第55話 剣闘大会 決勝戦 直前
あれから少しして、Bクラス対Dクラスの試合が開始された。
試合を見るライの表情は先程の暗い顔とは異なりすっきりした表情だった。何かライにも思う所があったのかもしれないが、俺には分からない。
試合は一方的だった。Dクラスの者がただただやられるばかりで、Bクラスの奴らは観客に見せつけるかのようにDクラスの奴に攻撃を加える。傍から見るといたぶっているようにしか見えない。上がっていた歓声も徐々になくなっていき、決着がついた頃には、Dクラスの奴の体は血だらけで気絶していた。審判の決着の声だけが会場に響くのみだった。
Bクラスが二勝して、大将戦を残すのみだったが、Dクラスの棄権により、大将戦は行われず結果は、Bクラスの3戦全勝となった。
結果だけは俺たちと同じだ。しかし、内容は大きく異なったものだ。剣闘大会はお互いの全力を出し切り、勝敗を決めるものだ。立ち上がってこない相手をボコボコにするのは剣闘大会の趣旨にそぐわない。しかし、アバンスノット侯爵家の嫡男がいるBクラスに意見できるものなどおらず、後味の悪い結果となった。
俺たちは静かにBクラスとの対戦に備えた。それぞれの気持ちを高めるために。
◆
コンコンッ
「Aクラスの皆様、決勝戦の時間となりました。ステージの方に移動をお願いしますっ!!」
遂に戦いの時がやってきた。
皆会話しない程、己に集中している。一種のゾーンに近い。だが、言葉を交わさずともその想いが伝わってくる。
武人の端くれとして、あのような戦いを見せられたことに皆腹が立っているのだ。
ステージに向かっていると、Bクラスの者と鉢合わせた。
ラザロはこちらを嘲笑い、余裕の表情を浮かべている。
こちらはBクラスの面々に軽蔑の意味を込めた睨みを利かす。
「これはこれはライノルド殿下。このような場所で会えて光栄です」
口では敬っているようだが、俺たちには、ライを侮辱しているようにしか見えない。
「ラザロ、君たちは許されないことをした」
ライが静かな怒りを灯しながらラザロに告げる。
「は? なんのことでしょう? 私は何もしていませんよ?」
「嘘をつくなっ!!」
「ライ」
熱くなるのは仕方がないが、それを表に出して、突っ走ってしまえば、こちらの負けだ。
それにラザロがCクラスの奴らを脅したという証拠はない。
「すまない。少し熱くなってしまったようだ」
ライも馬鹿なやつではない。何か俺たちより思うところがあるのだろう。
「それよりライノルド殿下。まさかまた先鋒で出るわけじゃないですよね? 仮にも貴方は王子ですよ?恥ずかしくはないのですか?」
実に嫌な言い方だ。だが、これは挑発だ。安易に乗るべきではないだろう。俺の推測ではライとラザロが戦ったら、勝率は五分だ。従って、いま戦うのはあまり得策ではない。
「僕たちのクラスは身分関係なく強さで序列を決めている。その挑発には乗らない」
「挑発なんかじゃありませんよ? 忠告です。王子が決勝戦でも先鋒だなんて我が国の貴族からすれば恥ずかしいじゃないですか。どうするかはライノルド殿下がお決めになってください?」
ラザロが言っていることはあながち間違いではない。王子が先鋒として戦うのは本来推奨されるべきことではない。しかし、剣闘大会は、強さにより決めるという規定がある。本来、今のライの実力なら他のクラスなら大将にもなれた。しかし、Aクラスは俺とギルがいる。そのため、先鋒という形になったのだ。仕方のないことだ。
「カイル、すまないが、大将を交代してくれないか?」
「俺は良いが、ライは平気か?」
「あぁ」
「ならライが大将だ」
「ありがとう、カイル。ラザロ、助言感謝するよ」
「いえいえ、ではまた」
そう言うと、ラザロ達はステージへと向かった。ラザロの顔は歪んでいた。
ライが大将として戦うのは正直賭けだ。
ライが先鋒として出てしまえば、ラザロらによって、逃げ腰なライは王子に相応しくないと言われて、継承権争いに負ける可能性が上がる。
しかし、ライが大将として出ることで、逃げ腰であるとは言われない。だが、ラザロとライが戦うことになっても、勝率は五分だ。
ラザロは実技の模擬戦でライを負かした。そして今でもライは大したことがないと侮っている。突ける部分があるとすれば、そこだ。
正直どうなるかは分からない。勝てば、ライは継承権争いを有利に運ぶことができる。しかし、もし負けるようなことがあれば、ラザロが勝つことになり、名声はラザロに集まる。その結果、第一王子派閥に勢いをつけてしまう。
ライはそのリスクを承知した上で大将になると決めたのだ。俺がとやかく言えるようなことではない。
――剣闘大会決勝戦は、王位継承権の今後を決める大きな転換点となる。
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