第47話 剣闘大会に向けて
今はギルバートと共に同好会の活動場所でもある訓練場まで移動している。
「なぁ、将国ではなんて呼ばれてたんだ??」
「ん? あぁ、ギルって呼ばれていたな」
俺との会話にも慣れてきたようで、普通に会話ができるまでにはなった。
ギルと呼ばれていたのだな。まぁ、普通っちゃ普通だな。
「じゃあ、お前のことをギルと呼ぶことにする。改めてよろしくな!」
そう言って俺の方から手を出す。
「あぁ! よろしくな! カイル!」
ギルも応えるように俺の手を握る。そこに先程の恥じらいの様子はなく、凛々しいギルだ。
手にはマメができており、鍛錬を積んできたことが分かる。ギルの方も俺の力量が分かったようで、楽し気な表情を浮かべている。ギルとはいい関係を築けそうな気がした。
手を引くと、また歩き始めた。
「それはそうと、自己紹介ちゃんとできるか? 俺等の同好会に」
「で、できるぞ?」
ギルの顔は、一気に真っ青に変わった。毒物を食べたかのような青さだ。ギルはどれだけ人見知りなんだ…… はぁ。
「無理はしなくていいからな。しっかりフォローしてやる!」
「ほんとか!? 頼むっ!!」
ギルの扱い方が掴めてきたな。案外気難しそうに見えて、単純だ。いじっていて飽きないな。
「はははっ」
「笑うなっ!」
ホントに面白い奴だなぁ
◆
「遅くなってごめん」
訓練場に足を踏み入れると既に皆アップを始めていた。ライも今では様になっている。あどけない様子からは考えられない程洗練された素振りになった。今ではフェイクの出し方も上手くなっていて、充分に戦えるレベルにまで持ってこれたと言えるだろう。フェイクを磨けば、体格差がある敵に対しても優位に戦える可能性が上がる。以前のラザロとの戦いに比べれば、厄介さは比じゃない。
ちなみにフェイクの師匠はミゲルだ。あのミゲルが教えるのだから、厄介極まりない。
フィーネもマリアと同レベルまで魔法を扱えるようになった。フィーネは火魔法の才能がAだから、光魔法がBのマリアに追いつくのはある程度予想ができたことだ。同年代ではマリアとフィーネが一番だと思う。
アレクとミゲルは……まぁ、言うことなしだな。
俺の声で、皆が気づいたようで、ライが俺に近寄ってくる。
「いいよ! 僕たちもアップ済ませちゃったしね。それで……」
ライも気になっているようだ。俺の後ろで顔を真っ赤にして緊張しているギルのことが。
「あぁ、新しい会員になるかもしれないやつだ。あぁ、こいつは超がつくほどの人見知りみたいだから優しくしてやってくれ」
「おい! カイル!」
俺の発言に気に入らない部分があったようで、ギルは、抗議の声をあげる。俺としてはフォローしたつもりなんだけどなぁ。
「ほら! 自己紹介!」
「無視するな! あ! ぎ、ギルバートと言います…… よ、宜しくお願いしますっ!!」
ギルらしい自己紹介だった。やっぱり自己紹介は慣れないみたいで、顔は真っ赤なままだ。まるで茹で上がったトマトのようだ。
ギルにしては良くやったぞ!
ライたちは、ギルの顔からは想像できない自己紹介で、口をポカーンと開けている。一番復帰が早かったのがライだ。
「ギルと呼んでやってくれ! 俺の中では、もう入会でもいいと思っているが、今日一日は仮体験ということにしようと思う!」
ライは、ギルの近くに寄り、ギルの正面に立つ。
「僕はライ。 よろしくね。ギル!」
2人は握手を交わした。
ライの晴れやかな笑顔にあてられた影響か、ギルの顔も心なしか緩んでいた。ライの笑顔は眩しすぎるからな。緩むのも分かる。
「ギルか。俺は、アレクだ。早く模擬戦しようぜ!」
アレクが先輩ズラしてる! 案外様になるものだな。ギルにはこういうタイプの方が相性がいいのかもしれない。
「へ?」
「いくぞ!」
半ば引きずられるように、ギルがアレクに連れていかれた。
アレクは頭は俺とミゲルに比べたら弱いが、直感は俺たちよりも鋭い。ギルが鍛えがいのあるやつだと分かったのだろう。アレクは村出身だから、こういう奴の扱い方も分かっているだろう。
とりあえずはアレクに任せることにする。ミゲルも孤児院にいたじゃないかと突っ込まれそうだが、ミゲルに教わると碌なことにならない。ギルまで性格が曲がればもう手に負えない。
ライはああ見えてしっかりしてるから、ミゲルには染まっていない。ミゲル残念だったな、とばかりにミゲルに視線を送ると、口角を上げて笑ってきた。
やっぱこいつはダメだ!
「カイル! ギルってあんな感じだったんだね。僕びっくりしちゃったよ~」
「正直俺も初めて話しかけられた時は、戸惑った。でも、ライが認めるということはギルは悪い奴じゃなさそうだな?」
ライの観察眼については、フィーネから話を聞いた。ライの観察眼は俺も信用することに決めた。なぜなら、ライに擦り寄って、ライが突っぱねて派閥に入れなかったのが、第一王子派閥に入っていたりするからだ。本当にライを応援しようとするやつは、第一王子派閥なんかに入るはずがない。所詮は勝ち馬に乗りたいだけの奴ということだ。
そういう訳で、的確に人を見て、信頼に足る人物かを見極めることのできるライの観察眼を信用しているのだ。
新たにギルを同好会のメンバーとして迎え入れたカイル達は、剣闘大会に向けて調整を始める......
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