第54話 幼き頃の記憶(ライ)
俺はCクラスの奴らになんて声をかければいいか分からなかった。結局Cクラスの控室には行かず、ライたちの待つ控室へと戻ることにした。
◆
「どうだったの? カイル」
当然聞かれることは想定していた。言うかどうかは迷ったが、隠し事はなしにしておきたかった。それから、先程の事実をライとギルに話した。
「ラザロが……ね」
「ラザロって実技でライを痛めつけてた奴か。そんな屑野郎だったとはな。腹立たしい」
ライは少し悲しそうな眼をしていた。王族と侯爵家は深いつながりがある。ライは俺たち以上にラザロのことを知っているのだろう。今回のことは流石に無視できない。私情で権力を行使するなどあってはならないことだ。王族であるライには叩き込まれていることだろう。
ギルは見るからに怒っているといった態度だ。将国は模擬戦、一騎打ちを神聖なものとして扱う。将国は強いものが統べるという文化を持ち、これまでも多くの一騎打ちが行われたことだろう。純粋な力の勝負でどんな手を使ってでも勝とうとしたそのラザロの行動に腹が立っているようだ。
「今回のラザロのやり方は到底容認できるものではない。これからも何かしてくるかもしれない。皆、警戒してくれ」
「うん」
「おう」
◆
僕とラザロは、昔はそこまで悪い仲じゃなかった。関係が変わってしまったの僕とフィーネの婚約が決まってからだ。
それまではライ様、ラザロと呼び合い、庭を駆けずり回っていた。その時は未だ身体差はなく、楽しく遊べていた。
しかし、フィーネとの婚約後、僕の方から声をかけようとしても、睨まれて避けられた。フィーネと共に歩いていた時は、いつもより強い睨みを僕にぶつけて去っていった。
僕は人の感情を読みとるのは得意な方だった。些細な仕草からでも相手が何を考えているのかが見て取れた。継承権の争いになった時に、僕の派閥の全員と顔を合わせたのはその力があったからだ。一度話せばその人間がどういう人で僕のことをどう思っているのかが分かる。
ラザロは恐らくフィーネに恋心を抱いているのだと思う。だから、フィーネの婚約者の僕が嫌いになったのだろう。気づいているのは僕くらいだろうけど。
そして、今。ラザロは兄の派閥の筆頭貴族の嫡男として。僕は第二王子として敵対関係という訳だ。ラザロは捻じ曲がった感情を僕にぶつけている。僕がいなくなれば自動的にフィーネを自分のモノにできるだろうという予測のもと。しかし、フィーネは僕がいなくなってもラザロのもとに行くことはないだろう。フィーネはとっくの昔にラザロのことを敵として認識しているのだから。捻じ曲がった愛情が今の状態を生んだのだ。
しかし、ラザロがここまで周りが見えなくなっているとは思わなかった。権力を用いて脅すことにはリスクが伴う。もし脅していることが明るみになればその家の信頼性は地に落ちる。そして、貴族全体が不利益を被ることになる。だから人を脅すときには慎重にならなければならない。
しかしラザロはどうだ。恐らく何も考えずに突き進んでいる。
ただただ力を享受している者は、自分を律する必要があると僕は考えている。平民より遥かに自分を律し、周りの人間のことを考えて動かなければならない。高位の貴族であればあるほど重要なことだ。王国も建国されてもう長い。いつの間にか貴族自身が腐敗してしまったのだろう。
兄が国王になれば、貴族至上主義は更に加速し、結果、王国の滅亡をもたらすだろう。その事態を避けるには、僕が国王になるしかない。
そう考え、今まで行動をしてきた。カイルのような善良な貴族もいる。僕はカイル達と共に国王になると決めた。そのためなら何でもする。例えラザロを犠牲にしたとしても……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます