世だ。今はカイルとして生きている。本当ならこんな経験は出来なかった。
神様に改めて感謝を込めて手を合わせる。
「何をしているの? もうご飯は出来てるわよ」
「あぁ、すぐ行くよ」
◆
「おはよう! カイル! マリア!」
「おはようライ、フィーネ」
学園前の待ち合わせ場所ではライとフィーネが既にいて、談笑していた。二人は本当にお似合いだと思う。俺にもそういう相手ができればとは思っているが、その日が来るのはまだまだ先だろう。
「ギルは?」
ライがそう聞いてきた。確かに今日ギルは見ていない。何か用事でもあるのかもしれない。
「今日は見てないな。何か用事でもあるんじゃないか?」
「そうかもね。じゃあとりあえず僕たちだけで出店を回ることにしよう」
「そうだな」
「それでいいと思うわ」
元々今日はギルと一緒に巡ることにはなっていなかったし、来れたらでいいと伝えていた。ギルにはギルの都合があるからな。
「じゃあ行くか」
「はい!」「あぁ」「ええ」
◆
「あ、カイル! あっちに焼き鳥の屋台があるよ! 行こう!!!」
ライにとっては祭りは初めての経験だ。走り回ってしまうのも分かる。
「ちょっと待ちなさいよ!」
フィーネがちょっと待てと言いながらライの後を追う。
「本当にお似合いな二人ですよね」
マリアがそんな二人を見て、口にした。
「あぁ、そうだな。俺もいつかそんな相手ができればいいがな」
「本当なら私が隣に立っていたいのですが......」
「ん? なんか言った?」
「いえ! 私たちも後を追いましょう!」
「そうだな」
マリアの呟きは幸か不幸かカイルの耳には届かなかった。貴族と従者との恋愛。まるで絵本の世界の様だ。しかし、現実はそうは甘くない。マリアも身分の差を理解しているからこそ身を引いている。
2人が結ばれることはあるのか。それはまだ誰にも分からない......
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